62 因果応報
「見くびってなんかねぇよ、つーか右手が無くなっちまった」
(痛みってもんがあったなら、俺はきっとこうして立ってなんかいられないはずだ。右肩から先が無い……あっ、ライジングサンの右側……ははっ、あんなとこに転がってる)
モフモフうさぎの視線の先に、モフモフうさぎの右腕が寺の前まで飛んで行ってしまっていた。
(飛んで帰って来いっ! なんて都合良く念力が使えたりしないよな)
「ひと思いに殺してしまえなどと浅はかな考えで我等は動かん。因果応報、やられたらやり返す、それは衆俗のやる事。遺恨を繰り返す輪廻など我等は望まぬ、故にうさぎよ、今苦しめっ。お主の身体に痛みは無いわなっ。そこで先程の問答の続きである」
立会いの開始を告げた後、見ているだけだった弟者が話し始めた。弟者が話し始めると拳を降ろす[阿]。
「痛みとはなんぞや? 先程のお主の答えは身体の痛み、もう1つは心の痛みと申した。見る限りお主に身体の痛みは存在しておらん……つまりは、これから足をもぎ取ろうとも、残りの腕を引き抜こうとも、痛み苦しみをお主には与える事が出来ぬという事」
弟者に言われて、モフモフうさぎも言い返す。
「その通りだ、見ての通り血が吹き出て止まらねぇし、もうぶっ倒れそうだよ。さっき写真を見せただろっ、俺の進む理由は誰かに襲われた友達を助けたいからだ。俺の心が痛むとしたら、ここで力尽きて助けに行けないままで終わってしまう事だ。もしそうなったら心が痛むっていうよりは、無念って言葉の方が合う気かするけどな」
弟者が[阿]の隣まで来て並んで立った。口をむんずと閉じてモフモフうさぎを睨むと
「我が名は 吽。我等がどれだけお主を痛めつけようともリサ様は戻って来ることはない。お主をリサ様と同じ目に合わせても何も残らぬ。せめて足掻けよ、うさぎ。お主は未だ1度も手を出して来ぬ、なぜじゃ、うさぎ。答えよっ」
(だって俺のダガーでお前達を倒すなんて無理だろうよ、魔法だってチョロチョロの炎が1発撃てるぐらいだ。[阿]が炎の属性だってことはもうわかってんだ。効くわけねえしな……つまるところ手詰まりって事。リサを殺したって事も引きずってるしさ)
「俺とあんた達との間にあるのは、俺がリサを殺してしまったっていう事実だけだ。その事実の元でやり合うとしたら、俺に……俺が手を出す理由がどこにある?」
「無いわな。だがお主の心根はしかと承知したっ。死なぬ程度に痛めつけて、ここから動けぬように永遠に縛り付けてやろうかと思っていたが……殺してやろう。どうせお主はまた生き返るのであろう……だがな、リサ様はもう2度と帰っては来ぬ。せめて忘れるなよっ、お主はこの世に1人しか居らぬリサ様を、この世から永遠に消してしまった罪を背負っておる事をな」




