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かわいいと言うとやっぱり喜ぶ羽菜

 さて、震えていたら試合が始まった。


 羽菜がサーブ。


 地区大会の一回戦はセルフジャッジか。


 テニスもそうだ。

 

 ていうか地区大会の予選は全部そうなはず。我が市では卓球も似たような感じなんだろう。


 台がある分、まだ卓球の方がテニスよりも、ジャッジで揉めることが少ないような気がする。


 テニスはガチで揉める。だってラインの上かどうかなんて、見えないことよくあるもん。


 お互い悪気がなくても険悪な雰囲気になっちゃうのって、よくあることなのだ。


 ちなみに僕はないよ。どうせボロ負けだからね。


 相手がおおらかすぎてアウトっぽくても入ってるってジャッジにしてくれたこともあるよ。


 うん、心の中で話してるだけで悲しいわ。




 羽菜のサーブを……相手の、誰だったか名前が吹き飛んだけど、とにかく相手は、カットして返した。


 これが、カットマンか……。カットマンっていうのは、ボールに下回転をかけて打つのをスタイルとしている人のことなはず。


 羽菜はカットマンではないので、動画以外で初めてみた。


 上野の動物園に行ってパンダを初めて見たような気持ちになる。


 そしてその球に対して、羽菜はもう真っ向勝負。見惚れるでしょこれってくらい。


 カットをカットで返すことなく、当てるだけで返すこともなく、思いっきりのドライブ、つまり前回転だ。


 カットは普通に打つと下に行くので、羽菜はもう腕を振り上げている。

 

 まるで何かを下からパンチしてるみたいに。


 それでもネットの上スレスレを通るから、相手の回転も中々すごいんだろう。


 あ、相手がネットした。


 羽菜が予想より小さく喜びのポーズをして、さっさと次のサーブを繰り出そうとする。


 しまった。僕が声出すタイミングが過ぎた。


 テニスだったら、ラリーしてて相手がミスったなら、ナイラリー(ナイスラリー)!


 うまく決めたならナイショ(ナイスショット)!


 完全に相手のポカミスなら、控えめにラッキー


 と言って、ネットインなら応援は何も言わない(プレイヤーは謝る)。


 まあ卓球も似たようなもんだし、そもそも部員二人で応援の決まりとかもないので、相手に不快感を与えなければなんでもいいでしょう。


 というわけで二回目からはテニスと同じノリで応援した。




 羽菜と相手は接戦だけど、羽菜の方がだんだんとポイントが取れるようになってきた。


 相手の体力と集中力が切れ始めてるっぽい。


 ゲームカウント2対2、第五ゲームは羽菜が優勢というところで、相手がタイムアウトをとった。


 なんか応援の女の子のうち一人と盛んに話している。

 

 そして羽菜は……こちらに来た。


 え、僕なんかアドバイスできることあるかな。


 ないや。


「はろー」


 とりあえず羽菜がお昼の挨拶。

 

「うーん。言うことない……うまいと思う。あと、真剣に打ってるのがかわいいよ」


 はいクソ雑な声かけ。


「え、あ、拓人のばか……かわいいって言えばおっけーだと思ってるね?」


 と言いつつめっちゃ嬉しそうな羽菜。


 なんだおっけー説あるじゃん。


 羽菜はご機嫌にタオルで首を拭いてから、ラケットを撫でて、またコートに帰っていった。


 


 羽菜はその後、調子をもっと上げて、ゲームカウント3対2で勝利。

 

 前の大会に続いて、初戦突破を果たした。


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