二人なことが多い羽菜と僕
しばらく羽菜のダンス以外を真似した後、ラリーを再開してみる。
「だいぶ変なフォームが消えてきたよ」
「自分でもそんな気がする」
「いいねえ。休憩、する?」
「休憩しよう」
羽菜と僕は床に並んで座った。
今日羽菜が飲んでるのは梨風味の天然水。
ちなみに他にもブドウ、マスカット、マンゴー、りんご、みかん、いちごなどがあるらしい。
僕は薄めに作ったスポドリを飲みながら、ピンポン球を小さく地面についていた。
「なんか、男子とずっと二人でいるって、初めてなんだよねよくよく思うと。わたし彼氏できたことないし」
「……まあ男子と女子別れて練習すること多いもんね」
「うん」
テニス部でも、蓮花と数人の強い女子が全国に近いレベルだから男子と練習してるけど、基本は別れてるはずだ。
だからこんなに男女二人でずっと毎日部活を過ごすって、過疎文化部みたいで、なんか……いいよね。
羽菜は、僕と二人じゃなくて、もっと部員を増やしたいと思ってるのだろうか。
いやそりゃあ思ってると思う。女子と練習した方が楽しいこともあるもんな。
だけど……僕は、なんか今がいいなと思ってしまっている。それは部員がさらに増えた場合と比べてとかじゃなくて、もう絶対評価。
理由はなんだろう。羽菜が可愛いから? もっと羽菜に教えてほしいから? 卓球台を存分に使えるのが幸せだから?
わかんない。けど、とにかく卓球にやる気はあって、だから毎日の生き生き度が上がってるのは自覚している。
「はい、休憩おしまいにしても大丈夫? 今日もまだ色々やるよっ、次サー練ね」
「おっけ」
☆ ○ ☆
練習が終わって。
今日はファミレスではなく、おしゃれなカフェレストランに来ていた。
熱帯魚水槽が各テーブル横に置かれていて、涼しい気分になれるし、熱帯魚好きの僕と熱帯魚に興味を持ち始めた羽菜向けのレストランだ。
二人揃ってオムライスを注文。
「いいねえ、魚が泳ぐの眺めながら食べるの」
「わかる。僕の家は間取り的に水槽を机の横に置くのは厳しいからなあ。いいね」
「オムライスも美味しいし」
「うん、しかも魚の形してるのもいいよな」
「えっ、もう気づかないで崩して食べちゃった……」
「どんまい」
「それ食べ始めてすぐ言ってよ……」
「いやどう見ても魚だったから……」
「お腹空いてたからとにかく食べる方向に意識が行ってたわけよ」
「うんうん」
もう魚の形もなくてあとほんの少しの羽菜のお皿を僕は見た。
食べるの早い。
羽菜は「今から強制復活させる」と言って、小さな魚をスプーンを使って作り始めた。




