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試合終わり

 それから四十分ほど試合が進んだ。


 ゲームカウントは2対2。長いラリーも何度かあり、かなりハードな試合だ。


 でも今回は体力切れは羽菜の方が先に来ていた。


 ちょうど今も前後左右にボールを追わされてる状態で、また体力が減らされている。


 きゅっ!


 体育館の床で羽菜が滑る音がした。


 そして脚を広げながら転んでしまう。


 僕の時と同様容赦なく笑う応援。


 その中で、だっさというつぶやきも聞こえた。


 ……どうしようか。

 

 まあ正直接戦で相手も余裕がないから、よりムキになった応援になってるだけなんだけど、羽菜が全く気にしないでいられるとは限らない。


 だから僕は、コートを挟んで向こうで応援している人々に言った。


「あの! なんかそういうバカにした応援みたいなのは、やめてもらえますか?」


 まあ地区大会の予選とはいえちゃんとした公式の試合なので、これを言った時点で勝ちなはず。


 テニスでもそう。


 応援してる人が相手を罵ることを言った場合は、その高校の選手が失格となる場合があるってのは決まりとしてある。


 だから今みたいに言うだけでも、効果があるのだ。


 実際、相手は大人しくなって、普通の応援になった。


 まあ普通の応援でも人数が多いんで迫力があるんだけどねそれはそれで。


 羽菜が僕の方を振り向いた。


 羽菜がやったのを真似して、頑張れのジェスチャーみたいなのをする。


 羽菜が笑ってうなずいた。


 


 けど結果にはつながらなかった。


 第五ゲームはやはり劣勢のままで、そして最終的にはゲームを取られそして、負け。


 握手を相手としてから戻ってくる羽菜。


「接戦だった。相手のエッジとかもあったし、しょうがないと思う。すごい見てて、いい試合だったなって」


「……うん、ありがとね。あの、応援の注意とかも、ありがとね」


「ああ……まあちょっと言っただけだけどね」


「ううん」


 羽菜は首を振る。


「……僕、嬉しかった。全力の羽菜を見てられて、今日は」


「ありがと」


 なんか思い出した。


 羽菜は昔テニスをしてた時から、負けると喋るのが少なくなってた。あからさまに暗くはならないけど、そんな変化がある女の子だった。


 まあいいんだ。そんなに喋らなくても。


 こうして一緒に体育館の出口に歩いてるだけで、伝え合えることも色々あるし、それにやっぱりどう考えても今日は素敵な試合だったと思うから僕は。


 それだけできっとまた次からの練習も素敵になるはず。


 だから僕も羽菜も、少しだけ体育館の床を強く踏み、そして歩みを早めた。


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