怖がりとドM(ではない)
午後もたくさん買い物をした。
特に羽菜は、追加で洋服とか化粧水とかよくわからん何かとかを買ったりしてるので、荷物が多い。
僕が半分持っている。
「ごめんね」
「いや、別にこれくらい当然のように持たせていいよ。筋トレにもなるし」
「ありがと」
さて、ここからショッピングモールを出て第二の目的地へ。
どこに行くかと言えば、ゲームセンターみたいなところ。
「あんまり普段は来ないなあ。でもなんか楽しそう」
老若男女でにぎわっているフロア全体を見渡して、羽菜は言った。
「わかる」
うん、これデートじゃないってわかってるけどさ。
でもなんかゲームセンターのデートって、ハードルはレベル1なのにカップルの仲良し度はレベル無限みたいなところあるじゃん(てきとうなイメージ)。
だから側から見るとそんなふうに見えたりして〜なんてね。
「なんかやりたいのある?」
羽菜が訊いてきた。
「うーん、あれとか?」
「あれ何?」
「体験型ホラーゲームじゃないかな。ゾンビに徹底的にやられるまでを体験できるゲームだと思う」
「え、それゲームなの? 逃げるのがゲームじゃないの?」
「まあ逃げるのもあるだろうけど、徹底的にやられるのも面白そうじゃない?」
「ま、マジですか……。やっぱりあれだね、壁とか水草を愛しちゃうのもそうだけど、拓人の性癖って変わってるわ」
「性癖に拡張してお話するのやめような」
「はーい。ま、いいよあれやろう」
羽菜と僕は、ボックスの中に入って、百円玉を入れた。
「うお」
初っ端から百体くらいのゾンビに囲まれてて、流石にびびった。
暗くなってるから羽菜がどんくらいびびってるのかわからないけど。
がしっ。
ひい! なんか脚が掴まれた。本当にアームが何かが出てきてるみたいだ。よくできた仕組みだな。
「やあああああああ!」
続いてすごいでかさの悲鳴が。
「やだやだやだ! もう怖いから拓人のお膝座る!」
そしてなんか膝の上にも乗った。よくできた仕組みだな。
それにしても随分と幼稚なゾンビだな。ていうか、ゾンビがゾンビ怖がってんのっておかしくない? しかもなんで僕の名前知ってんの?
って思ったら、やっぱりな!
膝の上に乗ってるの羽菜だわ。
「なんでこっちきちゃったんだよ」
「怖い……」
予想以上に怖くてもうダメみたいだ。
しかしゲームは進行し、ゾンビが徹底的に襲いかかってくる。
「拓人……一緒にいてよほんとに」
「めっちゃ抱きつかれてるから大丈夫」
いや……無理だわ。
羽菜の身体が世界一僕に密着してんじゃん。
おっぱい当たりすぎ……!
暗い中だから、もう触覚の敏感さがすごいよ!
「おおおおおお……」
結局全然怖くなかったし、何が起こったのか理解できずじまいだったわ。
明るくなったら羽菜は離れた。
めっちゃ汗と涙にまみれてる。
努力を重ねたけど負けてしまった甲子園球児並みだ。
「ご、ごめん」
「僕がごめん。もっと楽しいのやればよかったな」
「ううん、拓人が楽しかったんならいいよ。なんか明らかに興奮してたもんね」
「してない!」
「いやしてたよ、やっぱドMじゃん」
「違うマジで」
興奮してしまったのは、羽菜がお膝の上で僕にしがみついてきたからなんだよな……。
どっちにしろ変な目で見られんじゃん。絶望。早く他のゲームして気分晴らそう。




