31 友人になりましょう
城を警護しているのは一般のプレイヤーではなく、アンタレスの世界のNPCである。
紺色の生地に水色のライン、アクエリア王室の家紋が左胸に金色の刺繍で縫い込まれた制服は、ロビーが何かを想像するには格好の材料であった。
「こちらの部屋でお待ちください」
王宮広場が窓から見渡せる2階の部屋だった。外からこちらが見えないように、レースのカーテンが張られているので、観客席からロビーの姿に気がつく者は居なかった。
ロビーがもっと良く外を見ようと、レースのカーテンに手を伸ばした時に……
「あー疲れたっ。あっ、ロビー。お待たせしたのね、カーテンは開けては駄目なの、開けてしまったらきっと激写されて大変な事になるの。そうお姉様がリサに言ったの。だからこちらへどうぞ、お話しをしましょう」
リサがドレス姿のまま部屋の中央に置かれたアンティークな丸いテーブルの周りに、3脚置かれた椅子の1つに座る。
「ここで良い?」
「うんっ、そっちはロゼッタ姉様の椅子。ロビーはスワン父様の椅子に座ってね」
(スワンは城に居るのかな?)
「ロゼッタは?」
「ロビー、リサは良いの、全然気にしていないの。でもロゼッタ姉様の事を呼び捨てにするのはリサ嫌なの。それがロビーでもやっぱり嫌なの。だからロビーも姉様の事はロゼッタ姉様と呼んで欲しいの」
(いや、姉妹の仲間入りになっちゃうじゃないか。僕がロゼッタ姉様とか言ったら何か変だろ)
「ごめん、リサ。確かに失礼だったよ。リサもロゼッタ姉様もお姫様だ。改めるよ、リサ様」
「リサはいいの、そんな風に呼ばれたらリサもロビーの事をロビーさんって呼ばなくてはならないの。他人行儀はしたくないの。だからリサはロビーをロビーって呼ぶから……」
「リサっ、もうやめなさい。ロビーが私のことをロゼッタと呼ぶのは構わないわ。私達には名前で呼び合う友人がこの街には誰一人として居ないでしょう」
ロゼッタがお茶を運んで来た。テーブルにそっとカップを置きながら話を続ける。
「ロビー、先程のお礼とは別の話だけれど、私達とお友達になりましょう。城の外に出る事を許されない私達にとって必要なのは、心を許せる友。あなたは外の世界を知っている人で、私達と同じ女の子。お披露目会に来ている人々のように、私達から選ばれるつもりが無いなんて、初めてだしそれは重要な事だと思うの。お父様にもお願いするわ、どう? ロビー、私達の友達として話し相手になってくれない?」
(考えろっロビー、これは千載一遇のチャンスだっ。お姫様と友達という事は、そのうち出てくる王子様と城の中ですれ違う事は必定。あわよくばロゼッタとリサのように、話し相手を必要とするかもしれないし、王子様のお披露目会なんてものが開催された時には、きっと王子は……『お披露目会で数々の誘惑を受けながらも、俺には心に決めた人が居る。なのに王子という立場ゆえにロビーを選ぶ事が出来ないっ、俺とロビーの禁断の愛。あぁ、愛のままに素直になりたい。ロビーをこの胸に抱いて……』みたいな事になって、その後は……)
「ロビー、ロビーったらロビー。どうしたの? 戻って来てっ」
「あっ、えっ、ごめん。ちょっと考え事をしてた」
「そうなんだ、急に遠くを見る目になってしまったから、リサ心配したの。なんかハァハァ言ってるし病気かなぁっ思っちゃった」
「……」
「ロビー、私達の友人には」
「はいっ、是非。何という光栄で勿体ないお話しでしょう。あまりに唐突、衝撃を伴う未来を夢見てつい、意識が飛んでしまいました。ごめんなさい」
「謝らなくてもいいのに、リサは心配しただけっ」
「ありがと、リサ。よろしくロゼッタ」
「よかった、断られるかと思ったわ。さぁ、お茶が冷めるわ、飲んでみて。私が煎れたお茶よ、美味しいから早く飲んでみて」
「ウンウン、姉様のお茶は凄く美味しいの、舌が痺れて意識を失うぐらい美味しいの、だからロビーは飲むの、笑って飲むの、勇気を振り絞って飲んでみるの」
(なんで勇気を振り絞る必要があんのかな……)
ジーッとロビーを見つめるロゼッタとリサ。そもそもロゼッタの前にはカップすら無い。リサはカップに手をつけずにお人形様のようにロビーを凝視している。
(何かこのお茶に入っているの? やばいやつ? そうなの? ロゼッタは飲む気すら無いじゃん)




