休憩中
「拓人、寄りかかったりしたら嫌だよね……汗もかいてるし」
「いや、僕は大丈夫。その方が疲れとれるなら全然いいよ」
「そう……? べとっとしたら、ごめん」
羽菜はそう言いながらゆっくり、角度を変えて寄りかかってくる。
汗をかいてるのに、なぜか自然を通して、髪の香りがした。
自然の中の女の子……。
なんとなく、自分も疲れがとれてる気がした。
疲れは岩の方に流れているというよりも、羽菜によって消されていく感じだ。
とにかく寄りかかられてるのが、心地よい。
「ねえ拓人」
「どうした?」
「ううん。なんか、拓人の肩にほっぺ乗せると、安らぎがあるなぁって」
「ありがとう……」
羽菜が目を閉じた。まつ毛が目立つ。
いつもボールを一生懸命見つめてる羽菜の目。
とても綺麗な目で見つめてるんだな、と思った。
そして時々僕を見つめてるのかな、とか考えた。
しばらくそんな感じのまま休んで、そしてまた歩き始める羽菜と僕。ここからはカーブの下り坂なので、宿まで少し楽に向かえるはず。
実際、宿に着いたらどんな練習をするのかとかを話し合ったりしながら、歩いて行けた。
宿までだいぶ近くなった頃。
珍しく車が通りがかった。
窓が開く。
「おおおお、ハイキングデートしてる」
お孫さんだった。運転手さんはおじいちゃんだった。
バス以外にもふつうの車も持ってるんだね。
まあ生活用に持ってるもんか。ここ駅からも遠いし、川(橋なし)もあるし。
「これトレーニングだからねっ。デートとかじゃないもん」
「ああー、そうだよねごめん」
にこにこで謝るお孫さん。全ての山の生き物が許しそうである。
そしてそのまま、「また話そうねー」と車で先へと向かってしまった。
「そういやお孫さんの名前ってなんていうの? 挨拶したとき聞いてなかったな」
「ああそうなんだね。確かね、実夜で、実がなるに夜だったよ」
「なるほど」
「え、もしかしてあの子に興味ある感じ? にこにこが可愛い?」
「ううん! そんな考えとかなく訊いただけだからね」
にこにこしてた実夜さんは可愛かったけどね。昨日も今日もすごくにこにこしてたし。
「……そうなのね」
羽菜は後ろでひとつに結んでいる髪を触って、少し無駄にいじってから、手を離した。




