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負けそうかも

 しかし、その三十分後の状況はよくなかった。


 羽菜の調子はあがらずに試合が進んでしまっていた。


 第一ゲームは2対11で相手に取られ、本当に相手に圧倒されてしまっていた。


 どうしてここまでポイントが取れないのかわからないけど、とにかく相手がうますぎる。


 まずサーブのコースが全部厳しくて、羽菜は返せないことも多い。


 さらに、羽菜がサーブのときは、流石にここでサーブミスしたら嫌だということで、羽菜はかなりやさしめのサーブを打っている。


 そうすると相手に攻められて、ボールに触れないほど決められることが多くなる。


 こういう悪循環が発生して止まらなくなってしまっているのだ。


 しかもさらにひどいことに、圧倒的な試合をしていてめっちゃすごいという情報が広がり、他の関係ない高校とかの人も見にきていた。


 みんなにぼろ負けしそうなところを見られてしまっている羽菜はもはや無意味にギリギリのところを狙ってアウトしたりするようになってしまっていた。


 僕は声をかけて落ち着くように言っているけど、でも、羽菜はもう泣きそうになってしまってて、あんまり僕の話も聞きたくないみたいだった。


 卓球の技術面で、僕も何も解決策を思いつけないところが、情けない。もうほんとに。


 でもなんとか羽菜に頑張って欲しい。


 ちなみに相手の応援は控えめだ。その控えめなのが逆に怖い感じだし強そう感もあるし、怯えてしまう。


 


 ……二ゲーム目も羽菜は落としてしまった。


 羽菜がこちらに、タオルを使うのと水を飲むために歩いてくる。


「羽菜……」


「あー、あー。やばいわ」


「やばいけど、やばいからこそ……いや、僕はあくまで僕だけの感想でほんとにごめんだけど、とにかく卓球をしてる羽菜が見たい。相手にやられるだけの卓球じゃ、なくて」


「うん」


「あの、僕、羽菜にさ……いや、羽菜がんばれほんとに!」


「わ、わかった。なんか、なんか拓人さ……本気だね」


「当たり前だよ勝つぞ。一回も勝ったことがない人に勝つぞって言われるのなんか変だろうけど勝つぞ」


「たしかに変かも、でもね、あくまで私だけの感想でほんとごめんだけど、変じゃないし、なんか面白い」


 ぼろ負けしている羽菜が……笑った。


 そうだよそれ。


 その笑顔は、僕と卓球を始めたばかりの頃、二人で初めて試合してみたりしてた頃の、羽菜にもたくさんあった。


 羽菜のいいところはさ、もととなるところは、もう少し前から、もしかしたら前々から、あったんだな。


 それをどうやって卓球に、ピンポン球の中に入れ込むか。


 楽しみだ。そう、この試合はとても面白いんだ。


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