26 サーバー統合、大混雑
「ちょっと、おいっ、ちょっと」
背中を押されて我に戻ったロビー。気がつけばあっという間に30分が過ぎていた。王子との妄想の世界から戻されて、慌てて城の外門から中に入って行く人の流れに乗った。
(はぁ〜、やばかった。王子が僕のシャツのボタンを1つずつ外してきて……)
頭を振って妄想を振り払うロビー。たまに漏れるロビーの変な声を側で聞き耳を立てて聞いていた人は、この女がどうもあらぬ妄想に盛り上がっている事に、さすがに気がついてしまっていた。
(こいつ王子とか、口走ってたよ。頭おかしいんじゃないの? 今からお姫様と会うのに……)
前を歩くロビーの背後で、今日初めてエメラルドサーバーに入って来た、元トパーズサーバーのプレイヤーがそう思っている事など、お花畑のロビーが気がつく、いや寧ろ気にする事すら無い様子だ。
「うわぁ、立派」
城の外門をくぐりながら、門を見上げて声に出すロビー。中に入って更に声をあげた。
「うひゃー、広っ。で人が多過ぎ!何なのあれっ、スタジアムみたいに観覧席まで作られてるじゃない。あんな物があるから人が入らなくなるんじゃっ」
ロビーの言った通り、お姫様達が出て来て立つお披露目ステージを中心に、正面に新しく姫と対面するプレイヤー達、離れて左右に段々と積み上げられた観客席に満席の人々が居て、この会場を盛り上げている。
「何あれ?」
「知らないのか?」
「えっ」
ロビーの後ろから声が掛かった。振り向くと、まだまだ始めたばかりの装備に身を包む木の盾、ショートソードのハーフエルフの少年が居た。
ロビーはエルフの女性、後ろに居たのはハーフエルフの少年。ハーフエルフは、ロビーがキャラ作成した時には無かった種族だ。サーバーの統合の際に、長期メンテナンスの続いた他のサーバーのプレイヤーはお詫びとして、新キャラを選ぶ事が出来るようになっていた。
「ふ〜ん、それがハーフエルフかぁ、ほぉ〜」
「えへへ、じゃなくてさ、あの観覧席の事」
「あっ、うん」
「知らないんだろ」
「知らない、つか、あなたを知らないんですけど」
「俺か? 俺はトパーズから来た "ラーズ" だ。君は?」
「僕か? 僕は元からエメラルドサーバーの "白刃のロビー" だ。と言っても今日が2日目なんだけどな」
「声が可愛いね、地声? それともエフェクト? あぁ、言いたく無かったらいいよ。女かと思ったから」
(男が王子様って言ってたのか……やばっ)
「で、あれってなんなんだ? ラーズさんは知ってるの」
「うん、あれはね、朝1番に並んでチケットを買わないと座れない観客席。夜中から並ぶ猛者も居るらしいよ」
(声の事は軽くスルーしやがった、触れないでおこう)
「ヘェ〜、そんなにお披露目会って人気があるんだ。で、お披露目会って何をするの? 姫が誰かを選ぶとか書いてあったけど」
「それをこれから俺達がやるんだよ。お姫様に挨拶して選ばれたら、姫様専属の貴族になれて専用装備とか貰えるらしい」
会場のスタッフがロビー達プレイヤーに声を掛けて、順番に並ぶように誘導している。言われるがままに綺麗に整列して行く日本人、いや冒険者達。さすが、並ぶ事に慣れている。
「先にどうぞ、君のをお手本にするから」
順番を代わろうとロビーが言った。
「いや、ロビーさんがお先にどうぞっ。もしかしたらロビーさんが気に入られるかもしれないでしょ」
「いやいや、僕はお姫様には興味が無いから」
(だよね、王子様……)
「何笑ってんだよぉ、ラーズ」
(いきなり呼び捨てが来たーっ!)
会場にファンファーレが鳴り響いた。一旦引っ込んでいたお姫様達の登場の合図だ。
「だって、さっき並んでいた時ロビー、散々 "王子様〜" とか、 "あっ" とか、 "えっ" とか変な声を出してたし……」
ラーズが話しを続ける程に顔が真っ赤になって行くロビー。ついには顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまった。
「おいっ、ロビー。立てよっ、座ったら邪魔だぞ。耳が真っ赤じゃねぇか」
立ち上がったロビーがラーズに詰め寄る。
「テメー他の誰かに話したらコロスッ。お前なんか姫様にボロクソのギッタギタにやられて来いっ」
「あははは、だからぁ、声が可愛いんだって」
ラーズの小さな木の盾を何気に奪って顔を仰ぐロビー。
(本当に男?)
ロビーの仕草にちょっとだけ疑問を抱いたラーズであった。




