三ゲーム目

　そして第三ゲームが始まるころ。

　これを取られたらもう負けだ。

　相手はかなり余裕そうに素振りをしていて、リラックスしている。

　このままいけばどうやっても勝ちだから、むしろ体力を使いすぎないようにしようとか考えてそう。

　

　予選を流して走って決勝に備えるめちゃくちゃ強い陸上選手みたいだ。

　だけど羽菜は今から強くなるから、そんな省エネなモードにはさせない。

　相手がサーブを打った。

　羽菜のフォア側。

　羽菜のフォアは今日はミスが多いからな。でもまずは確実に返すことを頑張ろう……と思ったら。

　回り込んでバックで打った。しかも横回転。

「えっ」

　相手は戸惑って、台からずれたところに打ってしまった。

　羽菜のポイント。しかもちゃんと、決められた。

　でも今、相手はバックの横回転に対する備えはなかった。

　今度は備えてくるだろうからな……。

　相手のサーブは次は羽菜の真正面。

　普通ならバックで返すと思う……うん、羽菜はバックで返した。

　相手も今度は変なフェイントがなくて、ほっとしている感じだった。

　しかし、相手が無難に羽菜のリターンを返球した瞬間、羽菜が一気に台の前に出て決めに行った。

　また回り込んでバック。

　低い弾道で相手の手の届かないところに球がいく。

　羽菜、今ほとんど球を見てなかった。

　でも、ちゃんと球に当てて、さらにしっかりいいコースに打てている。

　なんか覚醒した？　いやそんなことはない。

　羽菜が卓球をたくさんやったっていうことの証明なだけだ。

　それに……僕は気づいた。

　フォアが調子が悪いからバックを打っているわけではない。

　多分回り込んでバックは、羽菜の引き出しの一部。まだまだ羽菜のやりたいことがあるはず。

　つまり……羽菜は自分が打ちたいと感じるショットを、どんどん打っているのだ。

　無難な作戦の痕跡すらないから、羽菜に隙が生まれるかもしれないけど、でも相手も予想できない。

　僕は少し予想できる。

　羽菜とたくさん打ってきたのだ。

　だから……羽菜が、めちゃくちゃわくわくしながら、次何打つかを考えてるってわかる。

　

　試合が進み、三ゲーム目は互角だった。

　羽菜が、もう、今までやった打ち方の技術の全部を試して、頑張ってる。

　羽菜がぼろ負けしてるのを見にきた人たちは、帰って行くことはなく、今度は羽菜に拍手したりし始めた。

　そうだ、これだ。つまり羽菜が独特なショットに挑戦してミスるか、かっこよく決めるかなのだ。

　互角だけど、見てる側は羽菜のペースに見える。

　一ゲーム目も二ゲーム目もぼろ負けして取られてるかもしれないけど、それをみんな忘れて行く。

　僕も、羽菜も、相手も。

　よし、羽菜の方に流れがどんどん行くぞ。