最終話
「いやー、こんなに気楽な卓球したのは久々だね」
「そうだな」
温泉卓球とはつまりは娯楽である。
娯楽ではないという意見はあるかもしれないけど、とにかく、今、お風呂上がりの羽菜と僕は、気楽に卓球をしているのだ。
もうしばらく一緒に卓球ができないからなたぶん。だからこそ、気楽な卓球で締めるのも、いいと思った。
「ふっ。とかいってると、隙だらけ」
「あ、今本気で打ったな」
気楽とはいえ、なんだかんだで、ちゃんと打ち合うことになりそうだ。
浴衣だから動きは遅めだし、羽菜の動きもスポーツ少女からなんか魅惑的な女の子になってるけど。
でも、これまで真剣にやってきたのだから、やはりその癖はぬけないって感じだろうか。
しかも疲れるまでやる癖も抜けないようで、しっかり二時間ほどやりつづけて、気楽なはずなのに、少しだけ汗をかいてしまった。
そしてその夜。
疲れた僕と羽菜は一緒の布団に並んでいた。
ああ、羽菜とずーっといつでも卓球できる関係にいたいな。
とにかくそれは思う。
隣に寝てても、そういうふうに思う。
だから僕は、絶対に本当に羽菜のことを愛していると言えるのだ。
さて、羽菜の方は黙って少し暗い中僕を見つめていた。
卓球のサーブを打とうとしている時と比べて幼い目で、なんだか図々しくも、僕だけがこんなに近くで見れる目なきがしてしまう。
そしてそのままその目は閉じて、僕も目を閉じた。
☆ ○ ☆
春にしては寒かった。
だから僕は早く動きたかったし、早くラケットを握って白い球を、思いっきり打ちたかった。
とても軽い球だけど、でもとても気持ちよく飛ぶ。
そんな感覚を、久々に体感したくて、僕は体育館に走っていた。
「拓人遅い! ひ、一人で待ってたんだからもっと早く来てよね!」
「ごめん」
「ま、でもいいよ。とにかく大学受かってよかったね。おめでとう」
「うん」
「よしやろう」
さっきまで動いていたであろう、球出しマシンを脇に寄せる羽菜。
僕の卓球の実力は、きっとまた落ちた。
三回戦レベルまで行った時の感覚すら失われ、多分また、一回戦突破できないくらいだと思う。だけど、それは、問題ではない。
僕はたしかに、卓球をやりたいと思っているからだ。
それは誰かを倒すためでもなく、勝ち上がって誰かに自慢したいからでもない。たしかに試合で結果は残したいけど、単純にそれを目的とはしないでいられるのだ。
それは、僕が少し成長することがあらわれる一つのことが卓球で、そして恋人と心から楽しめるのが卓球だから。
それだけのことで。それはとてもスケールが小さくて、この小さな高校の体育館に収まることで。
けどそれでも、そういう世界は、僕と羽菜にしかないから、今日からまた、僕は羽菜と球を打って繋ぐのだ。
羽菜がトスをあげた姿を久々に見て、僕は笑顔でラケットを構えた。
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