64 紐解けば、麗しの君に逢わん
「今君は何て言った、ねえ、君は……リサって言わなかったかい?」
「えっ、リサそんな事言ってないもん。ロビーだもん、ロビーはBLLだもん……」
最後は消え入るような小さな声になってしまう目の前のロビーの姿をした誰か……リサって言ってたけど。
「君は僕の事を覚えていないんだね、そっか、やっぱり」
生まれ変わってこちらの世界に居るって、スワンとモフモフさんに聞いていた。それでいいと思ってた、生きているだけでいい、君の存在が消えてなくて僕の事を覚えていなくても、僕は君を知っている。いや、知っていた。今でも、これからも絶対忘れない。新しい君は、新しい君で。僕の知っている君は、ずっと僕の隣で……
「何で泣くの?」
「えっ、あっ本当だ。涙がでてるや」
「涙、初めて見る。触っていい?」
「泣いた事ないの?」
「うん」
「そっか、どうぞ」
「綺麗な薔薇のお花が咲いてる。あなたからいい匂いがしてるのは、このお花のせいなのかな?」
「匂いまでしてたの? 分からなかったな……」
無意識に流れた俺の涙。薔薇の上に残るその涙に彼女の指が触れた。
── 紐解けば、麗しの君に逢わん。残り香を肌にうずめて在りし日の記憶を残す。途切れた紐を手繰り寄せて、今、再び我ときつく結ぼう。
ロゼッタの館でリサが俺の右の首筋に口づけをした。あの時のリサが残したリサのカケラ。
今再びリサが触れて繋がった。
リサを包む糸がほどけてロビーの顔が懐かしいリサになる。
「ローズ?」
「あぁ……リサ」
俺の膝から力が抜けた。目の前に居るリサを見て、もう何も考えられなくて跪いて、リサのお腹に顔を埋めて彼女を抱きしめて泣いた。
「ローズ、ねえローズ。恥ずかしいよっ、みんなが見てるよっ」
「今ここで誓うよ。リサ、俺は君を永遠に守る。もう二度と離さない」
リサの返事なんて要らない。俺からの一方的な告白だ。
(永遠なんて元の世界じゃ言えない事だった。でもこの世界が続く限りなんて言葉は使いたくなかったんだ)
「リサね、今お姫様をしているの。ローズは逢いに来てくれなかった。だからリサは探しに来たの、リサのローズを取り戻しに来たの」
いつの間にか、大勢の人々が周りを取り囲んで2人を見ていた。その中にはお姫様のお披露目会に参加した者も多く居た。
「あれってリサだよ。顔がその辺の人と全然違うじゃん、なんで? なんで、なんで? ここに居るの?」
「えぇぇぇぇ! 俺のリサ様がぁ。誰だよあれっ」
……
リサが俺から離れてアパートの玄関の前の階段の上に立って振り返った。何か言おうとするその姿に、辺りは静まりかえる。
「私は、アラネア公爵の娘リサです。リサが今ここに宣言します。私の騎士はそこに跪く聖騎士、ラヴィアンローズ。証人となるのは今ここに居る全ての人々です」
リサが左手を差し出した。
俺は立ち上がって階段で身を屈めて、リサの手にキスをした。
(なんとなくだけど、こんな感じだよねっ。恥ずっ)
一瞬静まり返った人々がどっと湧き立った。
「まじかー、ビッグニュースだー! リサ姫の騎士が決まってしもうたぁぁぁ」
「認めないっ、俺は認めたくないんだぁー」
「ぎゃぁぁぁぁぁあ」
取り敢えず叫ぶ人も居た。
俺達はアパートの玄関の扉を開けて中に入って鍵を閉めた。
「ローズ」
「んっ?」
「ただいまっ」
「はっ……」
力が抜けて、俺はへたり込んだ。何やったんだ、俺。何かみんなの前で、騎士が王女様にやるみたいにキスしたりして……
「おかえり、私のローズ」
俺の頭を抱えてリサが優しく言った。




