63 君はNPCでは無い、ならば彼女は?
リサがC.Cを現実世界に戻そうとしている頃、アクエリアのカレー屋、ガルフのカレー店ではラヴィとガルフが向かい合って話をしていた。
フレデリックがウェイターになった。美少年、目鼻立ちがキリッとしており、彼の鋭い眼差しで見つめられると、誰もが心の中を見透かされそうな気がする。
カレーを食べに来たリアル女子にとっては、見つめられてドギマギさせられる謎のNPC人気ランキングに急浮上という訳なのである。 彼に対するストーキングも発生して、店から帰ろうとする彼を尾行しようとした冒険者も現れたぐらいだ。
ただし、それに気づかないフレディでは無い。 元々尾行、潜入工作、暗殺に特化した元ゴブリン。 アクエリアの女神の泉の魔力で人に変化した今でも、その特技が失われたわけではなかった。 彼がガルフのカレー屋から家に帰る時間は、街灯が灯る夜になってから。 あっという間に闇に紛れて彼の姿は見えなくなってしまうのである。
◇◇
「ガルさん、ここってナイトパンサーのギルドの店だよね。 みんなは手伝いに来ないのか?」
日が暮れて、客も帰ってしまったガルフのカレー屋で、ラヴィがキッチンのカウンター越しにガルフに話しかけている。
「店の手伝いは殆どしてくれないな。 なにせカレー屋がやりたいなんて、うっかり言ってしまったのは俺なんだし自業自得な所はある。 まあ、だけど食材探しには行ってくれてるし、他のメンツには狩猟管理官の仕事ってのもあるしな」
「ある時はカレー屋のオヤジ。 そしてある時は最強の斧戦士。 その名はガルフ、いつかはプライネ使いの男、とりあえす乾杯!」
ラヴィがガルフに貰ったカップの水ををサワーヨーグルト味に変えて飲み干した。
「ユニーク斧のプライネか」
感慨深げにガルフが呟く。
「ガルさん、フレディの評判は俺が言っちゃなんだが良いよ。 普通に女受けしてるし」
「フレディもだが、ラヴィさん、あんたは一体何者なんだ?」
「んっ? GMかな。 結構自由な」
「GMがNPCの姫さんと付き合うのか? あぁ、わかってる。 NPCの前でNPCって言うのはタブーだったんだな」
ガルフは調理済みの料理を入れておく棚から、肉の載った皿を取り出しラヴィの前に置いた。
「タンドリーチキンを作ってみた。 グアナコ系の肉なんだが、鶏肉に似ている。 食ってみてくれ」
「うおぉ、タンドリーチキンだっ。 食べた事無いけど」
「無いのか? というかラヴィさん、あんたはプレイヤー兼GMなんだよな。 うちのメンツの中にあんたがNPCだって言うやつが居るぜ」
ラヴィは黙って肉にかぶりついている。
「オッサンの戯言だと思って聞いてくれ、ラヴィさん」
ガルフが返事をしないラヴィに向かって話を始めた。
「俺はあんたと話をしてあんたが人間なのは間違いないとわかった、だからこそ気になる事があるんだ。 それはな、リサの事だ。 NPCのユニークキャラクターのアラネア・リサ、アクエリアの姫さんであんたの彼女」
ガルフはそこまで言ってから、店の玄関の鍵を掛けに行った。 フレディは30分程前にラヴィを残して先に帰っている。
「うちのメンツも居ないし、あんたと俺だけだ。 肉、美味いか?」
「うん、味が染みてて美味い。 スパイスで口がヒリヒリするけど」
「そうか美味いか、良かった。 ところでさっきの話の続きだ。 リサはNPCで間違いないな?」
「うん」
「じゃあ彼女の精神的な部分は誰がプログラミングしたんだ? はっきり言おうか。 いくら技術が進歩したとは言え、人間の精神と同じものをプログラムで再現するのは有り得ない話だ。 だとすればリサも俺たちと同じ人間で、その人間がリサを演じている事になる」
「うん、そうかもしれないね」




