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嬉しいもんだよな

 はい、確かにショーバンを交えて攻めていったらポイントは取れるようになったけど、でもやはり負けましたね。

 

 ゲームカウント1対3。


 一ゲーム取れたからボロ負けの中のボロ負けではないが一回戦負けであるのはどうせ変わらん。


 まあテニスと同様、一回戦負けだったわけだ。


 相手と握手して、試合終了。


 内心相手は勝って当然だろうと思ってるはずだけど、それを外面に表さずに、しっかりと握手してくれた。


 なんか色々とモテそうな要素ばかりの人ですごいなあ。


 そういやあれだ。


 僕の試合は終わったけど、まだ羽菜の二回戦以降はある。



 

「お疲れ! いやー、成長してた! ていうかこんな短期間でここまでちゃんと戦えるのすごいんだからね!」


 コートを出るとすぐに羽奈が迎えてくれた。


 僕は小さめにありがとうと言ってから、


「まあ確かにテニス八年やっても大して上達してない人にしては、いいスタートなのかもな」


「そうそう。いやテニスのこと関係なしにね、ちょっと……は、か、かっこいいとこもあったんだからねっ。自信持って」


「……」


「あれ? 試合頑張りすぎて意識がこっち向いてない……?」


「いや向いてるけど」


「え、じゃあかっこいいって言われて照れてんの?」


「ちょいと違って……なんか僕、スポーツやってて誰かにかっこいいって言われたこと初めてだったから、結構嬉しいなって。だけどだからそれだけ悔しいんだなって」


「……そっか。その気持ちが宝物になるといいね。なんなら何度でもかっこいいって言ってあげるよ。共通テスト英語リスニング音声無限回バージョン!」


「日本語がいいな」


「そこに注文つけますか。ていうか結局言っては欲しいのね」


「……うん」


「可愛いとこあるねーやっぱり。まあここんところは一緒にいたんだから、ちょくちょく感じてたけど笑」


 羽菜はそう笑って、先に進む。


「お昼ご飯食べるベンチ確保しにいくよっ! まあ空いてなかったら地面でもいいけどね」


「おっけ」


 僕は羽菜の後を追った。


 ……意外だな。


 かっこいいところもあると言われただけで、嬉しくなるんだね。僕って。


 みんなそうのかな。


 かっこよくて可愛い羽菜に、思わずそのまま語彙少なめに気持ちを伝えた。


 そしたら羽菜は嬉しそうだった。


 きっと人間って、自分の頑張りを見てきた人に褒めて欲しいもんで、心が動いたならそれを教えて欲しくて。


 やっぱり悔しさや嬉しさを共有できたらよくて。


 少しでも一緒にいた人に認めてもらいたいんだなって。


 そしてそんな一緒に頑張る人が周りにいるのがとても大切で、すごいことなんだって。


 たかが地区大会の一回戦なのに、そう思ってしまった。


 いや、思えてよかったなって思う。


 一つ、思いついたこともあるし。

 

「あ、ベンチ空いてない!」


 そう残念がって仕方なく床に座る羽菜の隣に、僕は座った。

 

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