脚が広がらない
「昨日ちゃんと励ませてた? なんかめっちゃ心配だったんだけど」
蓮花と壁の前で話した翌日の放課後。
卓球場に行ったら、羽菜がすぐに話しかけてきた。
「いやー、頑張って色々話したりはしたけど、元気出してくれなかった。でも学校には来たよ」
「そっか……まあ、学校に来たなら少しは大丈夫かな」
「うん、友輔もいるし。友輔と蓮花ほんとに仲良いからさ。今日も友輔と話して、ちょっと笑ってたよ」
「うんうん。じゃあもう、拓人は次のステップに入れるね」
「次のステップを存じ上げてないんだが……」
「ご安心を。もう申し込み済みだから。何に申し込んだかと言うと、二週間後の地区大会!」
「え、試合?」
「試合だよ」
「卓球の?」
「卓球だよ」
えー。まだ始めてからそんな経ってないんだけど、負ける気しかしない。テニスでも負けたことしかないから気持ち的にあんまり変わんないのは救いだけどね。いや救いじゃないわ。
「出れるの?」
「出れるし出ようよ。拓人がちゃんと楽しく頑張ってれば、蓮花さんだって変に罪悪感覚えなくて済むし、それに、何か心がうごかされるかもしれないし。あと、ちゃんと蓮花さんのことこれから分かっていくためには、勝負してかないと」
「……全部超納得だな」
「でしょっ。じゃあ今日も準備運動からね」
羽菜は今日も今日とて、脚を広げる。
ああー、太もも。
「……?」
「そんなに脚広がるのすごいな」
「まあね。身体は柔らかい。柔らかい方が絶対動きも良くなるよー」
「そりゃあそうだけど」
「拓人ってどんくらい広がるの?」
「80度くらい」
「180度? なんだ。もう完璧じゃん」
「ごめん、マイナス100が正しいです」
僕が言うと、羽菜は、目が熱帯魚の可愛い目みたいになった。
「え……直角までも開かないんですか?」
「だよだよ」
「だよだよじゃなくてだめだめじゃん。ストレッチもやってかないとヤバそうねこれは」
「はいごめんなさい」
「え、ほんとに脚広がらない? ちょっとやってみて」
「分かった」
僕は脚を広げる。 ふんんんんん。
もう広がらんよ。お股の角度は鋭角だけど。
「そこまでなのね」
「うん」
「ぐい!」
「痛い痛い!」
「あ、ごめん! もうほんとに広がらないのね」
「広がらないって言ったよさっき」
「いやほんとごめんね。お股撫でてあげよっか?」
「いややめてね」
「そうね……あっ、あるもんね……うん」
羽菜、恥ずかしそうにしてて、ネタじゃなく自然に言ってしまったようである。
……天然?
かわいいなあ……無理矢理脚広げられてめっちゃ痛いのは辛いけどね。




