6 紅竜
ガラオロス山の冒険 ep.5
天空の神殿の聖堂は、白い柱が両側の床の端からカーブを描いて天に伸びている。天井部分は全く無くなっていて空が広がり、いやもしかしたら元々天井は無かったのであろうか。
今、そのフロアの中央に立って全方位に注意を払うモフモフうさぎが居る。
ブォンッ
空気が震えた。左手から赤い物体が一気に空へ舞い上がった。モフモフうさぎは、奴の目が自分を一瞬睨んだのを見逃さなかった。
(でっけぇなぁ、赤い翼竜か)
(心地良い音が鳴るな、所有者よ。我を呼び出すには上々の舞台ではないか。 紅竜が相手であるな)
ライジングサンが念話でモフモフうさぎに話掛けてきた。モフモフうさぎの両手に握られる先細りの長剣、峰の部分に装飾の施された美術品のようなサーベルがライジングサン、アンタレスの世界にライジングサンと名のつく武器は、1つしかないユニークアイテムだ。
(来るぞ)
ライジングサンがそう言った。モフモフうさぎが空を見上げると、赤い点が空から落ちて来るのが見えた。
(戦闘機なら爆音が聞こえるんだろうけど、あいつは全く音がしないな……あの勢いで突っ込んで来たらこの場所ぶっ壊れるんじゃないか?)
(ならば受け止めてやれば良い、暫しその身を借りるぞ)
モフモフうさぎに憑依したライジングサンが、能力を発揮した。床を軽く蹴り上げると、その身を天空に向かって一直線に紅竜に迫った。
この世界の紅竜リハク、実はまだ幼体である。この世界とは、クエスト専用の記憶媒体であり、アンタレス本体のサーバーよりも容量がかなり大きいスワンが用意した量子系のサーバーで、ラヴィが生まれたのもこの世界の出来事であった。
何を取っても普通ではないこの世界に存在する紅竜リハクが人を見たのは、今日が初めてだった。
ライジングサンがユニークアイテムであるように、紅竜リハクもユニークモンスターである。それは意思を持ち、自ら行動を決める事が出来る生き物であるという事。
寝床に現れた小さな生き物。 そのうちの1匹が自らに向かって来る。
(奴も飛べるのか、あの小さな身体で。 翼が見えないが、2つの光る剣……剣とはアレの事か。 知っているのに、見た事は初めてだ )
「ローズっ、うさぎと赤い竜がぶつかるっ」
ラヴィとリサは身を潜めているドームの入り口から空を見上げていた。モフモフうさぎがいきなり飛び上がって、しかもそのままロケットの様に空に昇って行った。 分かってはいたが空さえ飛んでしまうモフモフうさぎには、いつも呆れさせられる。
モフモフうさぎと赤い竜が交差した様に見えた。
「あっ、うさぎが食べられたっ」
「いや食べられてないよ、まだ上空に居る。 それより竜が来るぞっ」
モフモフうさぎと交差した後、そのまま聖堂に向かって来る赤い竜がぶつかる直前に翼を広げて減速した。
空気が熱せられて、生暖かい風がドームに流れ込んで来た。
バサッ、バサッ・・・
翼の音はすれど、その身体が聖堂に触れた音はしなかった。身体全体が熱を持つのか、翼が起こす風は熱風。火属性の竜である事は間違いない。
「ローズ、あれって私達とは相性悪いよね」
「悪いな、緑系は火に弱い。 モフモフさんはどこだよ」
赤い竜は、ドームの2人に気づいてはいるが、気にする様子もなく翼をたたみ、四肢を床につけた。
トンッ
まるでテレポートしてきたように、赤い竜の前にモフモフうさぎが姿を現した。手に持つ剣がギラギラと光を放っている。
「改めて自己紹介から始めようか紅竜よ。 我はライジングサン、竜と舞うのは剣士の誉れ、我と一曲手合わせ願いたい。 竜舞曲の調べで炎が踊り、雷光が揺らぐのもまた一興。 行くぞ紅竜、我はライジングサン、闇を統べる者とは我の事よ」
左の剣を体の前に真っ直ぐに立てて、剣舞の始まりの口上を声高らかに歌い上げたモフモフうさぎ。
物言わぬ紅竜は何を思うのか。




