猫歴94年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。異世界転移が日帰りで終わったのは痛い。
せっかく10年も溜めた魔力が、ツクヨミがよそ見したせいで地球が滅んでいたのだから水の泡。成果はリータの故郷だと知れたぐらいだけど、喜んでいたからそれでいっか。
他の成果は微妙な感じ。第二世界の技術はオーバーテクノロジーばかりが使われているらしく、調べても素材すらわからない。もちろん動かすことも、スイッチすら見付からないから、我が猫家の技術班もサジを投げたから次元倉庫の肥やしだ。
エティエンヌの研究も人類が滅んでいたから、ヒントすらナシ。まだこの世界にある宗教関連の本のほうが勉強になるってさ。
元々エティエンヌは大学では歴史関連を学んでいたから、宗教は専門外。なので、専門家のウロを助手に送り込んであげた。
「さすがはお義父様が子供の頃から目を掛けていたウロ君ですね。昆虫だけじゃなく、宗教もこれほど学んでいたなんて」
エティエンヌはベタ褒めしているが、わしとウロはポカンとして顔を見合わせた。
「王子君って、ウロ君のことにゃにも知らないのかにゃ?」
「さあ? シラタマさんが説明したんじゃないのですか??」
「わしは第三世界に行った人には伝えたつもりだったんにゃけど……」
どうやらウロの歓迎会をした日は、エティエンヌは東の国に里帰りしていたから、ウロが第三世界の天皇陛下だと知らなかったみたい。
他の家族に説明するのが面倒だから、みんなそれ以降はこの件には触れなかったから今日まで知ることもできなかったようだ。
「いや~。悪かったにゃ~。王子君は二度会ったことがあるはずにゃけど、覚えているにゃ?」
「私も若かったので記憶が……写真を見せてください」
「ちょっと待ってにゃ~」
エティエンヌが天皇陛下と最後に会ったのは65年前だったから覚えていなくても仕方がない。その時もそんなに絡んでいなかったし、そもそも第三世界の動画に夢中だった気がする。
写真や動画を見ても、薄らとしか天皇陛下のことを覚えていなかったから、別に教える必要なかったかも?
「ま、神事に詳しい天皇陛下だから、他の宗教についても詳しいワケだにゃ。にゃ?」
「はい。皇室の者は通る道です。こちらにはほとんど残っていないのは、少し残念ですけどね」
「まぁにゃ~。生の声は聞いてみたかったげどにゃ~。それでも本があるからにゃんとかなるにゃろ。どこまで進んでるにゃ?」
ウロもエティエンヌの研究は興味があるらしく、2人で議論が弾んでいたそうだ。
「大まかですが、各宗教の神話は聞きました。古事記に似た神話もあれば、まったく異なる神話もあるのですね。この違いがどうして起こっているのかは、議論が尽きないです」
「まぁ日ノ本でも風土記にゃんかも加わって、違いはあるからにゃ~……ちなみにどれが一番違っていると思ったにゃ?」
エティエンヌは少し考えて答えを述べる。
「やはり、旧約聖書……そこからいくつもの宗教に派生しているのに神は一柱しかいないのは、古事記との大きな違いですね」
「あぁ~……」
わしから少し残念そうな声が出たので、エティエンヌたちは首を傾げた。
「何か間違ったこと言いました?」
「いや、いま気付いたんにゃけどにゃ……」
「「はあ……」」
「旧約聖書に出て来る神様って、第二世界のあの方じゃないかと思ってにゃ~……ほら? 主は光り輝いていて姿とかの描写はないじゃにゃい? 極め付けは他の神様は許さないって……自分が目立ちたいだけだったんじゃないかとにゃ~」
「「あぁ~……」」
ツクヨミを生で見たエティエンヌも、ツクヨミの話を詳しく聞いていたウロも、わしのアイデアに納得。あの目立ちたがり屋なら、アマテラスとスサノオを蹴落とそうと宗教を作っていたとしてもおかしくないもん。
それに雷落としたり言語を変えたりってのも、やらかして怒られたんじゃないかと思えて仕方がない。
ここからはなんだかツクヨミの粗探しの議論に発展して笑っていたら、わしの書斎のドアがバーンッと開いた。
「シラタマちゃん! 第二世界に行ったって? なんで私も誘ってくれないのよ~~~!!」
「まず、揺らすにゃ~~~!!」
勢いよく入って来たのは、ウサ耳ミテナ。仲間外れにされたことに怒っていてわしの襟首掴んで揺らしまくるから、話もままならないのであったとさ。
「にゃったく……来るにゃら最後まで聞いてから来いにゃ~」
「いや~。誘われなかったから~。エヘヘ」
ツクヨミに面倒なことを押し付けられて日帰りで帰って来たと聞いたミテナは、すぐに機嫌は直った。行っても面白くないもんね。
ちなみにミテナに情報を流したのはインホワ。顔を合わせたらいつもモフられるから、モフり時間を短くしようと喋ったら、ミテナは一言目で飛んで行ってしまったらしい。
とりあえずミテナは落ち着いたみたいなので、わしは本を読んでいるエティエンヌをチラッと見た。
「あの話、そろそろしてやったらどうにゃ? 残り時間が短いと、みっちゃんも喋り足りないにゃろ??」
「そうね……でも、エティはアンジェほど一緒の時間を取ってなかったのよね。信じてくれるかどうか……」
「たぶんいまにゃら、にゃに言っても信じてくれると思うにゃよ?」
「どゆこと??」
エティエンヌには輪廻転生の話をして、神様にも会ったのだから、わしの思った通り話が早い。ミテナが「お母さんだよ」と軽く説明しただけで、抱き合って泣いていた。
その光景をわしとウロは微笑ましく見て、2人の積もる話が終わるのを待っていた。
「どうりでミテナさんの私を見る目が優しかったワケです。お義父様も猫が悪い」
けっこうな時間2人の世界に没頭していたから、わしは宗教の本を読んでいたらエティエンヌの苦情が来たのでそちらに目を向ける。猫が悪いというボケは我慢だ。
「みっちゃんはあの頃のままだったから、いつバレるかヒヤヒヤしたにゃ~」
「思い返してみると、そうですね。お義父様と絡む時は、お母様そのものでした」
「にゃ~? ま、ウサ耳付いてるから、ギリセーフだったのかもにゃ」
「べ、別に、エティにはバレてもいいと思ってただけだも~ん。早く気付いてほしかったな~」
「……本当にゃ?」
「何よその顔!?」
ちょっと疑った顔をしただけで、ミテナはケンカ腰。そのやり取りが懐かしく感じたエティエンヌは、涙を浮かべて笑うのであった。
カミングアウトからミテナとエティエンヌの距離が急に近くなったので、サクラが「あんな歳から浮気??」と2人を毎日ヒッソリと付け回していたので、わしからカミングアウトしてあげた。
音も無く歩くのって猫みたいだもん。猫だけど……
それからはたいした事件もなく、家族でワイワイと楽しく暮らしていたら、猫歴94年になった。
今年はミテナが猫大最後の年だからちゃんと卒業できるように、ミテナを誘って日ノ本の備前(福岡県)にある神社にやって来た。今日のわしは、ミテナの希望で白猫だよ。
「うわっ。若い子ばかりね。お祭りか何か?」
「いや、日ノ本の学校は春入学にゃから、合格祈願にやって来てるんじゃないかにゃ~?」
ここは太宰府天満宮。ご存知の通り学問の神様で有名だけど、この世界の菅原さんは名前がちょっと違います。清行って名前はライバルの名前では……
「合格祈願? 私、猫クランに入るから、就職活動とかしないわよ?? ま、まさか……また反対するの!?」
「違うにゃ~。卒論で失敗しないようににゃ~。ここまで来て退学とか嫌にゃろ?」
「まぁ……神頼みの必要もないと思うけど。てか、そんなに信用ないの!?」
「いちいち怒るにゃ~~~」
わしは信用してないけど、信用してると諭してお詣り。ちょっと奮発して悠方天皇が描かれている一万円を渡して入れさせようとしたら、ミテナはなかなか賽銭箱に入れてくれない。
庶民に生まれ変わったから、お金の価値がわかるようになったみたいだ。「自分で100ネコ出すから貰っていい?」とか言うほどだもん。
それでもミテナに無理矢理入れさせたら、2人で柏手を打って合格祈願。
「むぅ……」
「あとでお小遣いあげるから、ちゃんと祈りにゃさい」
「やった! 幸せになれますように~」
「合格祈願しろにゃ~」
ミテナが不満そうな顔をするので現金で釣ったらこの始末。でも、あとが詰まってるし、幸せの中には合格も含まれているだろうから、もうこれでいいや。
わしはミテナを連れて本堂を離れ、お小遣いの一万円を渡して出店で散財。ミテナが自撮りしまくっているのは気になるが、散々遊んだらミテナを背負って行き付けの高級温泉旅館まで走ってやって来た。
ここでお風呂に入ると、王妃様方に浮気だなんだと言われそうだから、足湯だけだよ? 証拠の動画も撮ってます。
「いいお湯ね~。足だけなんて、もったいない。一泊して行こうよ~」
「あぁ~。おねだり入っちゃったにゃ。怒られるからできないにゃ~」
「じゃあ、なんでこんなところに連れて来たの? 私を襲うつもりだったんでしょ?? シラタマちゃんだったら……いいよ?」
「ワザとやってるにゃろ?」
「エヘヘ~」
わしが撮影してるからって、ミテナは色っぽい感じで誘惑。浮気じゃない証拠を撮っているのに、これでは浮気をした証拠になってしまいそうだ。
「ここに来たのは、落ち着いて話をしたかったからにゃ」
「なんの話だろ……あっ、愛の告白??」
「わかってるにゃろ~。卒論にゃ~」
わざわざ合格祈願のために日ノ本までやって来ているんだから、ミテナが茶化しているのはわしでもわかるっちゅうの。
「進捗状況を聞かせてくれにゃ」
「な、なんでそんなこと聞くの?」
「普通の猫大生にゃら大学に残りたいからって、4回生は必至こいて卒論を書くんにゃけどにゃ。みっちゃんは興味ないにゃろ? わし、3回生のころから早めに準備するように言ってたの覚えてないにゃ??」
「覚えてる覚えてる。やってるやってる」
「にゃにその言い方!?」
ミテナの言い方では、小学生が言い訳してるようにしか聞こえないよ。
「本当にやってるって~。政治学のほうは、ほとんど書き終えてるもん」
「あとで確認してもいいにゃ?」
「うん。いつでも。ただね~……魔法科学のほうは、まだ書く内容も決まってないのよね~。もう、政治学一本でもいいかな~って思ってるの。かなり自信あるし」
「そこまで自信があるにゃらいいけど……3年間頑張って来たんにゃから、ちょっともったいない気はするけどにゃ~」
ミテナはよくわしから学んでいたから、その頑張りはよく知ってる。てか、大学で学んでないな。
わしが残念そうにすると、ミテナももったいなくは思っているみたいだ。
「シラタマちゃんが魔法科学を学べって言ったの、猫クランに入ってから役に立つからでしょ?」
「にゃ? 気付いてたにゃ??」
「当たり前でしょ。子供の頃にも似たような感じで教えてもらったもん」
「ああ~。あったにゃ~。懐かしいにゃ~」
ミテナが自分のために頑張っていたのなら、わしだって応援してやりたい。
「書きたい内容が決まれば、あとは1人でやるんだにゃ?」
「まぁ……手伝ってくれるの??」
「うんにゃ。にゃんか面白そうにゃの見繕ってやるにゃ~」
「さすがシラタマちゃん! ありがと~う。チュチュチュ」
「チューするにゃ~」
こうしてミテナの卒論はわしがネタを提供することに決まり、証拠動画はヤバイのしか映っていないから消去して帰路に就くわしであった。
「にゃ、にゃんですか??」
1人でキャットタワーに帰ったら、コリス以外の王妃様方が仁王立ちで待ち構えていたから怖すぎる。
「「「「「これ……」」」」」
わしがおどおどしていたら、スマホの画面を見せられた。そこにはミテナの自撮り写真と「彼氏とデート」というタイトルのSNS。
「みっちゃん……彼氏いたんにゃ。知らなかったにゃ~」
「「「「「ここ……」」」」」
「ここにゃ? にゃんかぬいぐるみの手みたいのがあるにゃ……これって、もしかしてわしにゃ??」
「「「「「白いモフモフって、他に誰がいる?」」」」」
「ち、違うにゃ! デートしてないにゃ~~~!!」
ミテナ、やたら自撮り写真を撮っていると思っていたら、匂わせ写真を作っていたみたい。そんな絶妙な隠し方をしやがるから、完全に浮気したと勘違いされて、こっぴどく怒られたわしであったとさ。




