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93 何をやるのも自由って書いてあったじゃん

 騒めくアクエリアの城の中を進むと、見上げるほど高い天井の部屋に辿り着く。その部屋の真ん中に一本の長いテーブルが鎮座していた。


「皆さま方、本日は席の指定はありません。皆さまは現実の世界の姿では無く、アンタレスの世界での仮の姿です。どうぞリラックスしてお寛ぎくださいませ」


 美しい声がした。声の主がどこに居るのか気になるゲストが視線を泳がすと、部屋の奥から紫色のメイド服に身を包んだロゼッタが、1人の男の手をひいて出て来た。


 男の名は、タチバナ・エイザブロウ。アンタレスを含むオンラインゲームを配信するグループ会社の会長である。


「アンタレスにようこそ皆さん。この世界には人種の垣根も無く、社会的地位や年齢の区別もありません。どうぞお好きな席にお座りください。隣合えばそれが出会いの始まり、偶然が皆さまのビジネスの飛躍に繋がると信じております。さあ、食事が運ばれるまでは……」


「始まったなぁ、カル。ひっさびさだぜ。ふんっ親父見ろよ、あの若作り。何がロマンスグレーだ」


「まさかだよ、なんでこうなったんだろう? 凄え楽しみだ。味ってどんな味なの感じがするんだろう。作った俺達にもさっぱり分からなかった」


「まあまあまあまあ、開発んとこに篭ってたカル様が悩んでもしょうがない事よ。俺様に任せとけっ、うけけ。あっあとな、スワン捕まえとけよ。あいつが知ってんだよ、この食事会やら何やらの言い出しっぺなんだからな」


「あの時以来か……俺たちを地獄の炎で焼き尽くしたあの日」


「頭に来てバックれたとか言うなよっ。俺は親父に呼び出されて極秘の案件で姿を消していたが、ちゃんと全てを見ていた。お前は会社に言われて開発に戻って全てを洗っていた。外部との接触が完全に遮断されていた理由はわかるだろって言っとけ。プログラムに関わった奴は本当に隔離されてんだからな」


 広間を見下ろす中二階の通路には、何本も横に回廊が繋がっている。その1つの回廊の片隅で、燕尾服姿の凛々しい若者が2人話をしていた。


 片方の耳にイヤリングをした男のの名はバッドムR、そしてもう1人の男の名はカル。元アンタレスONLINEのエメラルドサーバーのGM、いや彼らはまだGMのつもりかもしれないが……元スワンの相棒で、Rは会長の息子タチバナ・タツヤ。カルは凄腕プログラマーであった。



 ◇◇◇



 《イザヤ、こちらオッケー》


 《了解よっ、みんな入って》


 イザヤが回廊を画面として切り取る、そしてその画面を拡大していき1番奥に写っている回廊の曲がり角の所で画面を固定した。


 ぞろぞろとギルド・テンペスタのメンバーがその画面に入って行く。


 《どっち?》


 《多分1階だと思う》


 ただ今隠密行動中のギルド・テンペスタ。場所はアクエリア城の中である。便利なギルドチャットを駆使して、声を出さずに会話しながらあるものを奪い去りに来たのだ。


 《じゃあ右側を切り取るから、リンス見てきて》


 そう言うとイザヤは再び視線の先の回廊の風景を切り取る、切り取ると言うよりもスクリーンショットのようにその場面だけを別枠として切り離すのだ。


 リンスが拡大された回廊の突き当たりの壁際に足を踏み入れそっと覗き込んだ。


 《やばっ、衛兵と今目が合ったかも。つーか足音が来たぁ!》


 《やっておしまいなさい、一撃で》


 《はあー嫌だぁ、PKしたら真っ赤になっちゃうよぉ》


 そう言いながらもリンスは[ファンフル・フォレストファング・ボウ]を手に取ると、回廊の角から矢を放った。


 《いーよー、やっつけたし。ねぇ私赤ネになった?》


 《うん、真っ赤っか。うひゃひゃひゃっ、ほんと自由だねこの世界って。セーフゾーンって噴水広場の所だけなんだ》


 《マジ凹む、次は苺がやってよ》


 《俺、剣士だもん。遠距離ないと無理っ》


 《役立たずっ》


 《行くわよっ、みんな入って》


 目指すは復活の果実。この城のどこかにあるはずの果実を頂く為に、彼らは中二階の回廊を進んでいるのであった。

バッドムR。 遠い昔に退場した社長の息子。


カル。 スワンの友達でバッドムRの先輩。プログラムのスキルが高く、スワンがとても頼りにしていた。


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