96 次元を飛び越すダイブ
空中に飛び出した俺は、本日2度目のスカイダイブをする事になった。どちらも命綱無しの決死のダイブだ。
屋敷の主人ロゼッタと、マッテオという、ラヴィちゃんが連れて来たNPCのオッサンと一緒にロゼッタの屋敷の2階のベランダから飛び出した。
ロゼッタの屋敷は巨大な火山の噴火口跡、カルデラの縁に建っていて、ベランダから真下は切り立った崖が昔の噴火口跡まで続き、高さにして1000m近いという崖の上にある。
今は雨雲のせいで何も見えないけれど、晴れていたらあまりの高さにかなりのインパクトを受ける。
周りが見えない……重力のまま、ただ落ちている感覚はある。下を向いている顔や服が濡れてくるので、雲の中を突っ切っているのは確かだった。
ロゼッタが繋いだという、最終ゾーンとの連結部分をどうやって通り抜けるのか心配なんだけど、通り抜けた後にこの落下スピードのまま地面に叩きつけられるなんてことは無いのだろうか?
そんな事を考えた俺は、出来るだけ落ちるスピードを遅くしたくて、両手両足を大の字に開いて風の抵抗を受けるようにしてみた。
灰色の雲の中を落ちている。ほぼ視界はゼロでロゼッタもマッテオもどこに居るのか分からない。1度目にダイブした時の恐怖は感じない。
(あの時はいつか激突する地面、迫り来る死へのプレッシャーに俺はあっけなく気絶したんだっけ……)
ヌルリとした感覚を通り過ぎた。例えて言うなら水の中を泳いでいたのに突然水が油になってしまったような感じ。
一瞬で元の自由落下の感覚に戻った途端に視界が開けて、マッテオの絶叫が聞こえた。
(まっ俺も叫ぼうか。だって地上まで後300mぐらいしかなかったんだもん)
「ギィヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ドンッ
という衝撃が体に走って背中から引き揚げられる力が加わった。一瞬息が詰まって急激に落下スピードが遅くなる。
目の前に広がるのは陸地と海。陸地には海沿いに港があって、広そうな緑の公園が隣接されているのが見える。
浮いてる……じゃない、パラシュート? 俺よりちょっと上に手を広げたロゼッタが居て、マッテオは俺の背中側に居るみたいだ。
(糸……ロゼッタの見えない糸に吊るされているんだっ)
どんどんスピードが遅くなって普通に会話が出来るようになった。まだ地面からはかなり上に居るのだが、青空が広がるこのフィールドは、さっきまでの湿った空気と違って爽快で心地良い。
「ロゼッタ、これって糸?」
「そうよ、私の屋敷と繋がっているわ。良かったわね、私が居て。感謝してもいいのよ、むしろ感謝感激しなさいっ」
「あ、ありがと。素敵な眺めだよ、下から見ると」
ロゼッタは紫紺のドレスのままだった。元々露出多めであったが、フワリと風を下から受けるスカートは……
「黒うさぎ、ついでにマッテオっ! 特にマッテオ! 次に上を向いたら糸を切るわっ。容赦なく落としてあげるから」
「ごめんっ、ちよっと見えた」
ストンッと体から支えが消えて、5mぐらい落ちた。そこで止めてくれたけど、ロゼッタは本気のようだ。
「あそこに見える芝生の公園に降りるわ」
そもそもロゼッタの糸は見えないから、彼女がどう操っているのかわからない。だけど俺達は斜めに力を受けてどんどん陸地に向かって行った。
「そろそろ落とすわよっ」




