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ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
25/33

民草だからって、ナメんなよ

 夜食を買って帰ってきたとき、近隣の受注残は、結構なカオス状態だった。


 まずは 牧瀬さんたち西東京事業部の受注残。

 おおよそ聞いていた受注量でそのうちの受注残もまた、想定の範囲内だった。


 もう一つが 例の本社案件の受注残。カナコ彼氏ってば、この状況で本当に追加受注受けやがったんだ…


 これ、各店応援出せる余裕あるのかな?

 全体の受注状態をみると… カナコが「権田さあん、電話です」他の事業部からの電話を受けていた。

 …あんた、本当に帰って欲しかったんだけど… 毒づきたい気持ちを抑えて、電話を取り次ごうとしたときだった。

「権田さあん、ウチ、本社案件やるんですよね?」

 カナコが心配そうにみている。

「さあ?その打ち合わせの電話じゃない??」

 アタシは、「(用件は違うだろうな)」と思いつつ、しらばっくれて電話に出た。


 電話の相手は、武藤さんがいる物流センターの人数調整をやってる事業部だった。

「まだカナコいんの?!」

 開口一番がそれなんだ、笑っちゃった。

「そうなのよ、心配なんじゃない?」

 彼氏が無事、本社案件をやり遂げられるか…

「そっち、追加出せるの?」

「…どうかなあ? 3名出せって言われたけど、『目標で』って念押ししたくらいよ?」

「ヤラレター!」

 電話口からは、絶叫が聞こえた。ど、どうしたのよ?

「あんさー、例の係長かなこだーりんサマから、『横浜の権田は、3名やるって受けたのに、お前らはやらないのか!?』とか言われたんだけどー!!」

「え?いやいやいやいや…」

 一瞬、カナコが聞き耳を立ててるんじゃないかと思って、振り向いたら カナコはじーっとこっちを見ていた。

 …これからの会話は、チクられると思った方がいいかも…

「あたし、そんなコト言ってないよ。あくまで『目標3名で』って話してる。」

「何なのよー、あのバカ係長! 超情報操作じゃん!!これって自分が本社から良い顔したいからでしょ!!ホントムカつく!」

 あたしは、ここで一芝居打つことにした。客は、カナコと…その先に繋がるカナコ彼氏。


 見てなさいよ、あたしたち一般実務社員をナメると こういう事が起きるからね…!!


「今さあ、西東京事業部の牧瀬さん案件が上手く決まってないじゃない?

 …聞いているかも知れないけど、お客さんが直接乗り込んできて怒ってるって…」

 電話の向こうは、「知ってるー さっき聞いたー」と合いの手が入った。

「あたしもねー、牧瀬さんたちの応援入ろうと思って、カナコに相談してたらさー

 丁度…」

 この、『丁度』って大事よ?

「丁度、西東京事業部から指示が来る前に、本社案件の追加受けるから 人を出せって連絡来たわ。」

 カナコとカナコ彼氏のこと、チクっちゃった。バラしちゃった。見捨てちゃった。ウフフフフフ~

「はあああ? ナニソレ? カナコ、西東京事業部よりも彼氏取ったって事?」

 隣にカナコがいるので、これは明言出来なかった

「タイミングが悪いよねー 西東京事業部の方針が分かる前に、本社案件の追加が『さ・き・に』決まったじゃない?」

 察してっ!!言葉のニュアンスを汲み取って!

「あ、なに?カナコ…隣にいるの?」

 歯切れの悪い口調に、電話の先が勘付いた。

「うん。」

「マジで?」

「そうなのよ。」

 向こうが若干トーンダウンする。

「どうなの?これ、出さなきゃダメなの?スゲーますます!やる気なくなったんだけど?」

 大丈夫、ワタシは元々やる気ないから。

「そっち、出るの?」

「どうだろ?」


 向こうは、ついにカナコを警戒して何も言わなくなった。

 そりゃそうよね、普通 あたしみたいに正面切ってケンカするのは珍しいと思う


 だから、先回しして言ってあげた。

「そっちの物流センターの武藤さんって、元々は、西東京事業部案件の超親玉でしょ?昔の部下たちから泣き電受けて、車両くるま作業員ひとを回してあげたって…西東京事業部の牧瀬さんから聞いたよ?」

 それはあくまで、武藤さんの個人的な昔の付き合いから回して貰ったって聞いてる。でも、あえて、明確なことを教えずに続けた。

「もしこのまま、武藤さんが『手元の作業員ひとで』を削って、西東京事業部の応援へ回すんだったら、そっちはまた話が変わるわよね?」


 伝わって!アタシの意図!!暫くの間があった。お互い、息を飲んで、喉が鳴るほど唾液を飲み干したぐらいの無言があった。


「ハハハハ…」

 電話の向こうが笑いだした。

 アタシが入れ知恵したのは、本社案件カナコだーりんを円満に断るための口実。


「あんた、ワルだねえ。」

 やっぱ、そう思う?

「えー? そぉう?」

 そうは返したものの、カナコを売ったことには変わらない。まあ…若干、罪悪感はあるけども…ねえ?

「まあ、権田ちゃんは監視カナコ付きなんでしょ? 動きづらそうみたいだから、こっちから他店には連絡しておくよ。」

「サンキュー」

 あたしは、最後にこれだけは言いたかった。

「西東京事業部の案件は、元々決まってた繁忙期じゃない?西東京事業部が応援要請を出してたのに、本社案件ぎょうむめいれいを盾に、要請を断らせるとかって…一番やっちゃいけないでしょ」

 この仕事は、特に助け合いが必要になる。今まで、それで運営できていたのが、ウチの会社だ。

 もし、ここで上から権力振りかざせば、横の繋がりが崩壊する。


 民草だからってナメんなよ。

 末端の実働部隊あたしたちが動かなかっなら、案件は、売上にすらならない。


 敵に回したらどうなるか。みていやがれ


 民草だからってナメるなよ

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