コーヒーカップ
それから一回転したりして色々動いたジェットコースターから降りた羽菜の感想は、
「すごい怖かったよお……なんか……なんもお魚の記憶ないんだけど」
「まあ目つぶってたもんな」
「うん。拓人はあんの?」
「いや、目開けてたけどあんまりない」
やはり生き物をゆっくり見るには、スリルのある乗り物は良くなさそうだ。
まあそういう目的というよりはジャングルの雰囲気を楽しむところなんだけどね。
「次どこ行く?」
僕が訊くと、
「あ、待ち時間ゼロ分がすぐそこにあるよー」
スマホではなくて看板を見て羽菜が言った。
「コーヒーカップか……」
真ん中に水槽があって魚が見られるという点ですごいコーヒーカップらしい。
絶対落ち着いて見れないでしょ。
ここってもしかして動体視力高めるところなのかな。
あ、てことはめっちゃ卓球に役立つ可能性あるじゃん。
「よし行こう羽菜」
「え、うん。すごい乗り気だねー。あ、拓人コーヒーカップ好きなのか。なんか可愛い感じだね」
コーヒーカップ好きと勘違いされてるけどいいや。
流石にコーヒーカップが好きな性癖とかは言われないでしょ。
「はいじゃあまわりますよー」
アマゾンの探検隊のような格好をしているお姉さんがボタンを押して回転が始まる。
羽菜と向かい合い、羽菜だけ、目を動かさなくてもちゃんと見える。
と思いきやそうだった。真ん中に水槽があるんだった。
小さな熱帯魚たちがいた。
ってこの水槽回転してんじゃん。
いや違う。この水槽は回転してないから、僕たちから見たら回転しているように見えるんだ。
まあ確かに、頻繁に回転する水槽の中で魚を飼うのはやばいし魚が可哀想だもんな。
って、水槽が回転してるからなかなか見えないんですけど中が。
この施設絶対動体視力めっちゃある人しか楽しめないでしょ。
「うおー、楽しいー、まわりますねー」
いや、羽菜楽しめてた。
コーヒーカップってなんか子供用かと思ってたけど、確かに楽しいし、羽菜の様子を見て楽しむということもできる。
コーヒーカップの回転が速くなってきた。
景色や遠心力だけじゃなくて、羽菜の髪のなびき具合で、速さがわかる。
「おおー。拓人の寝癖踊ってるよ」
羽菜の方もそれで速さがわかるようだった。
ていうか寝癖あるのかよ……。
直し忘れてたか。残念だけど、羽菜とも、もう仲がいいと思うし、恥ずかしくはない。




