02-14
人生三回目の遠征二日目。
今日は奥へ向かいつつ実戦における魔術の修錬をして、レベル三武装人形を相手に魔術だけで戦ってみる。
漠然とした見立てでは苦戦する。苦戦でこそ分かる自分に足りていないものを把握して、その手応えでレベル三とレベル二どちらの≪武装人形≫を相手に魔術を磨くか決める。
よし行くか。
両手じゃないと振り回せないような大きな剣を持ったレベル三≪武装人形≫を見つけた。最初の標的に決定。
ちょっと離れたところであちこちに[造水]で水を撒いて[ノックアップ]で段差を作ってと有利になるよう仕込んでおく。段差で囲んで水を溜めたりもしておく。
戦う場を整えたら短めの休憩を挟む。考え込んだりしない内にさっさと戦闘開始。
遠くからがんがん[誘導弾]を放ち、合間に[貫通弾]で四肢の付け根を狙う。
水を踏んだらすかさず[フリーズ・スリップ]で足ごと凍らせて足止め。秒ともたなくともゼロではないし、発動に必要な集中よりも長く足が止まれば意味はある。
[誘導弾]が脅威ではないと判断した≪武装人形≫が当たっても気にかけなくなったら[捕縛弾]を混ぜてトリモチっぽいのをくっつけて嫌がらせ。
弾体の形や大きさですぐに対処されたが、警戒する分歩みは鈍った。
近づかれては後退して、近づかれては後退してを繰り返し、少しずつ距離を詰められていく。
頑丈で嫌になる。≪[金剛][惨刑]の【槍】≫なら結構刺さるのに。
だんだんと表面に傷が増え、[貫通弾]も深く刺さるようになってきたように思えなくもない。
下がり続けるのも限度があるのでそろそろ勝負をかける。
[貫通弾]の直後に[炸裂弾]が同じ場所へ当たるように狙う。[炸裂弾]の衝撃は弾頭側へ向くように指向性を設定しているので[貫通弾]により穿たれた穴がより拡げられる……ハズ。よし。良い感じに抉れた。
[炸裂弾]を活用してどうにか足を破壊。一撃の威力に特化させた魔術がないとちょっと辛いなとか考える余裕ができたころ、漸く≪武装人形≫を壊しきった。魔素に還っていくのを疲労からの溜息とともに見守る。
槍で接近戦をするのとは違う疲労がどっと押し寄せてきて思わず座り込みそうだ。
疲労は重いもののレベル三相手でも魔術だけで戦えると分かった。
時計を確認すれば、戦闘時間は大体二十分。武器で戦うのは勝つにしろ負けるにしろ短時間で終わる場合がほとんどなので、戦闘時間の差も疲労に影響していそうだ。
とりあえず、打撃力のある魔術は直ぐに思いつかないから、さっきの[貫通弾]と[炸裂弾]を混ぜたやつは用意しよう。戦車とかの砲弾にも徹甲弾とかいうのがあった気がする。遠征が終わったら、実在の兵器の砲弾でも調べてみようかな。
休憩後は手を変え品を変え、レベル二≪武装人形≫を相手取って魔術オンリーの戦法を模索。良い感じの組み立てができたらレベル三≪武装人形≫で腕試し。
とはいえ、ぱぱっとゼロから新しい魔術を作れるほど熟練していない。できるのは≪[無尽]の【魔本】≫に書き込んである魔術の一部を書き換えたバリエーションを増やしたり、魔術の組み合わせをあれこれ試すくらいだ。
で、実際にあれこれ組み合わせを試した。
やっぱり、明らかに打撃力というか決定力が足りない。
現状だとレベル三≪武装人形≫カスタムを魔術のみで斃す見通しが立たない。
このままだと一日中だらだら頭の隅で考え続けそうだ。お昼には早いが、もう場所を確保しちゃってしっかり悩もう。
お昼ご飯までに良案が出なければ、レベル二≪武装人形≫で魔術の訓練をしたら今回の遠征は予定よりも早く切り上げる。
ごちそうさまでした。愛染と弁柄と躑躅に感謝。
で、やっぱり何も思いつかないから、予定よりがっつり早いけど明日帰ろう。決定。
今日が十三日で、明日は十四日。後期は三月一日始業式だから、次の遠征の準備に十日使ってもまだ一週間の遠征をやって余裕がある。
いや、準備に十日使っちゃうと余裕はないか。しかも今数えてみたら三月一日って日曜日かな? 始業式は二日だったっけ? 後で確認しよう。細かいことは今はいいや。
食休みの後は、レベル二≪武装人形≫で魔術のみでの戦闘に何が足りないかを模索するかな。準備期間にどんな魔術を用意する必要があるかの指標にしよう。主砲というかデカイ一撃を叩き込めるのを一つ作るのは確定しているが、それは一回脇に置いて他にも何か必要なものがないかを意識しておく。
何から始めるか、と被っていた≪[心眼]の【ケブラー製インナーキャップ】≫の位置を直して、そういえばこれの[心眼]をまるで使っていないと気づき試したところ、とても良い。
§それは五感ではない感覚を授ける§ という魔術だけあってなんとなく魔素をいつもより感じられる気がするし、レベル二≪武装人形≫がどう動こうとするかが漠然と察知できる。
シューティングゲームで言う弾が置いてある状態にできることで、[フリーズ・スリップ]や[ノックアップ]や[粘着空間]という相手の行動を制限する魔術を使う手間が減る。つまり防御よりも攻撃に比重を置ける。結果として魔術だけでの戦闘も、格段に早く≪武装人形≫を壊せるようになった。
手持ちの魔具を確認しても、いざ実戦でそれを思い出せないと何の意味もないという教訓になった。
[心眼]の有用性を理解してすぐ時間をとって身に着けている魔具のリストを確認し直したので、もう同じようなど忘れはない……ハズ。
身に着けている魔具で忘れているものはなくとも、使うつもりがなくて家に置いてある魔具はもしかしたらよいのがあるかも知れない。帰ったら次の遠征準備のついでに確認しよう。
使い勝手の良い魔具に気づけたし、気分は上々なままご飯食べて寝るぞ。
人生三回目の遠征二日目終了。
≪[融合]の【神壇】≫
§それは神に近づく場所§
§それは溶かし合わせ一つにする§
≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫
§それは上腿部プロテクターである§
§それは階段である§
§それは引き出しである§
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫
§それは槍である§
§それは金剛である§
§それは惨たらしい刑罰をもたらす§
≪[無尽]の【魔本】≫
§それは魔本である§
§それは尽きることが無い§
≪[喞筒]の【上腿部プロテクター】≫
§それは流体に圧力を加える§
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫
§それは槍である§
§それは金剛である§
§それは惨たらしい刑罰をもたらす§
≪[鑽鉄][肢骨][骨身]の【上腕部プロテクター】≫
§それは上腕部プロテクターである§
§それは鑽鉄である§
§それは四肢の骨である§
§それは骨と肉である§
≪[心眼]の【ケブラー製インナーキャップ】≫
§それはケブラー製インナーキャップである§
§それは五感ではない感覚を授ける§




