負けて手を握る
「いや、まだ本気じゃない……よな」
「もちろんよ」
僕が一人で感動しながら始まった試合形式。
僕は羽菜に、かなり接戦で負けていた。
しかしこれは実力が拮抗しているというわけではなく、羽菜が時々弱気を出してくれてて、その結果ギリギリ負けてるのだ。
「9ー11か……」
卓球は11ポイント勝負。
「惜しかったわね。ま、でもまずは私くらいには勝てるようにならないとね」
「わかってるよ、悔しい! もう一回!」
「きた! 懐かしい!」
「懐かしいの?」
「うん、昔も拓人はそうだったなあって。唐突に負けず嫌いになる」
「そんなタイプだったかな自分」
「タイプでしたねー。……じゃあもう一戦。拓人からのサーブで」
「よし……」
さっきはレシーブでやられることが多かったからな。攻めたサーブで行こう。
ふっ。回転をかけたぞ……!
しかしそもそもネットを超えなかった。
回転は確かにしてたのが、ネットを擦っていくボールの動きでわかったけど。
「うう……」
「まさかの心折れた⁈」
「なわけはない」
僕は同じサーブを繰り出した。
「あっ」
よし。羽菜が空振ったぞ。多分わざとではない。
「い、今はあれね、ちょっと床が滑った」
「あそう」
でも今のでなんか本気モードになった気がするんだけど。
「はい、11ー3で私の勝ち!」
「やはり本気モードにしてしまった」
「いいじゃん。それだけもうすでに強くなったってこと、拓人が」
「ありがとう。というわけでもう一回やろう」
「諦めないねえ」
弟に微笑むお姉ちゃん感を出してくる羽菜。
一応僕の方が年上なのに……。
ま、そろそろ僕が勝って、先輩感を出す時かな。
しかし。
「勝てねえ……」
「もうめっちゃ疲れてんじゃん拓人。私がボールを左右に打ちすぎたかな。ま、まだそんなもんなのねってことで、今日はこれで終わりにしてご飯行くよ」
「はあ」
疲れすぎててもう一回とは言えなかった。
もう下校時刻も近いし。
だけど、すごい充実感だ。
もっと上手くなりたいと思えるし、羽菜に教わりたいと思うし、そしていつか、小さな試合でもいいから、ちゃんと活躍できるようになりたいと思う。
僕の今の立ち位置を分からせるとともに、向上心までも芽生えさせてくれた羽菜に、感謝していた。
「ていうか大丈夫? 立てないくらいになってるけど」
あまりに疲れたまま感謝したせいで、座り込んでしまっていたようだ。
「手、握んなさい。引っ張ってあげるから。あ、握手もかねて仕方なく握ることを許可するんだからね」
そして羽菜がそう言うので、僕は羽菜の手を握ってしまった。
引っ張られて立ち上がる。
手握っても……もともと運動してて体温も高いだろうし、顔が赤いかとかは分からない。
だけど少なくとも僕は、羽菜の手が、可愛くも頼もしくも感じた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。たくさんの方に読んでいただけてうれしいです。
卓球関係ないお出かけに二人で行ったりする話などがそろそろ来ます。まあデートですね。
これからもお読みいただけたら嬉しいです。




