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10 そびえ立つ尖塔

ガラオロス山の冒険 ep.10

 真紅の甲冑を身に纏った男、リハクが尖塔の入り口になる白い扉の前に立った。


「中から鍵を掛けられてな、モフモフうさぎよ、お2人とは友人だと言ったな。ならば開けてもらえないか?」


「リハク殿は開ける事が?」


 見たことも無い赤い甲冑を惚れ惚れと眺めながら、モフモフうさぎは、扉など勝手に開くものと思っていたのだが、扉の前で立ち止まってそんな事を言う紅竜リハクに面食らった。


「剣を交えた仲よ、殿は要らぬ。モフモフうさぎは私の事をリハクと呼んで良い」


「それは光栄です。ですがリハク、あなたの力で扉は開かないのですか?」


「普通に話せモフモフうさぎ、さっき言ったであろう、鍵が掛けられたと。 この扉を壊すわけにはいかんのでな」


 白い両開きの扉の金色の取っ手を持って引いて見せるリハク、 確かに全く開かない。


「下のドームというか、ラヴィちゃん達か隠れていた所の剣撃の跡はリハクがつけたのか?」


「普通に話せとは言ったが、いい加減、中のお2人に声を掛けたらどうなのだ? それとも友人と言うのは嘘なのか?」


 赤い瞳がモフモフうさぎを見た。


「余計な話だったな、すまん。 中に居るって内側のすぐそこに居るのかな?」


 モフモフうさぎがリハクの隣に立って、白い扉の中を透視するかのように目を凝らして見せた。 背の高さは同じくらい、知らない者がいきなりこの2人と出会ったら、あまりのイケメンぶりに言葉を失うだろう。


「おほんっ、あー、ラヴィちゃん! 俺だよっモフモフうさぎっ。そこに居るなら鍵を開けてくれないかっ」


 ── シーン。


 中から物音すらしない。


「もしかしてこの扉、音を通さないとか? 中の音も全く聞こえないじゃん」


 言い訳のように聞こえたのか、リハクの視線がさすがに痛い。 もしかしたらこの扉を開ける事もクエストのギミックの1つなのかもしれない。 閉じられた扉を開く為には……


「ラヴィちゃーーん、鍵を開けてくれー」


 大声で叫んだモフモフうさぎが、真ん中に左右対称に付いてある金の取っ手を両手で握って扉を押した。



 スッ



(えっ、えっ、開いた。と言うかこの扉って、引くんじゃなくて押せば良かっただけとか)


 外から見た感覚よりもかなり厚身のある扉が、音もなく奥に向かって開いて行く。


「か、鍵が開く音すらしなかったな」


 扉を押しながら、モフモフうさぎが取り繕うように言ってみた。


 急に扉が開く速さが増した。


「押せば良かったのか」


 両手で右側の扉をリハクが押していた。


「気にするなモフモフうさぎ。 何事も経験である、まさか押すだけとはな」


「リハクはここに来るのは初めてなのか?」


「そうだ。 詳しくは後ほど話そう。 ラヴィ殿とリサ様で名は間違い無いな? モフモフうさぎ」


「あぁ、だけどなんでラヴィ殿とリサ様なんだ?」


「お2人にお会いしたらそれも話そう」


 そう言って、リハクが尖塔の中に足を踏み入れた。 モフモフうさぎも中に入り、上を見上げて言葉を失った。



 ── 円形だと思っていたフロアの中は、外から見て想像していた物とは全然違っていた。 入った途端に赤黒い空が広がり、焼け焦げた匂いが辺りを漂う。周りに壁は無くそこにいたはずのリハクの姿も消えてしまっていた。


「モフモフうさぎ、お前には何が見える?」


 唐突にリハクの声が聞こえた。


「ドラゴン、戦っている。炎のドラゴンだ、お前だリハク」


 翼を広げた紅の竜が火を吐きながら空から襲いかかって来る。それは現実ではあり得ない光景、モフモフうさぎと重なった何か別の生き物らしき影に向かって火炎が降りかかり、周りの影が燃えて消えていく。 炎を被ったはずのモフモフうさぎは何も感じる事はなく、それでこれが現実ではなくリアルな映像だと分かった理由であった。


バフッ


 映像でありながら音がする。 体全体が燃え上がり、おそらく傷を負っていた紅竜リハクは、完全に復活した。 周りを見回して敵の姿がない事を確認すると、翼を広げて再び空へと飛び上がって行った。 下からそれを見上げていたはずのモフモフうさぎの周りの景色がいきなり変わった。


 モフモフうさぎの隣に空を飛ぶ紅竜リハクが居る。モフモフうさぎは立ったままの状態で周りの風景だけが通り過ぎていく。視線を前に移すと、その先には暗黒の城のような物が見えていた。紅竜リハクが目指すのはそこなのか……雷が城に落ちている。何度も何度も……


(ハッ)


 肩を叩かれて、現実に戻って来たモフモフうさぎ。肩を叩いたのはリハクであった。


「大丈夫か?」


 緊張していたのか、息を深く吐いてリハクとその周りを見回しすモフモフうさぎ。天に向かって伸びる尖塔の内側の壁は、上に向かうにつれて湾曲していて、しかも外観から想像していたよりもかなり中は広かった。


 静かな時間が流れていて、円形のフロアの中央に1本の樹木が生えている。その場所だけ芝生のような緑が床を覆っていて、柔らかな黄色がかった光が照らした樹木の下にラヴィとリサが倒れていた。


「リハクは何が見えたんだ?」


 先に歩き出したリハクを追いながらモフモフうさぎが聞いてみた。


「誰かはわからぬが、人間の女にしつこく付きまとわれる自分を見た。お前やラヴィ殿の姿もちらほら見えたから、知り合いなのではないか?」


 2人が見た光景は別の物だったようだ。それぞれの未来なのか、それとも何かの意図が働いた物であったのだろうか。


 床の色が変わり緑の丘に変化した。モフモフうさぎがお互い同じ物を見ているのかを確認するように、リハクの方を見た。先に歩くリハクが、少し上り坂の丘を歩いて行く。平らだったはずのフロアなのに今は段差さえ再現された。いや、そもそも別の場所に移動したのか?


 そんな事を考えながらも、次第にモフモフうさぎとリハクはラヴィとリサが倒れている樹木のそばに近づいて行った。

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