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85 毒入りのお茶

「じゃあ聞くけどさ、ロゼッタは何かあるのか?」


「もちろんあるわ、教えないけど」


「服、ありがとう」


「どういたしまして」


「聞いた? ローズ」


 リサが耳元まで寄って来て小声で言った。


「何を?」


 俺も一応小声で返す。


「今の2人の会話。あれで成り立っているなんておかしいわ。きっとお姉様は壊れて来ているの、だからリサは心配なの、とっても不安なの。うさぎにお姉様が籠絡されたみたいなの」


(むしろあれで通じる程の関係だっていう事で、喜ばしい事じゃないかな)


「じゃあさ、リサの今の目標みたいなものはあるの?」


「まだ無いの」


 リサのスプーンを持つ手が震えている。華奢な手でこの子も左利きだった。震えが止まらないので、俺はリサの手首を握ったんだ。


「どうしたの?」


「リサね、今考えたの。これからマッテオのナギサを助けてしまったら、リサは、リサの役目は終わってしまうの。役目を終えたリサはどうなるの? それがリサにはわからない、ううん、わかってるの、リサはローズの要らない子になってしまうわ。ローズは消えて、リサはこっちに残るの。リサと残るのはロゼッタ姉様とマッテオと、ローズの想い出だけ。だから、私の願いは忘れない事」


 ゴォォォォォォ


 天蓋から外の風の音が聞こえてくる。俺が握るリサの手の震えは止まっていた。でも俺は手を離すことが出来なかった。


「外は嵐ね。それも一興、書架の部屋でお茶にしましょう。リサも先に行っていなさい」


 俺が食事の前まで居た部屋の窓の外は、雨雲に覆われて打ち付ける雨粒が風の音と共に窓ガラスを叩きつけていた。いつの間にか窓際にテーブルと椅子が用意されていて、並べられたカップから湯気が立っている。


「リサの心の中みたいね、私も同じだけど……」


 ロゼッタが部屋に入って来て言った。


「好きな所に座るといいわ、椅子は移動させていいから。カップも好きなものを選んで」


 確かにテーブルに置かれたカップはどれ1つとして同じ物は無くて、リサは当然のように金で縁取られた赤いカップを選んだ。俺はしっかり持てる薄い緑色のマグカップの形をした物、マッテオさんは指2本で摘んで持てる可愛らしい小さいのを選んだ。

 余りはモフモフさん、選んだというより残っただけだけどそれは黒と黄色と光沢のある緑色の横線がカップを彩る、豪華な物だった。


(女郎蜘蛛みたいな色だなって、ロゼッタが満足そうな顔をしてるし)


「毒は入れてないわ、でも普通は入れるのよ」


 ロゼッタが一口飲んで言った。


「毒? 何でまた」


 飲もうとしていたモフモフさんが、飲むのをやめてロゼッタを見た。


「食べるから、リサも一緒に食べるから」


 リサがペロリと唇を舐めながら呟いた。


「食べるって、もしかしたら俺達も食べてたかも?」


「お前は食べたりしないわよ、不味そうだし」


「じゃあ、ラヴィちゃんは?」


「リサの獲物を横取りなんてしないわっ」


(なんかロゼッタが不穏な事を言い出したぞ)


「ローズ早く飲んでっ、冷めちゃうよ。こんなに美味しいのに、気絶しそうなほど美味しいのに、早く飲んで、さぁローズ、飲むの」


(どういう事? モフモフさんはどうなの、飲むのか?)


 モフモフさんはカップを持って俺をじっと見ている。


(俺で試すつもりか? 早く飲めよっ、モフモフさん)


「ローズ、リサはこう思っているの。うさぎは誰も食べないの、不味いから。でもリサ、ローズならいいかなって思うの。ローズが行ってしまわないように私が食べてしまえば……」


(リサ、何を言ってるんだ?)


「毒、入ってるの?」


「えぇ、入ってるわ」


 ロゼッタがカップをテーブルに置いて答えた。カップは空だ。


「さっき入っていないって言ったじゃないか」


「わたしは入れていないからそう言ったの。わたしは入れてない。それは確かよローズ」


 俺は黙って手にしたお茶を飲み干した。ちょっと熱かったけど少しピリッと感じて、それから甘い紅茶の味がした。


(お前が飲めって言うんなら飲んでやるっ、そんな辛い顔好きじゃないから)

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