めんどい
休憩後の練習も、美留さんからたくさんのアドバイスをもらって、覚え切れないくらいなので、僕はノートにメモったりしていた。
そしてそろそろ六時というころ、美留さんは言った。
「あ、じゃあ私そろそろ帰るねー」
「え、あれ泊まっていかないんですか?」
羽菜が驚いているが、美留さんはうなずいて、
「うん。明日の午前は楽しく練習して観光しなよ。あれだよ。昔から卓球部の合宿の最終日は楽しむことを最優先にしてるからね」
「あ、はい……わかりました」
「じゃ、また普段の練習にお邪魔させてもらうかもだから、もしその時がくれば、よろしく」
「はい是非是非来てください美留先輩! ありがとうございました」
「本当にありがとうございました」
美留さんは渡り廊下の方の出口から外に出た。
もしかしておじいちゃんに送ってもらったりもしないで歩いていくのかな。もしそうならおかしい体力だ。早朝からずっと運動してるのに。
僕と羽菜は……動きたくありません……。
ボールが床にたくさんある中、二人とも正座していた。
「ボール拾い……めんどいな」
「うん。あと台片付けも……めんどいね」
「だな」
部員が二人しかいないゆえ、このままだと何も進まず、夕飯をすっぽかすことになるしお風呂は閉まる。
「ねえ」
「どうした、羽菜」
「そろそろ立ちあがろうよ! 私も立ち上がりたくないけど」
「うん、わかった」
おりゃあ!
スマッシュを打つ並みに気合いを入れて立ち上がる……が、横を見れば。
「おい羽菜立ててないじゃんかよ!」
「ごめん」
なんか膝が曲がってて大変そうだ。
あれだこれ。疲れてるってより足が痺れてるじゃん羽菜。
茶道できなさそうだなあ羽菜。
まあ僕も正座苦手だからきつかったけどね。
それでも体勢を変えるために動きたくもないくらい疲れてたってこと。
羽菜の足の痺れが治ってから二人で片付け。
……明日の観光、楽しみだな。
片付けも終わりそうで、少し元気になってきたところで、僕はそう思った。
そうだな、最終日は楽しむんだ。うん。
今日あまりに成長した実感があったからこそ、無理して練習をしまくる必要はないかな、と思えたのだった。




