羽菜の気持ち
「強いねやっぱり羽菜ちゃん。次もその次もどんどん勝っていってほし〜な!」
「がんばる。みゆちゃん、明日のダブルスもあるんでしょ。勝てるよ!」
「うん、がんばるねー!」
だから平和そうに見えて平和じゃない説あるこの二人の会話怖いんだって。
「よかった勝てた……」
羽菜は僕のところに来てすぐかすれ気味にそう吐き出した。
やっぱり真剣勝負だったし、結構精神力は消費するよな。
試合はそんなに長くないからあっさりに見える。
それこそ野球とかサッカーとかと比べるとそうだ。
だから卓球は、試合に出てる本人の色々な気持ちの変動があまり外に現れにくいと思う。
だから僕も羽菜の気持ちはあまり捉えられなく、あっさり終わったと感じていた。
だけど羽菜の安心しつつちょっとまだ硬めのほっぺを見たりすると、やっぱり、羽菜をほめたくなるし、今の試合がとても緊迫した争いだったということがわかる。
「おめでとう」
「ありがと」
「なんていうか、かっこよかったわ」
「かわいいとかっこいいしか語彙ないの、小一みたいなんですけど⁈」
「ごめん」
「……」
僕が謝ると羽菜は黙った。でも怒ってないと思う。
ちょっと硬いほっぺの粘度が上がった気がするし、微笑んでもいた。
「はい次は、拓人の番だからね! はい切り替え!」
「わかった」
羽菜は、ラケットをケースにしまい、コートの外に出る。
それを僕は迎え、そしていよいよ、僕の試合が行われる、8番コートへと向かった。
8番コートは前の試合がまだ終わってなくて、だから僕はコートの外で待っていた。
負けそうな方の女の子はもうすでに泣いてしまっている。
実際に泣くかどうかではなくて内心の問題なら、一回戦だけでおよそ半分がこうなるのだ。
そういうもん。それがトーナメントだ。
算数的に考えたら当たり前なんだけど、感覚的に考えたら辛いことだ。
みんな頑張ってるはずなのに。
そしてもうすぐ、僕もそうなる恐れが……高い。
「自信なさそうな顔してんなあ」
羽菜が超近くで僕を見つめてくる。
唇が小さくて、なのにその唇が少し動くのに注目してしまう。
とその時、すごい大量の集団が来た。
大量って言っても十五人くらいか。
確か応援の人数には制限があったからな。
でもそれでももう僕の相手が来たんだな、とはわかった。
だって何人かの男子とたくさんの女子に囲まれてる一際目立つ彼は、動画で見たままの人で。
そして実際に見ると、イケメンオーラと運動神経良さそうなオーラが綺麗に強め合ってる人だったからである。




