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48 湯けむり美人

「きゃあっ、あぁカッコいい」


「凄い筋肉、腹筋がこんなに割れてる人って、あっエルフさんだった。 初めて見ました、触っても良いですか?」


「いや、いやいやいや君達、あのタオルとかは無いのかな?」


「えっ、温泉のマナーをクニークルス男爵はご存知ないのですか? タオルを巻いてお湯に入るのはマナー違反です。 だからほらっ、みんな堂々とねっ」


「私、お背中流しますっ!」


「だめよっ、私が先に近くに来たんだから私がやるの」


 そう言った花雅の本館で女中をやっている楓が、モフモフうさぎの腕に抱きついて引っ張ろうとする。


 全員が全員スタイルが良くて、たわわに実っている。


「やめてっ楓、露骨に胸を押し付けてるじゃないっ。 あっ、男爵……」


「ほらぁ、男爵が困っちゃってるじゃない。 イケナイ子ですねっ」


(やめてぇー! ラヴィちゃん、嬉しいけどヤバすぎるゥゥ。 この人達って本当にNPCなのかなっ、もしかしてプレイヤーじゃないのっ? AIがこんなに積極的に絡んでくるなんてあって良いのかしらっ?)


「ねぇ、取り敢えずお湯に入りましょう。 ごめんなさい男爵、ちょっとからかってみただけです。でも遠慮なく目の保養にしてくださいね。 自信はありますから、ねっみんな」


「ずるいぞぉ、雛。 良いとこ取りしてるし。そんな顔して男爵に近づいたら襲われちゃうぞ」


「本望よっ」


「じゃあ、勝負。 ジャンケンで勝った人がお姫様抱っこされるっ」



 ◇◇◇



「凄い事になってるね」


「ローズ、リサはローズと結婚したら入ってあげる」


 服を着たままの2人。貞操を守る、それは貴族の娘であり姫でもあるリサには破る事の出来ない決まり。


 いつか破る事があっても、それは今夜ではないと言う事。


 ◇◇◇



 本来なら男湯の看板が掛けられていたはずの場所に、女湯の看板が掛かっていた。 掛け替えたのはラヴィ、女中をお風呂に呼んでいたのもラヴィであった。この世界に性的にリアリティな行為というのは反映されていない。手や体に触れたり、キスをしたりするぐらいまでは普通に出来るが、やれる事はそこまでだ。だから問題なしとラヴィは考えたわけだ。


「リサ、ロゼッタには内緒だぞっ」


「カンキ アヤトはリサとやりたいの?」


「いきなりそんなダイレクトな……」


 本名を呼ばれてドキッとしたラヴィ。 そんなラヴィを真っ直ぐに見つめてリサが言った。


「今のローズには駄目、 結婚していないから。 でもリサはカンキ アヤトが望むなら、この身を捧げるわ」


「どうして?」


「誓ったもの、もう忘れたの? リサは君の本当の名前を知ってしまったの。 そしてその名前はリサに刻まれてしまっているの。 刻んだのは私自身、リサはローズのリサである前に、カンキ アヤトのリサ。 ローズはリサのローズだけど、リサはアヤトのリサ」


「そっか、でも温泉にはリサも入って欲しいな。 気持ちいいんだよ」


「水着を着てならローズと入ってあげる」


 湯気が立ち昇ってリサとローズの間を遮った。


「リサ、それって殆ど裸じゃ……」


 リサは服を形取っていたリサの糸を解いて、一瞬で水着に作り替えていた。


 リサは顔を赤らめてラヴィの前に立った。 両手で胸を隠して俯いている。


「意地悪じゃないの、リサも本当はローズの望んでいるように裸になってしまいたい。 でもそうしたらリサは偽りのリサを捨てて、リサの本当をローズに見せてしまう。 それは今じゃないの、だからこれで我慢してっ」


 白い背中を見せて、岩風呂に入って行くリサは水着の下だけは着けている。お湯に浸かるとリサはお湯で濡れてしまった髪を巻き上げて、リボンで止めた。


 ── リサにはまだ秘密がある。 たった今話をしていたリサは、いつものリサの言葉遣いじゃ無かった。


(わかってるよリサ、 リサはリサを演じている。なぜそうしているのかはな分からないけれど。でもいつか話してくれるなら別に構わないし、いつものリサの方で良い、俺は好きだよ)



 ── 何も起こさなかったけれど、何かが起きた温泉の夜。



 リサという奇跡が目の前に居て、自分自身も奇跡の存在だと言えるラヴィアンローズ。 2人とも現実世界から見れば情報の集合体、人工知能と『カンキ アヤト』という本物の人の精神をコピーして生まれたラヴィという人工知能。


(そうだ。 俺もリサと同じ人工知能なんだ。 だからか…… 俺自身だった俺、『カンキ アヤト』の方がリサにとっては上って事。 アヤトは人間だったんだからな)

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