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64 ダブルウェイド

 転げ落ちながら、突然岩を蹴り上げたカルが宙を舞う。彼の後に続く一本の空を切る煌きらめきは滑らかに揺れ動き鞭のようにしなった。


ビシィィィッ


「うわっ」


 ループを描いて螺旋のトンネルを作るどこまでも伸びる刃は一枚ずつが分離して繋がり、自在に曲がることが出来る。


 アンナを囲む冒険者達を襲った剣撃の軌跡は、水面を伝うフライラインのようにいきなり盛り上がり勢いを増して地面を切り裂いた。


「今のはわざと外したんだぜっ」


ガチッ、カチカチカチ、ジャキンッ


 上空から飛び降りて来たカルが剣を強く握りしめた。今まで自由に生きているような動きをしていた剣がそれだけで一振りの剣と化す。


『ダブルウェイド』


 剣を見せびらかすようにゆっくり動かしたカルは、切先を冒険者達に向けて言った。


「この剣はユニークだ。この細身の刀身は無数の細かな刃の集まり、俺の思い通りに伸びたり縮んだりする。オメーラのナマクラとは訳が違うんだぜっ」


「ず、ずるいぞっ。GMだからってそんなのばっか使いやがって。しかもさぁあんた怪我ひとつして無いし。マジなんなんだよっ」


「うっせー、死にたくなけりゃそこどけっ。後ろに隠れているエルフの女っ出て来いや。出て来ないと周りの奴がお前のせいで一人ずつ死ぬぞっ」


「うわっ、こいつ本当に悪役。マジで言ってんのあんた? どこのゲームのGMがユーザーを殺したりするんだよっ」


「俺様がアンタレスのカル様だ。問答無用、次はねぇぞっ。よく聞けエルフの女、お前の為にこいつらは犠牲になるそうだ。アンナ親衛隊とか言ったな、覚悟はいいか? おっやる気か? じゃあタイマン張ってやろうか? お前、尊い犠牲者1号になるか?」


「皆さま、私が。皆さまは退がって下さい。アンナは少し怒っています。私のご主人様と同じような事を偉そうに言うなんて許せませんっ!」


 冒険者を押しのけて前に出て来たアンナ。


「うわっエロい格好してるなっエルフ」


「あなたがカル様ですね。皇帝カイザーバッドム様の命により手紙を届けに参りました。スワン様にも手紙を預かっています、ですがあなたのような人がカル様だとは思えませんっ。怪しいです、疑問です、信用出来ません……ですから結果として敵認定致しますがよろしいですか?」


 カルから目を離さずに言い放ったアンナから暗い霧が生まれ始めた。そしてその霧の中に消えたアンナが居た場所に、一筋の青白く細長い光が現れた。


「受けて立ちましょう、タイマンとやら。遠慮なく泣かせてやりますからっ」


 アンナの姿は消えたままだ。


 いつの間にかカルを中心に黒い霧が渦巻いて、周りの景色を見えなくしていた。霧が空まで覆ってしまう、闇雲にユニーク武器、ダブルウェイドで周りや空を切り裂くカルだが、一向に何かを斬った感覚が無かった。


「およっ、あいつらも消えた」


 気がつけば目の前に居たはずの冒険者達の姿が消えていた。その代わりに、地面が赤紫色の雲になりその果てが群青の空に変わって見えた。


「始めますよっ、GMカルとやら。私はアンナ、皇帝カイザーバッドムの召使い」


ガキンッ


 ギリギリで受け止めたカルの目の前にアンナが居る。青白い閃光の剣がダブルウェイドを押し込んでくる。


「言い忘れていましたけれど、私の剣の銘は」


ギャンッ、ビギビキッ


 青白い閃光が稲妻のように刀身から伸びてカルを襲うっ。受け止めたままのカルはダブルウェイドの先端からアンナの剣と交わる場所までを分離して閃光を弾きかえしたっ。


「 ''最果ての朝日'' あなたのダブルウェイドと同じユニーク武器なの」


 華麗に身を翻し霧の中に消えたアンナ。アンナが消えると同時に霧が晴れ、カルは暗く染まった空に包まれた。

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