試合開始早々……
試合前には、ラリーを行う。
それを僕は、相手とやり始めていた。
動画で見るといかにもイキりそうなひとだったけど、実際対面してみると、ものすごくいい人だった。
だから僕は尚更、ああ、勝てないんじゃねってなっていた。
ラリーでもめっちゃ僕が打ちやすいところに返してくれるし、技術が違う。
さすが全国大会の経験者だ。
まあ初めての試合でとてもいい経験ができると考えれば、かなりプラス要素ばかりである。
ただ、なんでそんな図々しいことを考えてるのか謎すぎだけど、ボロ負けしたくないし負けたくないと思っている。
羽菜とたくさん練習をやってきたからだろうか。
僕ごときでも、真剣にやったことに関しては、ほんとに真剣に結果を出したいもんなんだな、と思う。
ラリーが終わった。
相手と礼をして、そしてラケットを交換する。相手のラケットを観察する時間なのだ。
まあラバーの知識皆無なんで、ほぼなんもわかんないんですけど、羽菜に少し教えてもらったのが頭にある。
記憶が正しければ、かなりドライブがかかりやすいはず。
つまりは前回転でめっちゃ弾む、力強い球が武器だということだ。
まあこれは動画でも予習済みだが。
予習したことが全部完璧に解ければ、正直全国トップレベルの学力になれる。
それと似た感じで、どんな球がくるかわかってても返せないもんなんだろうな、と身構える。
サーブは、相手から。
「はい、先行してくよー」
という羽菜の声が聞こえた気がする。
相手の応援がでかすぎて紛れてしまった。
でも聞こえたぞ。
対策によれば、相手はポイントに余裕がある場合は、ロングサーブを使うことが多いはず。つまり自陣の台のぎりぎりまでの長いサーブだ。
今は0対0だけど、相手から見れば僕は初心者にも程があるので、ポイントに余裕がある時と同じ作戦である可能性が高い。
相手がサーブを打った。
ほら読み通り!
しかもバック側に来ることまで予想できた。
なぜなら卓球に不慣れな人はバックが苦手なケースが多いはずなのだ。
それは当然みんな知っていて、だからバック狙いだと思っていたのだ。
だから僕は、それを羽菜とたくさん練習した、回り込んでフォアで返す……!
あ。
……サーブの横回転が強すぎて、バウンドを読み間違えての空振り。
僕は自分の横の床に転がっていくボールを拾いに行く。
相手の応援の人たちがめっちゃ笑ってるのが聞こえた。
まあそうだろうね。
かなり下手くそなのバラしちゃったし。
「どんまい!」
だけど、羽菜の声が聞こえた。
見ると、気にすんな頑張れ! という意味らしきガッツポーズと指揮者の混ざったみたいなジェスチャー。
……ありがとう。
次は返すからな。
とにかく絶対一生懸命やって、何か起こしてかないと、ぼろ負けする。
それにしても相手の応援は容赦なく笑うなあ。
まあ気にしないでいきましょうそんなの。




