63 そしてカル、散る
「懐かしいわぁ、俺これに潰されたんだ」
感慨深げに巨岩を見上げる冒険者が居た。街の外壁の上は広い遊歩道がある。観光名所の一つとなったこの場所には、今も何気に見に来た人々が遊歩道に居るようだ。
「初日組だったんだよな、アメさん。俺とかトパーズ鯖だったら何も起きないままに、暫くメンテ待ちが続いていたし……」
周りの冒険者達も頷く。アメミヤさんと呼ばれた冒険者以外は全員別のサーバースタート組だった。彼らはサーバーをエメラルドサーバーに統合された時に初めてこの岩を見たのだった。
「カル様はまだ来ないのでしょうか?」
「街の外から帰って来るって話してた。本当に来るのか?」
「そもそもGMカルの姿を誰も知らないわけだし、種族が何かも言わなかったし。だからあいつら使えねーんだ」
シュバァァァァンッ
空気を切り裂く音がして、カルを待つ冒険者達の近くの地面が割れた。それを見て、直ぐにアンナを囲むように陣形を作った冒険者達。
遠距離魔法か?
矢が飛んで来たのか?
飛んで来たのは巨岩の頂上から叫ぶカルの声だった。
「待たせたなぁぁぁっ、エルフの女とその取り巻きどもよぉっ」
いきなり大声で叫んだカルに、遊歩道に居た観光客達の注目が集まる。そして……その観光客に混ざって変装していたスワンが頭を抱えていた。
(その取り巻きどもって言いやがった、馬鹿かカルは。はぁぁ、もう相手は普通のユーザーだぞ、穏便に済ませてくれよぉ)
何を勘違いしたのか、カルは黒いマントに黒いトップハット、タキシードを着て右眼にチェーン付きの片眼鏡を着けた姿で登場していた。
「フハハハハハハハッ、この私を呼びつけるとは貴様何奴? そんなスケベな格好を見せれば鼻の下を伸ばした奴らが引っかかるとでも思ったか!」
「やっ、やめっ」
やめろと言いかけて、カルのサポートとして観光客の中に居るスワンは、耳を塞いで外壁の内側の階段に向かって走って行った。このままでは起きなくても良いイザコザが確実に起きそうだった。
「なあっ、これがエメラルド鯖の噂のGMってか? 超煽って来るじゃんっ、つかさ、初日にネカマのラヴィちゃん達はGMを倒したんじゃなかったっけ?」
「あの、私はスケベな格好なんでしょうか?」
「いやいやいやっ、アンナちゃんはそのままが凄く可愛いよっ。気にしない気にしないっ」
カルにスケベ心をズバリと指摘されて、実は全員内心ビクビクしてしまっていた。
アンナちゃんのお尻を背後からさりげなくガン見してたのがバレたら、今までの俺たちがやってきたのはエロスを隠す偽善だって思われるかもと……チラチラ周りの仲間を見ても皆同じ様子。その中の一人が叫び返した。
「うるせーっ、女日照りのナルシストGMオタクが粋がってんじゃねーよっ。おっさんはゴーグル被って妄想彼女と P(自主規制)してりゃいいんだよっ」
「ふんっ、雑魚ほど吠える。お前らの私生活になど興味は無いわっ。金魚のフンの如く美少女キャラについて回って。あぁ恥ずかしい、恥ずいわっ恥ずいっ、どうせリアルでも女の尻に敷かれている輩同士の集まりなんだろう? あっいや、リア彼女なんてオメーラに居るわけねぇか、すまんすまんっ、ダッハッハッハッハッ」
「超ムカつくっ。ムカつきを通り越して尊敬すら覚えるわっ。初めて見たよ、これがエメ鯖のGMクオリティか……ルビ鯖のGMのソフィーさんとか、真面目で優しい美人さんだったのにエメ鯖のGMってイカレポンチじゃん」
「ほんとマジいかれてる。あれが演技だとしたら完璧に凄えよっ、つかほんと酷いね? 普通GMがあんな事言うか?」
「あ〜あっ、庶民に付き合ってやる暇は無いのにうだうだと常識ズラしやがる。チキンボーイどもっ、さっさとそのエルフを渡せっ。その女は俺様が預かるっ!」
「ざけんなぁっ、絶対渡さねぇっ! アンナちゃんは俺達が守る。俺達アンナ親衛隊がなっ」
「アンナ親衛隊つったか? 寒っ」
巨岩の上と下でやり合うGMカルとアンナ親衛隊の面々。その影で、城壁の内側から岩を登って行く一人の冒険者にGMカルは気づいていなかった。
(着いたぜっ)
アンナ親衛隊のグループチャットに合図が届いた。
(おしっ、みんなもっと騒げっ! こっちに注目させろっ)
((((((了))))))
「似合わねーんだよ、その格好。マントとかだっせぇ」
「あれがGMカルだってさ。で、何しにあいつ来たん? 馬鹿みたいに高い所に立ってギャーギャー叫ぶサルなのかな?」
「おいおいっ上からアンナちゃんを見てんじゃねぇよっ! このエロガッパ」
「あいつの方が女日照りだぜっ絶対。その不満のはけ口を俺達に……なんてダサすぎる。ダサいよりも可哀想すぎる」
ここぞとばかりに悪口をカルに浴びせかけるアンナ親衛隊の面々。
「ぐぬぬ、言わせておけばぁぁぁ。テメェら全員痛い目に合わせてやろうかぁっ!」
「いやいや、今から痛い目に遭うのはお前の方だ。あばよっ」
ドゴォッ
「うわっ、背後から蹴るなんて卑怯だぞ。うぉおォォォォォそんな、ば……あぁ」
ドカッズカッバタッゴンッゴロゴロバキッバキバラン・・
グループチャットで呼び出された、アンナ親衛隊の街の仲間がカルを蹴り落とした。巨岩の上から岩の表面を転げ落ちるカルが、最後に何を叫んでいたのかはよく聞こえなかった。
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用語解説
鯖:サーバーの事
エメ鯖=エメラルドサーバー
トパ鯖=トパーズサーバー




