69 宣戦布告 4 存在意義
「言ってる意味が分かるか? 要するにだっ、アンタレスは俺が居ればいいわけ。味も何もかんも俺が反映されてるんだから、ネカマのラヴィはいらねぇって言ってんだ、だろっ。なあスワン、俺達はユーザーを満足させなきゃならねぇ、それが仕事だ。ユーザーをゲットして金を稼がなきゃ会社じゃねぇし。だから俺はアンタレスの秘密を解明すべく岩井副社長の量子系サーバーにダイブしたってわけ。んでもってなぜかはわからねぇが、ラヴィと同じ味とか匂いとか感覚を世界にもたらすことに成功した」
画面が暗転した後に、深々と黒い革張りの椅子に座るバッドムRが映し出された。グレーに縦のストライプが入ったスーツを着て、真面目にネクタイまでしている。
「お前のサーバーって誰の役に立っているんだ?」
昔の映画のように葉巻の吸い口をギロチン式のシガーカッターで切り落とした後に、極太の葉巻を口にくわえたバッドムRは人差し指の先に火を灯した。
フウ〜
画面に向かって煙りを吐き出すと、おもむろに立ち上がりブランデーのグラスを手に取る。
「何気取ってるのコイツ。オッサンか?」
ソフィーが馬鹿にしたように呟いて、ランスロック岩井と目が合い口を閉じた。
「ロゼッタもリサもモフモフもラヴィも、それからスワン、お前も。勝手なコトしてねぇか?」
ブランデーを一気にあおぐと、甲高い音を立ててテーブルにグラスを置いた。
「客が喜ばなきゃ金は儲からねえ。オンラインゲームは飽きられたらおしまいだ。だから俺は客の事を考えている。それからな、会社の従業員、更にはその家族。全部全部抱えてんだぜ、分かるよな?」
モニタールームのGM達が押し黙った。そもそも話などしてはいないが、バッドムR、いやタチバナコーポレーションの社長の息子という立場の立花達也が、現実を見て話をしている事に気づいたからだ。
「確かにこのアンタレスはラヴィアンローズに申し訳ない事態を起こしたかもしれない。だけど現実世界の彼本人は無事なんだろっ」
(なぜそれを知ってるんだ?)
バッドムRがラヴィアンローズの秘密を知っている。そんなわけが無いと、スワンが画面の前のカルを見た。
「悪いが俺は全部知ってんだぜ。知ってた、スワン、お前が黙ってた事をな。はぁ、いやお前を責めてるわけじゃ無いんだ。ユーザーがアンタレスにハマった、その責任を感じてお前が頑張ってるのをちゃんと知ってた。俺が居ない間も一人でずっと頑張ってやってくれてた事もな」
火を消した葉巻を置くと、バッドムRは顔を上げてこっちを見た。モニター画面越しにスワンと目が合う。
「すまなかった。ありがとう白鳥」
そう言うと彼は頭を下げたのだった。そして頭を下げたまま上げないバッドムR。
「どうしてだっ、カルっ、達也は知ってたって。じゃあお前も前からラヴィちゃんの秘密を知ってたのか?」
他のGM達は、先日のGM会議でラヴィ本人の口からラヴィがこの世界にハマったユーザーのコピーのような存在である事を聞いていた。カルもあの時初めて知ったはず……
「いや、よく覚えてねぇよ」
「そんな事ないだろっ、アクエリア城でもRと一緒に居たし」
結局カルは、霧の谷ストレイでのランスロック岩井を監視中に、偶然ラヴィの秘密を知った事を喋らなかった。
「なあスワンっ」
長いお辞儀から元に戻ったバッドムRが、黒い革張りの椅子に座り直した。
「俺みたいな立場の人間はなぁ、嫌われてなんぼな所があるんだよっ。お前には言いにくいんだけどなっ、切るものを切って残すものを残す、その判断を下さなきゃならねぇ。それが会社の責任者の仕事だ。つまりな……今のお前のサーバー、要らねえよっ。ちゃんとしたクエストサーバーとして使うから一回フォーマットしろっ」
「うっ」
スワンの口から声にならない声が漏れた。
フォーマット:初期化という意味で使用しました。




