48 ドワーフの王子
激しく降り注ぐ雨は視界を塞ぎ、この世界の豪雨と言うものを皆初めて体験していた。
職業剣士の冒険者たちが手にした "時雨"
名前の通り日本刀である。腰に差して鞘から剣を抜く。本来の重さを感じる事なく軽く扱えるのは、持ち主としてそれぞれの時雨に登録された冒険者のみだった。
アクエリアの北側の壁の内側に設置された、ベルクヴェルク討伐隊本部の周りには、沢山の臨時テントが設営されていたのだが、その周りで時雨を抜いては振ってみる冒険者達のせいで降り出した雨は、時折勢いを増して豪雨になっていた。
「これだけの軍勢が歩いていくのか?」
「そんなわけないだろ、距離にして2週間かかる」
「スポーンゲート?」
「そうなんだが、よく考えてくれ。アクエリアの街の中に出発ゲートを設置した場合、もしも出口のほうのスポーンゲートをゴブリンたちに奪われたりしたら、逆に直接あちらから直接攻撃を受ける可能性がある。だから、こちらからの出発ゲートはアクエリアの街からは少し離れた場所に設置しようと思うんだが」
作戦会議、本来ならば参加する冒険者達が主導で行うものだが今回は違った。お姫様のお披露目会と同じように、突発イベントと捉えられているベルクヴェルク討伐隊の作戦会議に冒険者の姿は無い。スワンを中心としたGMが集まって話し合いを続けている。
「攻城戦に近いもんだろ、城門が閉じられていたらどうやって攻め込むんだ? 外で時雨を振り回しているあいつらに何が出来るんだよ」
やるのは本当の城攻めである。ゲームの運営が用意した、さぁ攻めてくださいと言うような簡単なものではないのだ。みんな黙り込む……軍隊の知識、戦略の知識、実戦の経験、誰1人として備えているものがいなかった。
「ユーザーに誰か軍事オタクはいないのか?」
「外で声かけてみるか、これだけ人がいたら多分誰かいるだろ」
「わかった、だが先にこちらだけで決めておかねばならないことがある。もしもゴブリンに捕縛された場合、強制的にログインの解除及びゴブリンの時間軸からの切り離しのための設定を行おうと思っているんだ」
「つまり?」
「帰還アイテムとしての役割を、ユーザーに配った武器に付属させている。武器自体をそれぞれのユーザーと登録させたので、もしも戦闘中にゴブリンに倒されたり捕まったりした場合には、状況如何にかかわらず自動的にここに戻ってくるようにしたんだ」
「もう設定済みなんだろう? だったらユーザーにその話を説明して、参加させればいいだけじゃないか」
「みんなもそれでいいかい?」
「難しいのはあれだな、これがイベントとして受け止められていてユーザーが本気を出すかどうか。それと今後のアンタレスの展開に良い影響を及ぼすか?」
「つまるところ、この戦争でユーザーにどうやってお金を使うタイミング、シチュエーションを生じさせるか。そこをちゃんと検証する段取りをとっておかねばならない。その辺は抜かりないなスワン」
「はい、ですが各部隊を率いる皆さんもご協力お願いいたします。行く先々で一体何が起きるのか想像がつきません。実際何日かかるのか、補給部隊はどうするのか、後詰はどうするのか、本当に考えると遊びの範疇を超えてしまっています。リアルに行すぎる傾向のあるアンタレスを楽しいと思わせるようにがんばりましょう」
絶望的な会議だった。本来軍事行動とは情報を得ることから始まる。そこに多分とか、どうにかとか、誰かがとか、曖昧な要素が溢れる話し合いに明るい展望はなかった。絶対的な勝利を設定して、少し強引とも思われるやり方で挑まねば、今回のゴブリンの討伐、人工知能を備えたゴブリンたちを倒す事は不可能に違いない。そのことを危惧するハルトが最後に言った。
「あいつらは悪魔だ。容赦なく叩け、やらなければ俺たち以上に非情で非道を突きつけてくるやばい奴らだ。外でヤギが騒いでるみたいに、ギャーギャー言っているプレイヤーを焚き付けて来るわ。俺が大将でいいんだろう、ベルクヴェルクから命からがらアクエリアに逃げついたドワーフの王子 "スティング" 様だ。1発かまして来るわ」
そう言ってハルトは会議の行われていたテントから出て行った。彼の姿はドワーフ、アクエリアの街にはまだ1人も居ないドワーフであった。




