82 黒い瞳の狩人の街
「ついて来れるかラヴィアンローズ」
「ハルヒメっ、良かったらラヴィって呼んで。なんか建物がいきなり現れて見通しも悪くなったし、足元も汚ったねぇっ。モンスターがいきなり湧いて来ても、よく見えないかもしれない。ハルヒメは見えてるの?」
先を走るハルヒメを頑張って追いかけてる。イーニーだった美結を背に乗せた白狐・春天公主の足は速い。九尾だった尻尾も今は一本に戻って巨大な狼のようだ。
「ハル止まってっ!」
いきなり美結がハルヒメの耳元で叫んだ。
うおっと、急ブレーキかけんなよ。ハルヒメにぶつかる所だった。
「どうしたモンスターでも出た?」
ハルヒメの向こう側の暗い道をの先には何も居るようには見えない。ハルヒメから降りてきた美結……いや、イーニーの姿に戻った美結が僕の手を取って見上げてきた。インペリアルトパーズ色の瞳は美結の茶色とは違っていて、大きくて見つめられるとなぜかドキッとする。
「ラヴィ、ここは街のようなの。だから私のスキル【ゴーストタウン】を使ってみるわ。暫くの間、美結は引っ込む事になる。イーニーはイーニーの力が使えるの」
逆に言えばイーニーの姿じゃ無いと、本来の力を出す事が出来ないって事か。で、[ゴーストタウン]って何だ?
── イーニーの特殊能力、【ゴーストタウン】。それは街をまるごと感じ取る能力。その気になれば、どこに誰が居て何をしているのかを見る事までも見る事が出来る。
「ラヴィにも分かるように話すね。街は六角形の壁で囲まれている。入り組んだ道はどれ一つとしてまっすぐな物は無くて、どこかで曲がっているわ。迷路ね、ふーん成る程。町の真ん中を目指せばいいみたい。この町の中心に階段がある。階段の入り口の壁に数字が浮かんでいる。カウントダウンね、動き出した。1500、1499、1498」
「迷路って言ったよね。イーニーは迷わないって事?」
「勿論。だけど正解の道を辿ると結構な距離になる。ズルをして建物を乗り越えて向こうに行こうとすると多分死ぬわ。建物の中や瓦礫の向こうは罠だらけよっ。さあ急いで行きましょう、ラヴィは頑張ってついて来てね」
どうやらイーニーとハルヒメは、言葉で話さなくても意思の疎通が出来ているようだ。イーニーが指示する事が無くてもどんどんハルヒメは進んで行く。
「止まれっ」
またイーニーが声を出した。僕に聞こえるように言ったのか?
「どうした?」
「しっ、その建物の角を過ぎて右側10mの所にモンスターが居る。その先に人間とエルフも居るわ。指の長いモンスターよ、茶色くて髪の毛が無い」
「ネロンじゃないかなそのモンスターって。大きい? 一匹?」
「それとラヴィ、後ろの方から何匹か犬が来てる。まだ距離はある、だけど早い。私達が進むべき方向はこの先の角を右なの。ネロンって強いんでしょう?」
「うん、即死系のモンスターだよ。冒険者はまだ攻撃をしていないの?」
「エルフは弓を準備している。剣を構えたヒューマンが魔法を放った」
スババババンッ
イーニーの言葉とほぼ同時に薄暗い道の先に閃光が走った。
ギュエェェェェェ
ヒツジみたいな鳴き声がした。間違いない、ネロンが居る。
シュパ、パパパパパパパパパパパパパパパパ
物凄い数の連続攻撃の音がした。
「魔法の矢ね。雨あられのように矢が降り注ぐ。光属性、こんな技を人間は使えるんだ」
「ネロンの声がしなくなった。死んだ?」
ぐぁっ
「今の声は?」
「剣士が死んだ。後ろから忍び寄って来た別のリザードマンに刺されて」
「弓の方は?」
「逃げたわ、今度はリザードマンがネロンに攻撃を始めた。へぇ〜、粘液を飛ばして足留めするんだ。ネロンの両足を地面にくっつけたわ、それから」
ドンッ、ボォォォンッ。ドン、ボォォォンッ。ドン、ボォォォンッ。
赤い閃光が立て続けに起きて、焦げ臭い香りがして来た。
「倒したわ、あれは爆弾? こいつは水属性なのに火属性の爆弾使いか。アサシン系の戦士ね。今ドロップアイテムを掻き集めている。行くなら今、ハルっ」
イーニーがハルヒメの背中に飛び乗った途端に、ハルヒメが走り出した。遅れないように僕も地面を蹴り上げ、少し先の建物の壁を空中で体勢を変えて地面のように再び蹴った。
──見えた。
光球を一つ浮かべて照らした地面に這いつくばるトカゲ型のキャラクターが一人。右手に持っているのは、アサシン・シミター。左手には、光を反射する何かの結晶。ハルヒメが道の右側を風のように駆け抜けて行った。反応しかけたリザードマンの結晶を持つ手の方を僕も飛び抜ける。飛び抜けついでに光球は叩き割ってやった。
グオワァギャウグゴゲッ
背後で何語か分からない叫び声がした。リザードマンの言葉は変換されても言葉にすらならないんだ、初めて知ったよ。
「ラヴィ、危ない時だけ止まるから。素通り出来る時は手を出さないで。私達は急がなくてはならないの」
光球を割った事か。
「わかった」
僕は地面を走るというよりも今は蹴り飛んでいる状態だ。建物の壁すら地面と一緒、突き出た柱や傾いた尖塔を利用しながら、立体的に蹴り進んでいる。
「ラヴィってもしかして物凄く強かったりするでしょ」
「分からないけどっ」
走りながら答えた。そう言えばハルヒメが僕を彼女の空間に取り込んでくれている。今は限定的に僕とハルヒメとイーニーだけを包む領域。ここだけは普通に話しが出来るんだ。
【冒険者の皆様、ブラックオニキス第二階層、黒い瞳の狩人の街へようこそ……】
突然アナウンスが始まった。




