疲れたから休む
「羽菜……もうちょいゆっくり走る?」
「いやもっと速くはし……れないんでゆっくり歩きたい」
「歩きますか……」
僕が歩くと、羽菜も待ってましたという勢いで歩き始めた。
いやつまり勢いがない歩きなんだけどね。
「疲れたよー。何キロくらい走ったことになってんだろ」
「多分まだ二キロもきてないよ」
「え、でも体力測定の1500メートル走よりは長いんでしょ。もうそれ十分走ったねー」
「マジかよ。こっから道を進んでまた宿に周回して戻ってくるとしたら、あと五キロくらいあるよ」
「マジ……? 去年なんで私走れたんだろ。いや思い出したけどほぼ全部歩いてたかも。それこそ時速五キロで一時間みたいな」
「あー、まあ無理も良くないし、それでもいっか」
「かなり疲れてるし、そうしたい」
こうして早々にトレーニングがゆるいハイキングに変わりました。
でも歩いてるとそれはそれで、鳥の声とかが聞こえるのにも気づく。
「自然豊かだねー」
「そうだね」
逆に自然がありすぎて熊が出たりかしないか心配だけど、まあ鈴は持っているので大丈夫かなと思うしかない。
「あ、あそこなんかいる!」
羽菜が言った。そして指をさす先には……。
よかった。熊ではなくてヘビだった。
いやあんまり良くないかも。
「な、長くない?」
「身長よりは長そうだね」
太くはないんだけど、長い。ただ紐のように砂利道でのんびりしている。
車が来たら心配だ。多分あんまり来ないと思うけど。
「羽菜はヘビは大丈夫なの?」
「顔が結構可愛いから大丈夫だよ」
「顔可愛いのかよ」
「うん、ほら、見てみようよ」
「いやそんな近づいたら襲われる……」
いや、大人しいね。動かない。
僕もヘビの近くに行ってみたけど、確かに素直そうな目と口元をしていた。
「ほら、結構可愛いよ」
「まあ可愛いね」
僕は同意して、それから一枚写真を撮って、先へと歩き始めた。
そしてしばらくして。
「歩くのも疲れてきた……」
と羽菜。
「座って休むか一回。坂道もあったしな」
「うん……」
ちなみに僕も疲れた。砂利道、体力使いすぎてしまう。
僕と羽菜は道の端の岩の上に座った。
原始人の休み方みたいで、お尻が触れてるところは硬いけど、空気だけは相変わらず美味しかった。




