羽菜が帰ってきたよ
ラリーをやってしばらくしたところで松沙さんが言った。
「あ、私そろそろバドミントン部に帰んなきゃなんだけど、最後に、一ポイント勝負しない? ちなみに拓人が勝ったら、羽菜が惚れるかっこいい行動七つを無料提供! さあやろうねっ!」
「よくわからんけどやろう。ほんとありがとう」
「うんうん。でもあれだね、羽菜はほんとよかった。拓人がいつも練習一緒にしてくれるからね。私の予想だけどね、拓人が来る前と後では、十倍は卓球の楽しさが違うんじゃないかな。羽菜にとって」
「……」
「あれ? もしかして十倍じゃなくて百倍がよかった? 欲張りさんな拓人くんいいですねー。独占欲強い彼氏かな? 強すぎ注意だよっ」
「サーブいきます」
「えちょっといいところにサーブ打たないでよ。あ、負けた! あっさり負けた!」
僕のサーブを返せずに、一ポイント勝負で負けてしまった松沙さんは、でもニコニコして、
「楽しかったなー。気が向いたらバドミントンもやりにきてねー。まあでも、羽菜が寂しくなって怒らない程度でよろしく〜」
「まあやる時は羽菜と一緒にやりに行くよ」
「仲良しだなあうんいいね!」
松沙さんはそう返しつつ、体育館の一階に降りて行った。
うん、なんか煽られがちだったけど練習はしっかりできたぞ。よかった。
さあ、羽菜はそろそろ補講が終わってると信じたいころだけど……。
まだあの怖い先生に色々プリントとかやらされてそうな気もする。
……今度こそ壁打ちしますかね。
僕は卓球台を移動させて壁につけた。
壁打ちモード完成。
僕は鍛えられた壁打ち力でもって、永遠に続けられそうなくらい安定した壁打ちを始めた。
そのまま安定すること二十分。
羽菜が来ない。
一人の練習ってこんなに寂しかったっけ。
今までテニスの壁打ちはしてたのに。
卓球に関してはもう、羽菜がいないとダメなようだ。
羽菜の打つ球依存症みたいなの発症しそう。
と、その時、体育館の扉の開く音がいつもよりでかく聞こえて。
ものすごい速さの足音が体育館の二階へ。
「お待たせ拓人! あっ、拓人壁打ちしてる! ずっとそれやってたの?」
「あ、いや松沙さんがね、ラリーしてくれた」
「うお、優しいねーよかったねー。あ、でも壁打ちしてた時間もあったんだもんね。もう寂しくないよ。……なんか迷子の男の子みたいな顔してんなあ拓人」
「まじ?」
羽菜保護者ポジションになってしまうが。
「ま、とにかく卓球台を壁から離して。試合だよ試合!」
羽菜がそう言いながら台を引っ張り始めるので、僕も慌てて手伝う。
そして台を無事に定位置まで戻せたところで羽菜が、
「あそういえばね、浜崎先生に会ったからね、もう合宿の日程も決めてもらったよ。宿も空いてるっぽかった」
「いつになったの?」
「なんと早いことに夏休み初日です! もうすぐだよー」




