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ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
27/33

第二ラウンド

 月30万くらいの売上が取れるかどうかの商談と

 好きな人への告白と

 客先との打ち上げ飲み会


 全部が同じ日に重なるって、どうなんよ?

 そして、全部に一人の男が関わって居るって、人生的にどうなんよ?




 あんなに力んで、加藤さんとのアポに向かったのに、加藤さん自身は、すっごいフツーで。


「(この人、ホントに あたしに告白してきたんだっけ?)」

 疑うほど 普段通りだった。まあ、仕事中だからデレデレでも困るんだけど。


 むしろ、前に現場で顔を合わせてた時と全く変わらない…アナタ、あの時のあそこは自分の客先デショ? しょくばと変わらないって、それで宜しいんかい?


「…こちらとしてはこんな感じなんですが、来月からお願いするって事で、良いですか?」

 契約も緩い感じのままトントン進んじゃって。こんなチャラい係長、前からの付き合いが無かったら絶対警戒する!


 でも。だから。


 だから、加藤さんのこと…好きになったんだと思う。あのチャラさが、あたしをいつもクールダウンしてくれる。

 チャラいのはチャラいんだけど、仕事は出来るし 困ってるとサラッと助けてくれる。

 いつも飄々としたまま、何も変わらない態度のまま、なにかと気が利いて、仲間想いで…あの武藤さんが一目置くのも、分かるのよね。


 いつだって、何にだってアツいあたしには無いモノ、いっぱい持ってる人。

 余裕だったり、冷静さだったり、器用さだったり、器の広さだったり… 加藤さんは 自然と尊敬出来る人。


 こんな人だったら…ずっと、近い位置で付き合いたい。…叶うなら 友達のように仲間のように、いやもっと近い距離で…付き合っていきたい。

 

 今まで、男なんかって思ってたけど、加藤さんなら 良いなって思える。加藤さんの前でなら、きっと…自然体で付き合える。


 だから、この商談が終わったら…好きと言わせて。



「じゃあ、来月1日、8時半にこの事務所に来ていただけますか?」

 加藤さんが、候補から確定に決まったスタッフさんへ微笑んだ。

「よろしくお願いシマス…」

 誰だって緊張するよねー、加藤さんの笑顔はキラキラし過ぎてる。


 でもね、あたしだけは 今回、その笑顔を楽しんでる場合じゃないのよ…そして、そろそろなのよ、あたしの第二ラウンドは。

 商談と言う名の第一ラウンドがそろそろ終わる。次は、第二ラウンド。

 ここは、先にスタッフさんを帰して…どっかで飲み会前に時間貰って…告白タイムしなくちゃ。


 仕込みは準備済みなの。

「加藤さん、あとで一本、メールをお送りいたしますので…ご確認頂けますか?」

 これは、お誘いをお願いするメール。実はもう作ってあるの。送るばっかりになってる。

 個人ケータイからだけど、加藤さんの社用アドレスに送るの。


「わかった。」

 加藤さんがまた微笑んだ。


 よしっ!仕込みは上々!




「じゃ、あたしはここで」

 加藤さんの会社を出て、スタッフさんを駅の改札まで送った後だった。仕込んだメールの反応とばかりに、その電話は鳴った。


「藍ちゃん?」

 電話の相手は、もちろん加藤さん。番号は、この前交換した個人ケータイ。


「もう少しで職場、出られるよ。」

 個人ケータイから電話してくるあたり、きっと…あのメールの意味は分かってるんだろう。察しがよくて助かる。


「お店に連絡しておくから、先に二人で向かっちゃおうか?」

 お店、時間の調整きくんだ?となると、どうやらあたしの告白会場は、今夜の打ち上げ会場に、決まったらしい…


…変な店じゃないと良いな…

 緊張してるはずのアタマが現実逃避しようと、別方向の悩みを見つけだしてきた。

 

 それはつまり、加藤さんと二人きりの第二ラウンドのゴングが鳴ろうとしているからだった。


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