大人びたところもあるしそうでないところもある羽菜
「美味しかった」
ファミレスを出た時はもう暗かった。
「そうね。美味しいでしょ。まあどこの店舗もそんなに味は変わらないとは思うけどね」
そう言って、ファミレスの入ってるビル前の歩道を進みだす美羽原さん。
……美羽原さんが、「はねな」だったなんてな。
普通にテニスやったことないとか言ってたからさ、さらに思い出しにくかったじゃんかよ。
でもそのくせして思い出してほしかったみたいだしな。
なんか、めんどくささが、可愛さにもなる女の子。うん。「はねな」らしいな。
よく見たら変わってないところだらけだ。
懐かしくなりつつ、そして今日、僕はとても楽しかったことを自覚した。
「明日からもさ、卓球しにくるよ、美羽原さん」
「え、それって、卓球部に、入ってくれるってこと?」
「うん」
「ほんと? じゃあ明日は道具買いに行く?」
「あ、そうか道具ね。買わないと。ありがとう」
「ううん。あ、部の予算からは半分くらいしか出ないから、一万円くらいかかるよ」
「ええっ。いやでもそうだよな……」
テニスのラケットだって高いし。
「あとさ、は、羽菜って呼んでよ。テニススクールの時は、そ、そうだったじゃない?」
「わかった羽菜」
割とどんどんと言えそうだな、なんてったって昔は一緒にテニスをしてたんだし。
それにしても。
さっきの変わってないところだらけっていうのと矛盾してると思われそうだけど、可愛くなったな……。
可愛さのタイプが変化した、というのが一番正しいんだろう。
そりゃあ、小学生から高校生になったんだもんね。
一番変わったかもしれないなあ、と羽菜の口元(と少し胸元)を眺めていた。
「な、なに」
「あ……家まで一緒に行くよ。あそこの壁でしょ? 僕の家も近いし」
「え、いいよそれは。そもそも、ふ、二人でそんな歩かなくてももうここで別れたっていいんだからっ」
「でも暗いし、毎日あの壁を見ないと落ち着かない」
「なにそれ、壁のこと好きなの?」
「恋愛話みたいなノリで訊いて来ないでほしいなあ」
実際、壁のことは好きだけど。
ちゃんと打ったら跳ね返してくれるし。
でも。
今日の卓球は、球が返ってくるだけじゃなくて。
羽菜の笑顔や声が返ってきて。たくさん教えてくれたりもして。
思い出せばテニススクールでも、二人で笑顔でテニスをしていた気がする。
いつまでも一番下手な人用のコートでも。
だけどだんだんそんなふうにはいかなくなるって言うのは、もう知っている。
僕のテニスに関してもそうだし、あと、幼馴染の蓮花に関しても、そうなんだ。
隣の羽菜は、ちょっと僕より背が低い。
すぐ近くを、歩いている。
昔はちょうど同じくらいの身長だったかな。いや、そもそも、身長を比べようと、あんまりしてなかったかもしれない。
そんなことを考えながら、羽菜の大人びた姿を、暗い中見つめていた。




