蓮花がテニス部をやめた
羽菜が熱帯魚を見にきてくれた次の日の朝。
僕は羽菜とメッセージのやりとりをしていた。
昨日羽菜が帰ってから、ずっといい感じのテンポでやりとりは進んでいる。
なんか……仲良いのかも、羽菜と僕。
そう自分で思うのも無理はないくらい、羽菜も僕も送りまくりだった。
『ねえねえ、じゃあ水草はこれとこれとこれの三種類がおすすめってわけね』
『そうだよ。あとは砂利も必要だな』
みたいな感じなんだけどね。
別にロマンチックさがなくたっていい。
快く意思疎通ができてれば、なんでもいい。
というわけで結構いい気分だった僕の隣に、いつのまにか座り込んでる人がいた。
蓮花の彼氏の友輔だった。
「あ、おはよう〜」
もしかしたら急にテニス部辞めたこと怒られるんじゃないか? ってなってると、
「ほんとにごめん。今までボール拾わせてばっかりで」
「あ……いや」
「お詫びに、卓球部のボール拾いをさせてください」
謝るからテニス部に復帰してくれみたいに言われるかと思ったから、意外だ。
「いや、そんなのはいいよ」
「自分でやってみて本当に大変だったのがわかった。すまん!」
「そこまで謝んないでよ。僕もあっさり辞めちゃったのは申し訳ないし」
「……ありがとう、ございます」
いやしかし友輔控えめだな流石に。
めっちゃ反省してるのはちゃんとわかった。けどそれ以外にも何か控えめになってる原因がありそうだ。
そういえば、蓮花はどうしたのだろうか。
友輔って蓮花の尻に敷かれてるみたいなところあるから、謝るのなら、蓮花と一緒に謝りに来るのが自然な気がする。
そもそもボール拾いを僕に任せまくるのも、蓮花が主導でやっていたし。
そこまで考えて、
「蓮花は……テニス頑張ってる?」
そう訊いてみた。
すると、
「いや……あのな、蓮花、最近色々と落ち込んでて、でもあんまり詳しいことは話してくれなくて。でさ、一昨日、テニス部辞めちゃったんだ」
「え? テニス部をやめた……蓮花が」
「そう。卓球部に入りたいって連絡きたりはしてない?」
「きてないはず……」
僕には来てないし、羽菜のところに言いに行っていたとしても、羽菜がそれを僕に言わないってことはないと思う。
それに、そもそも蓮花がテニスをやめて卓球をやるっていうのは、考えられない。
ほんの少しでもテニスが上手くなるために様々なことを効率化している人、それが蓮花だから。
そこまでテニスに費やしてるのに、それを手放すって……何か精神的な問題があったのか、それとも身体を壊してテニスができなくなった……?
なんにしろ心配だ。
そしてやはり、一昨日あの壁にいたのは蓮花だったのではないかと思う。
なら、あそこの壁で待てば、蓮花と話せるはずだ。




