猫歴60年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。車掌さんではない。
猫歴60年の慰霊祭は、猫耳テロリストのせいで台無し。その一報を聞いたわしは、猫クランメンバーを猫耳市とソウ市に送り込んだ。
慰霊祭に欠席したわしはというと、テロリストがキャットトレインをジャックしたと聞いたから、目的を察してソウ市に向かうと判断。少し準備をしたらキャットトレイン用の平らな道で待機していた。
猫耳市の警備員を引かせたら、予想通りキャットトレインは発車したとフユから連絡が来たので、しばらくダラダラ。やっと見えたら立ち上がり、キャットトレインをできるだけ傷付けないように両手で受け止めた。
これだけでは間違いなくキャットトレインは粉々になるので、後ろにトントンと跳んでゆっくりとスピードを落としたら、地獄行きのアナウンス。一気に押し込んで、時速300キロでリターン。そのせいでモーターは焼き切れちゃった。
わしはそこまで速度が上がったら手を離して追い抜き、巨大な三ツ鳥居を置く。この巨大三ツ鳥居は昔わしが作らせた失敗作。大きければいっぱい人を送れると思ったのに、魔力消費量が多すぎて30秒しか開かないから次元倉庫の肥やしだ。
タイミングを合わせて巨大三ツ鳥居に魔力を流せば、その先は何もない荒野。キャットトレインは三ツ鳥居を通り抜けると足場の悪さのせいで飛び跳ねるように走り、ギリギリ倒れないままなんとか止まったのであった……
「クッ……何が起こった!?」
キャットトレインの操縦席に乗っていた猫耳テロリストのリーダー、リュウホは大声を出しながら立ち上がったが、誰も応えない。後方車両を見ると、そこかしこから呻き声も聞こえている。
これではラチがあかないと、リュウホはドアを蹴破って外に出た。
「にゃ~んだ。やっぱりお前だったんにゃ~」
「こ、国王……」
そこには、わしが立っていたのでリュウホは絶句。このリュウホとは、遠い昔に「王様、人族皆殺しにしないの~?」と無邪気に言っていた猫耳族の子供。
14年前に国政選挙で大敗し、いまでは分別のない40代のアウトローになっていたのだ。
「なんでお前が……ここはどこだ!?」
リュウホが喋り出すのを待っていたら、やっと日が暮れそうな景色に気付いた。
「放送で言ったにゃろ? 地獄にゃ」
「そんな場所、あるわけないだろ!!」
「それがあるんだにゃ~。お前たちは全員ここで死ぬんにゃから、地獄と言っても過言じゃないにゃ~」
「死ぬ……」
わしが死を突き付けると、リュウホは言葉が詰まった。
「当たり前にゃろ。わしの国で悪さしたんにゃ。それも集団でにゃ。テロ行為は、即刻死刑にゃ~~~!!」
わしが怒鳴り付けるとリュウホは一歩下がった。その時、所々から煙が上がるキャットトレインからテロリストたちが、ガヤガヤと降りて来た。
「ハッ……何が死刑だ! もっと酷いことをしていた帝国人を生かしておいて、俺たちの正義の行いを咎める王などいらぬ! こっちには銃も兵士もいるんだぞ!!」
後ろには大勢の仲間がいることを思い出して復活したリュウホ。セミオート式のピストルまでわしに向けて来た。
「あ、そうにゃ。銃の密輸までやってたんだったにゃ。こりゃ、1回死んだだけでは許されないにゃ」
「そのとぼけたツラ、いつまで続けられるかな? おい、お前たち、こいつに銃を向けろ!!」
猫耳テロリストたちは「王様? 本物? いいの??」とかザワザワしていたけど、リュウホが「こいつを殺せば国を乗っ盗れる」と説得したら一斉にわしに銃口が向けられた。
「さあ……手を上げて跪け。それとも蜂の巣にされたいか?」
「にゃはは。帰る心配してわしを殺せないんにゃ。そんにゃ心配しなくても、もう生きて帰れないから安心しろにゃ」
「どうしても死にたいみたいだな……」
わしの言葉が挑発だと受け取ったリュウホは、ピストルの安全装置を外して一歩前に出た。
「お前にゃ~。そんにゃオモチャでわしが死ぬワケないにゃろ。猫の国にいて、にゃんで知らないんにゃ~」
「お前こそ何も知らないんだろ? 銃とは素晴らしい力だ! 一発で頭を吹き飛ばすこともできるんだぞ!!」
「だからにゃ。一般人に使われたら困るから輸入禁止にしてるんにゃ。そもそもその銃を見付けたのはわしにゃよ? その時、百発ほど受けたけど、痛くも痒くもなかったにゃ~」
「もういい! だったら殺してやるよ!!」
わしの話を信じようとしないリュウホ。そもそも話が通じていたら、こんなことはしでかさなかったはず。
リュウホはついに引き金を引いてしまった。
「あっちゃ~……式典用なの忘れてたにゃ。穴が開いちゃったにゃ~。狙うにゃら、頭にしてくんにゃい?」
「はい??」
でも、わしには通じず。高級着流しの胸元に小さな穴が開いたけど、わしの毛皮を突き破るには威力がなさすぎる。
わしは頭を指で差しながら歩を進めると、リュウホは頭を大きく振って気を取り直して怒鳴る。
「ウソばっかりつくな! ただのトリックだ! 死ね! 死ね死ね~~~!!」
そして銃を乱射したが、わしは歩みを止めずに目の前まで辿り着いた。
「なんで当たらないんだ!」
「いや、3発は当たったにゃよ? これは返すにゃ~」
「あつっ!?」
これ以上服を破かれたくないわしは、体に当たる銃弾だけキャッチ。熱いのを我慢して握っていたのだから、リュウホに投げ返してあげたらナイスリアクションをしてくれた。
「もう終わりにゃ? そろそろ全員、殺そっかにゃ~??」
「ふっざけやがって……こっちにはまだまだあるんだよ! 全員、撃て撃て! 撃て~~~!!」
ちょっと煽っただけで、リュウホはいいリアクションばかりをして、下がりながら無駄弾を撃ち続ける。仲間もわしの殺害予告にビビって、リュウホの横並びになってサブマシンガンなどを乱射。
わしは喰らってやってもよかったが、服がもったいないので目に見えない盾で対応。【吸収魔法・肉球】に触れた銃弾は、わしに届くまでに力を吸収されてボトボトと地面に落ちた。
「これならどうだ~~~!!」
何百発と銃弾が放たれ山となった頃に、リュウホはキャットトレインに戻ったと思ったら、ロケットランチャーを持って来て放った。
「よっとにゃ。またつまらぬモノを斬ってしまったにゃ~」
ロケット弾は、真っ二つになってわしの後方で爆発。【吸収魔法・肉球】でも止められたけど、久し振りに斬ってみたくなったから、魔法は解除して刀で斬ったのだ。
昔、アメリヤ軍と戦った時にやったことがあるから安全は立証済みだけど、いい子のみんなはかっこつけたいって理由だけでやっちゃダメだよ?
それからもリュウホたちは無駄な銃撃を繰り返すが、ついには弾が尽きてしまうのであった……
「全員、そこに直れにゃ~~~!!」
攻撃手段がなくなった猫耳テロリスト集団は逃走しようとしたので、わしは隠蔽魔法を解いて威嚇。それだけで猫耳テロリストはガクブル。腰を抜かして動けなくなったので隠蔽魔法を掛け直す。
固まっていないと喋りにくいので、土魔法で土を操作して、全員わしの前に並べてあげた。
「お前たちもわかっていると思うけど、王様のわしに手を上げたんにゃ。これ、重罪にゃよ? さらにソウに乗り込んで元帝国人も殺そうとしてたよにゃ? 1個でも死刑相当にゃのに、よくもまぁこんにゃ馬鹿げたことをやったもんだにゃ」
わしが罪状と罰を告げると、命乞いする者続出。うるさいから怒鳴って黙らせた。
「ま、猫耳族はわしの親戚みたいにゃモノだから、死刑は許してやるにゃ。全員、国外追放にゃ~」
減刑にテロリストたちはホッとしたのも束の間、リュウホが立ち上がった。
「待て! 国外追放って、ここに追放するってことか?」
「そうにゃ」
「こんな何もない場所で生きていけるわけないだろ!」
「「「「「あ……」」」」」
そう、ここは荒野。遠くには森や川もあるけど、シティーボーイには厳しい場所だ。
「だからにゃに? 命があるだけ感謝しろにゃ」
「こんな場所に残されるぐらいなら死んだほうがマシに決まってるだろ!」
「だったらお前が殺してやればいいんじゃにゃい? 自由にしろにゃ。ほにゃ~」
「なっ……待てよ!」
わしが立ち去ろうとしたら、リュウホに止められた。
「まだにゃんか用があるにゃ?」
「こ、こいつらは俺が巻き込んだから関係ない。罰は俺だけが受ける。連れて帰ってやってくれ」
リュウホの言葉に、仲間は感動した感じになってるけど、わしは悪い顔してる。
「それが人にモノを頼む態度にゃの~?」
「クッ……」
もちろんイジワルしてるのだ。しかしリュウホにはそれをするしか手がないので、足をプルプルと震わせて数十秒かけて足を折り、土下座をした。
「どうか、仲間を助けてください! お願いします!!」
プライドを曲げてまでした心の底からの訴えにわしは……
「イヤにゃ」
真顔で拒否。リュウホはここまですれば許してもらえると思っていたのか、顔を上げた時には驚いた顔をしていたが、冷めたわしの顔を見て絶望の表情に変わった。
「これが、お前がやったことの結果にゃ。戦争で負けたら、こうなるんにゃ。わかってやってたんにゃろ?」
「いや……」
「にゃんで知らないんにゃ。先祖の恨みを晴らす行為なんにゃろ? その先祖は、帝国に負けて奴隷になってたにゃ。聞いてたにゃろ?」
「それは……」
「だったらわかるはずにゃ。負けた場合は殺されても文句言えにゃいと……お前が扇動したら乗ったんにゃろ? 全員、その覚悟でやったんにゃろ? お前が、甘っちょろい正義を振りかざして、こいつらを引き込んだんにゃろ!!」
わしが涙目で怒鳴り付けると、全員、ポカンとした顔になる。
「わしは言ったにゃ! その怒りはお前の物じゃにゃいと! にゃんどもにゃんどもにゃんども……その結果がこれにゃ! ああ! 情けにゃい!! ……にゃんで止まってくれなかったんにゃ~。わしは、にゃんて声を掛けたら、こんにゃことをしでかさなかったんにゃ~。教えてくれにゃ~」
わしの涙は、自分が不甲斐ないから。涙ながらに問うと、ほとんどの者は目を逸らしたが、リュウホはバツが悪そうな顔で正解を告げる。
「だから、猫耳族の恨みを晴らしてくれたら……」
「……誰がお前を殴ったんにゃ?」
「俺じゃなくて……」
「そうにゃ。お前はにゃにもされてないにゃ。にゃのに、罪のない人を殺そうとしたにゃ」
「帝国人は……」
「罪ある者は、ほとんどわしが殺したにゃ。その当時を知る帝国人は、もうほとんど死んだにゃ。お前は、誰に怒っているんにゃ?」
「俺は……俺は……」
わしが正論を投げ掛け続けると、リュウホは言葉が出なくなった。
「お前は、ただ目立ちたかっただけじゃにゃい? 正義と言ってればみんにゃがついて来てくれたから、浮かれてたんじゃにゃい? それは、子供の発想にゃ。その子供の発想に、ただ暴れたい者が集まっただけじゃにゃい?」
「ち、違う……違う……そんなワケは……」
「いま一度、自分の心に問い質せにゃ。最初に思ったことを、にゃ。明日、また正解を聞きに来るにゃ~」
わしの問いは核心をついたのか、リュウホは頭を抱えて塞ぎ込んだ。今日はもう会話にならないと感じたわしは、キャットトレインに非常食があることだけ告げて立ち去るのであった……




