猫歴94年その3にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。静電気は痛くないけど、ビックリするから好きではない。
ミテナに雷魔法を教えたら、水を得た魚のように研究に打ち込んでる。たまに相談に乗ってあげたら、わしに電気を流して毛を逆立てて帰って行く。
これ、どうしろと言うんじゃ? 誰もわしに近付こうとしないんじゃぞ!?
猫ファミリーは笑うだけで助けてくれないので、自分でドアノブとかに触れて静電気を抜くしかない。覚悟してる時はなんとかなるが、たまに気付かない内に電気を流されているからビクッとするんじゃ。
なので、魔法書さんで新魔法の開発。静電気を抜くだけの魔法を覚えて、わしの平穏が守られるようになった。
ミテナが卒論を頑張るなか、わしも猫クラン活動を頑張り、お昼寝時間の確保をもっと頑張っていたら、猫大の夏休みは終わった。
9月は猫大4回生に取っては、大事な期間。わしに取っても大変な期間。卒論の提出が9月末までだからだ。
だいたいの4回生は夏休み前に提出して、夏休み明けに講師陣から手直しのヒントを教えてもらえる。提出しないヤツは知らない。
手直しの必要がない卒論はそのまま上層部に送られて、協議会が開催される。ここで上層部が唸るような卒論を提出した者は研究員として猫大に残り、さらに結果を残せば講師や上層部になって一生研究が続けられるのだ。
だいたいが及第点だから、卒業というか猫大から追い出すことになるけどね。
わしがこの時期大変な理由は、私立猫の国大学の理事長だから卒論のチェックをしているから。卒論といっても、第三世界でいうところの研究論文に近い物だから読むのも大変なの。
だから、書式は決まっている。最初にどんな研究で何に役立つか、またはどんな可能性があるかは書かせて、残りはその実証や数式なんかが長々と書かれている。わしは基本、最初しか読みません。
そんなに面倒なら、読まなきゃいいと考えている方もおられることでしょう。よく考えてください。猫大にいる人は、ほとんど研究中毒者の変態だよ?
こんなヤツらに任せていたら、有益な研究が世に出ない可能性がバリバリあるの。だから技術者で魔法使いで商人としても見識のあるわしが、少しでも目を通して儲け話に繋げているのだ。あ、王様でもあります。
ちなみに1人では漏れがあるかもしれないので、助っ人はいる。猫ファンドのイエスマンと、猫ファミリーの黒モフ組と、ノルンちゃん様だ。
ノルンに様を付けている理由は、読むのが恐ろしく速いから。スマホに卒論を入れておけば、わしたちが読み飛ばしたところも読んでくれるから助かります。ノルン専用ワイヤレスキーボードも進呈しました。
ちゃんのあとに様をくっつけるのは呼び辛いけど、それで楽ができるならリーズナブル。だからチヤホヤしまくってます。
そうこうわしが卒論をヒーヒー読んでいたら、ミテナの卒論を発見。魔法科学は文句なしの合格で猫大に残れるハンコも押されていたが、政治学は不合格のハンコが押されていた。
どちらも隈無く目を通してみたら、わしの感覚ではどちらも合格。なので他の助っ人を頼ってみたら、政治学はノルンちゃん様以外は役立たず。
「よく書けてるよにゃ~?」
「うんだよ。独裁者がどのように国民を扇動するか、その独裁者を他国がどのように止めるかの対策なんかもちゃんと書かれてるんだよ」
「にゃんで不合格なんにゃろ……」
「私立は理系だからだよ。文系は国立に全員取られたからなんだよ。なんでわからないんだよこのすっとこどっこい」
「そうでしたにゃ~。さすがは全てに精通するノルンちゃん様ですにゃ~」
「もっと褒め称えるんだよ~~~!!」
残りは商人と技術者なんだもん。ノルンは口が悪いけど、一番役に立ってくれたからわしは大袈裟に褒め称え続けるのであった。
ミテナの卒論は、ノルンのアドバイス通りわしみずから国立猫市大学に申し送り。別校だけど王様が直接届けて採点してくれと頼んでいるのだから、学長は快く引き受けてくれた。
1週間ほど経った頃に電話が掛かって来たので出向いたら、ミテナの卒論は賞賛の嵐。文句なしのA判定。それどころか講師に雇えないかとスカウトまで来ちゃった。
個人的にはスカウトに応えたいが、ミテナは猫クランに入ることは決まっている。わしがやんわりと断っておきました。
そうこう卒論の採点に力を注いでいたら、10月の中頃には全ての採点は終了。発表は10月末なので、やっと暇な時間ができた。
なので猫クラン活動のない日はゴロゴロしていたら、あっという間に10月末。寝足りないが、わしは理事長なのでマリメッ……アーティスティックな花柄になって猫大に向かう。
裏門で待ち合わせしていたミテナと合流したら、体育館へ。その道中、わしは出店の準備をしている学生に目をやって喋っているのに、ミテナから全然返事がない。
「にゃあ? 聞いてるにゃ??」
「う、うん……待ち合わせ場所のことでしょ?」
「そうにゃけど……緊張してるにゃ??」
「そうよ。悪い?」
「にゃはは。柄にもないにゃ~。提出前のあの自信はどこに行ったにゃ~」
「卒業が掛かってるんだから仕方ないでしょ~。女王がこんなことで躓いたら恥ずかしいじゃない」
「みっちゃんは、ただのウサ耳女子大生にゃよ?」
どうやら1人だけ背負う物が違うから、重荷が半端ないみたい。わしが立場を思い出させても、エティエンヌが見てるからと緊張は解れそうにないな。
体育館に着いたら、ミテナは入り辛そうにするので、わしが手を引いて中へ連れ込む。すると魔法科学のクラスメイトがわしたちに気付いて寄って来たので、ミテナは復活だ。
弱い姿を見せたくないのかな? みんな「緊張するね~?」とか言ってるのにミテナは強がっているもん。
わしにも「緊張するね~?」とか言ってるけど、わしは大学生じゃなくて理事長なんです……てか、たまにしか授業出てなかったのに、なんでわしまでクラスメイト扱いなんじゃろ?
クラスメイトと共に「キャッキャッ」と盛り上がっていたら、成績発表の時間がやって来た。猫耳おばちゃんのシーシ学長や上層部がツカツカと足音を鳴らして壇上に登ると、猫大4回生は徐々に騒ぎ声が小さくなる。
そりゃそうだ。これから猫大に残れるかどうかの発表なのだから、普通の4回生は祈るしかない。理事長のわしは……特にやることないから、いつも傍観するだけだよ?
『んん……では、発表します。今年の研究員に残った人数は23人。例年より倍の人数となりした。落第者はナシ。この点は、現体制になってから初めてのことですので、私は驚きと同時に、今期の卒業生を誇りに思います。よく頑張りました』
シーシ学長はまずは人数の説明から。確かに毎年、卒論の時点で2割以上の落第者が出るから、シーシ学長が涙ぐむのはわしもわかる。
でも、4回生は「そんなことより誰が研究員に残るか早く言ってよ」って顔をしてる。
『続きまして、今年の最優秀卒業論文を発表します』
シーシ学長が目配せすると、正面のモニターにも卒論のタイトルと名前が映し出される。
『タイトル「電気魔法の発見の遅れと、それに伴う損失と可能性」を書かれたミテナさん……我々の盲点を突く研究内容は素晴らしいの一言です。おめでとうございます』
ミテナはわしにキラキラした目を一瞬見せたが、すぐに冷静な顔に戻ってクラスメイトに向かって頭を数回軽く下げた。
『続いての優秀賞……その1人もミテナさんです。タイトル「独裁者の思考と末路」。正直言いますと、本校にはそぐわない内容でしたから我々は弾きましたが、理事長の猫王様が素晴らしいと、猫市大に依頼して採点する流れになりました。
もちろん猫市大からも、満点どころか講師にしたいとの誘いがありましたので、我々も認めざるを得ません。まったく違った分野の卒業論文を完成させたミテナさんは、本当に素晴らしい学生です。拍手を送らせてください』
シーシ学長が拍手をすると壇上の上層部が笑顔で続き、学生に広がって行く。シーシ学長は明後日の方向に拍手を送っているけど、学生は全員ミテナの方向に拍手してる。どゆこと?
そのミテナは、とんでもなく驚いた顔をわしに向けたあとは、また澄まし顔。今回は学生に囲まれて拍手を送られているので、その場でクルクル回りながらお辞儀しまくってる。礼儀正しくは見えるけど、回り過ぎじゃね?
しかしミテナの独壇場はここまで。その他の優秀賞やその下の発表がなされると、全員壇上に耳を傾けて、名前を呼ばれた者は飛び跳ねて喜んでいた。
「ねえ。プー君……」
「にゃ~?」
「プー君、採点に関わってないって言ってたよね~?」
そんな中、ミテナはちょっと怒ってらっしゃる。忘れてるかもしれないけど、「プー君」ってのは猫大内でのわしのあだ名だよ?
「うんにゃ。そう言わないと、みっちゃんはいつまでだって聞いて来るにゃろ?」
「そうだけど~。ここまでいいなら、ちょっとぐらい教えておいてよ~。心の準備とかあるんだからね~」
「にゃはは。いつもモフモフする仕返しにゃ~」
「モフモフは喜んでるでしょ~~~」
喜んでるのはモフモフする人だけ。わしたちはいつも迷惑に思っているのに、ミテナはさっそくわしをモフモフして喉を鳴らせる。
そうしていたら、研究員として残れる人数が残り僅かになったので、わしは「仕事がある」と言ってエスケープ。人の目がないところで白猫に戻り、壇上の袖で待機する。
その数分後、シーシ学長の「いたの?」って顔のあとにわしが尊大に紹介されたので、少し照れ気味に登場して台の前に立った。
『え~……理事長のシラタマにゃ。たまにしか来ないから、初めて見たって人も多いんじゃないかにゃ~?』
ツカミはボチボチ。大学の外では見たことがあるって声が何件もあったけど、買い食いのことは黙ってろ。
『今回、わしが卒論に口を出したみたいにゃ感じになってるけど、これはたまにやっていることにゃ。みんにゃの卒論、ちゃんと読んでるからにゃ。その中で、もったいない研究の人は、審議して残してもらってるんにゃ。例えば、みんにゃの身近にゃところで言うと……』
わしがこの場に立っているのは、シーシ学長の説明では足りないところがあると思って補足するため。本当にわしが口出して身近な技術となった物はけっこうあるので、4回生も感心した声がそこかしこから上がっている。
『まぁそんにゃワケで、これだけは言えるにゃ。今回の件も、わしは未来の役に立つ卒論だったと間違いなく言えるにゃ。そもそも、猫大の理念は「誰も思い付かない研究がやりたい」にゃ。講師陣は、最近ちょっと型に嵌り過ぎじゃないかにゃ? もっと自由に、もっと広い視野で、新しい物に挑戦するのが猫大にゃ。この理念だけは忘れないでくれにゃ~』
「「「「「にゃっ!」」」」」
これにてわしのスピーチは終了。上層部や講師陣が感動した顔で返事し、学生は万雷の拍手を送っている中わしは下がるけど、猫軍式返事はどこまで浸透しているのかと思うわしであった……
スピーチが終わってわしが花柄猫でミテナと合流したら、ニヤニヤ笑われたから腹立つな。今日はこのまま友達と飲み会に行くらしいので、わしもお供しようとしたら断られた。理事長じゃもん。
まぁミテナにもそんな日があるのだろうと思い、わしは帰ってお昼寝。そのまま王妃様方にモフられて寝た翌日……
今日もわしはミテナに呼び出されていたから待ち合わせ場所の猫大の正門にやって来たら、門が白猫の口になってる~~~!!
「あっ! プー君。こっちこっち~」
わしが呆気に取られていたら、ミテナが口の中から呼んでるけど、入ったら消化されそうだから足が前に出ない。そうしていたらミテナのほうから駆け寄って来た。
「もう~。どうしたのよ~」
「どうしたもこうしたもないにゃ! これはいったいどういうことにゃ!?」
「プププ。驚いた? 学祭を開いてみました! 昨日の仕返し~。アハハハハハハ」
昨日裏口で待ち合わせしたのは、このことを秘密にしていたから。ミテナは笑いながら、わしの腕を取って白猫の口の中に連れ込むのであった……




