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45 舐めて

 その頃、海辺の要塞都市では真凛(マリン)奏音(カノン)、そしてイーニーと春天公主がまったりとした時間を過ごしていた。


「ねえ真凛、さっき左肩を怪我していなかった? 服は……破れていないね」

「あなたの黒い刃に斬られた傷口はまだ治っていないけど、服は自分で直せるのよ」

「痛い?」

「気にしないで、これは仕方ないわ。襲おうとしていたのは私達の方なんだから」

春天公主(ハル)、真凛のキズも治せる?」


 イーニーの右肩に乗って、ロールした髪の間から顔をちょこんと出している小さな春天公主はぺろぺろイーニーの頬を舐めた。


「くすぐったいよ、ハル」

「真凛がそれで良いのならば治せる」


「真凛、ハルはそう言ってるけど、どう?ハルが舐めるだけだけど」

「いやイーニー、別に舐めずとも治せるが」

「えっ? いつも私の事を舐めてる……えっ?」


 さっとイーニーの髪の毛の中に隠れてしまった春天公主が、言い訳を始めた。


「やはり治癒の効力の速攻性を考えると、舐めるというのは間違いなく良い事なのだ。我がイーニーの事を舐めたいが為に舐めていたわけではない」


「本当に? さっき私のほっぺをペロペロしてたじゃない」


「痛たたたた。あぁ奏音の、奏音のほっぺも痛いの。奏音もハルさまに治してもらわないとダメなの。あっ、でも奏音の方は真凛お姉ちゃんを治した後でいいから」


 ブォンッ


 最初に真凛と奏音が対峙した時に見た、座ってもイーニーの背丈ほどある春天公主が姿を現した。


「真凛、傷を見せよ」


 真凛の左肩口の服が解けるように無くなり、白い素肌が露わになった。


「少し深いな」


 そう言いながらペロリと傷口を春天公主は舐めた。


「治ったっ! 凄いハルさまっ」


 目をキラキラさせて奏音が春天公主を見つめる。


「仕方ないな、べローリッ」


 奏音の顔よりも大きな舌で味わうように奏音を舐めた春天公主が、値踏みをするような顔をした。


「どうハル?」

「うむ、ウムウム、ペローリッ」


 いきなり真凛の顔も舐めた春天公主。


「うーむ、うーん」

「うーんじゃわかんないけど」


 真凛と奏音は顔を見合わせて苦笑いをしている。


「イーニー、お前たちは皆同じ味がする」

「奏音も大丈夫だった?」

「大丈夫とは?」

「だって奏音、影に侵されているから変な味がするかもって、それにもしかしたら影が消えてしまうかもって思って……」


 ── 春天公主から奏音へのプレゼントは狐火のペンダント。小さな小さな狐火がチェーンの代わりとなり、1つだけ大きな狐火が奏音の胸で揺れる。照らされた奏音は影ではなく本当の色を取り戻したままでいられた。



 ◆


 ノーガンミール地方のダミナの町よりもさらに奥に進んだ街道の分岐点に、黒い豹のギルドエンブレムを頭上に掲げた集団が居た。


「声出せ声っ!」

「馬鹿野郎、そんなでかい声出したらまた『リッチー』が湧くじゃねぇか」

「湧いたら集めてよっ、範囲攻撃のレイニーアローで削るから」

「頼むから全消しはやめれくれよぉ、巴。お前だけスキルが上がってずるいんじゃ」

「わかってる、だから今度は削るだけにしとくし。まあ、やばかったら撃つよ。そん時はあんた達も巻き添えだけどねー」

「手加減してください巴さん。僕ってまだ水系の防御低いんですよぉ」

「じゃあAZニャは撃たないっ」

「そう言ってこの前撃ったじゃないですかぁ」

「あははははっ、そだっけ?」


「そろそろ来るぞ、これだけ騒げばわんさか湧くわ。気合い入れろっ」


 ギルド・ナイトパンサーの斧戦士ガルフが低い声で言った。二手に別れたチームの片方のリーダー、カレー屋のガルフ。大所帯となったギルド・ナイトパンサーのサブマスターをしている男だった。

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