蓮花の昔と今
蓮花は中学の時、あと一勝で全国大会というところまで行った。
その時、何か、すごい実力の壁みたいなものに触ってしまったのかもしれないな、と僕は思う。
その間のたくさんの壁も乗り越えてない僕にはその実体はわからない。
ネス湖にネッシーがいるかもしれませんねとかそのレベルに未踏だ。
だから僕は蓮花を励ましたりとかできなくて、だけど、とにかく蓮花はテニス一辺倒になっていった。
昔は本当にラノベの幼馴染同士の思い出のように、一緒に遊んで、ゲームして、じゃれあって、花火したり、雪で大きな山を作ったりした。
お互いの家にもよく泊まりに行った。
けど、今思えば、テニスに関しては、ずいぶんと前から距離があったと思う。
羽菜の方が圧倒的に近かった。
何せ僕と羽菜が一番下手なコートにいた時、蓮花は特別に中学生に混じってやっていた。
中学生の一番上手い人たちからも尊敬される実力だったのだ。
だけどそれは、このあたりの地区でテニスをやっている人たちの中での話だから。
やっぱりそんな簡単に大きな舞台までは行けない。
テニスに一辺倒になった蓮花は、僕と遊ぶことはなくなり、僕とテニスするのも嫌がっていた。
まあ僕とテニスしたところで、自分のテニスに関してメリットがないからだろう。
僕も蓮花に迷惑はかけたくなくて、むしろ協力したかった。
だから高校のテニス部に入って、蓮花が「ボール拾いの時間が勿体無いから試合に出れそうにない人にボール拾い係をやってもらうのはどうですか?」と提案した時、別に自分勝手だなあとも思わなかった。
さらに、結局誰もボール拾い係なんてやりたくない中、
「拓人やってくれないかな?」
って言われた時、承諾した。
でも流石に炎天下の中でもずっとハードに拾わされて、こき使われすぎてたので、疲れ果ててただけだ。
たしかに過度にボール拾いをやらせていた点は蓮花が悪いかもしれないが、僕はそこから逃げたということでもあるのだ。
ちゃんと、蓮花と話すのが正しい選択だったかもしれない。
だから、話に行くのだ。
☆ ◯ ☆
でも、蓮花、壁に来るかなあ。
壁が近づいてきて、そう思っていた僕だけど、すぐに緊張することになる。
蓮花が壁に寄りかかり、座り込んでいたからだ。
羽菜は小さく、
「じゃあね、頑張ってね」
と言ってアパートの建物内に入って行った。
だから僕はそんな小さな声をきっかけにもして、蓮花のところまで止まらずに歩いて行った。




