猫歴93年その3にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。余計なことは言いたくない。
リータがやっと故郷に戻って来たと涙するので、それはメイバイたちに任せてわしは、何か言いたそうなベティと、この元凶のツクヨミと一緒にコソコソやっていた。
「リータの周りがキラキラしていたの……ツクヨミ様がにゃにかしたんにゃろ?」
「私も思った。誘導したんじゃない?」
「やだな~。リータさんがあの場所に向かったのは、本当に偶然ですよ? 死ぬのがわかっていたから、最後は彼女の希望を叶えてやろうと周りの鉱石は光らせましたけど」
「「やってるにゃ~」」
わしたちの予想通り。リータの功績が大きいから、なんでも叶えていたみたい。ただ、転生の話を聞いて、わしだけに疑問が次々と浮かんだ。ベティとは違うのだよ。
「いま、転生先は、どうせにゃら一度も見たことのない緑の多い地の人間にしてやろうって言ったにゃ? リータは科学的に人格を岩に移し替えられたんにゃろ? それにゃら森ぐらい見たことあるんじゃにゃい? そもそもにゃけど、人格を移しただけで魂はどうなってるにゃ??」
「いい質問ですね~」
ツクヨミはドヤ顔するので、わしとベティはイラッと来てる。
「最初に緑はですね。リータさんが生まれた頃には無かったのですよ。そして魂はですね。ノルンちゃんさんのように疑似魂となっていたのです。ですから、ほぼ人間の魂と言って過言じゃないんですね。そんな魂がですよ? 岩に移し替えられたらどうなると思います??」
「わしにゃら……耐えられないにゃ……」
「私も……人間から岩はイヤだな~。背中も掻けないもん」
「岩は痒いとかないってのは置いておいて、その通りです。1年も経たない内に精神に異常を来していました。ですから私が、記憶をイジってそういう生命体だと植え付けたのです」
確かに元々岩で生まれたのなら、苦痛は感じないと思うがそもそもなことがある。
「殺してやるのも優しさじゃにゃい?」
「殺すのも制約がありまして……私の力が目減りするので、やりたくないみたいな?」
「「自分のためにゃ~」」
ダメだこりゃ。こんな神様の世界に生まれた地球人はかわいそうだなと、わしとベティは思うのであった……
「殺さなくても、それより苦しませることはできるのですよ??」
「「申し訳ありませんでしたにゃ~~~!」」
神様は心が読めるの忘れてた。わしとベティは、土下座して誠心誠意謝罪するのであったとさ。
わしたちが土下座していたら、リータも落ち着いたのか皆が集まって来た。そこでわしは、帰還しようかと言おうとした矢先、ツクヨミに止められた。
「まだにゃんかあるにゃ?」
「それが岩になった人がけっこう残っていまして……」
「わしたちに殺せと……」
「さっき殺すのも優しさだと言ってたじゃないですか~」
「言うのとやるのとは別物にゃ~~~」
まだ頼み事があったみたい。わしは岩殺しなんてやりたくないけど、このままではかわいそうなのは事実。仕方なくツクヨミに案内させる。
残りの人類と言うか岩は、隕石の影響で散り散りに吹っ飛んだらしいので、移動はUFOで。ツクヨミは迷わず1個目の岩までわしたちを連れて行き、UFOから降りたらわしはその岩の前に立った。
「これが人類にゃ~……」
1個目の岩はコリスより大きくて歪。これが人類なのかも生きているのかもわしにはサッパリわからない。
「ちにゃみにこれって、わしたちのこと見えてるにゃ?」
「はい。めっちゃ驚いてます。『逃げたくても動けない~!』とも……念話を使えば会話できますよ??」
「余計なこと聞いちゃったにゃ……」
そんなことを考えているのなら、殺すのは躊躇うっちゅうの。絶対、念話なんか使うか!
「んで……どうしたら魂が輪廻に戻るんにゃ?」
「この石ぐらい小さくなるまで粉々にするか、強力な電撃を与えるかですね」
「にゃるほどにゃ~……」
わしは死に様を決めたら、次元倉庫から一輪のお花を取り出して岩の前に置いた。
「あなたに恨みはにゃいけど、死んでもらうにゃ。来世は、自由に野山を駆け回れる体にしてもらえるように神様に頼んでおくからにゃ。心配するにゃ。それじゃあさよならにゃ~」
「おお~。潔い」
お別れの言葉を告げた次の瞬間には、岩は小間切れに。わしの刀捌きと心意気にツクヨミは拍手をくれたけど、ギロッと睨んだ。
「いまの聞いてたにゃろ? 来世は人間にしてやってくれにゃ。それが無理にゃら、せめて優しい動物にしてくれにゃ」
「ええ。今回は私の不手際もありますので、全員、人間に生まれ返れるようにしております。ご心配なく」
もう手を打ってくれているなら、わしも言うことはない。しかし聞きたいことがあるので、岩だった物をわしは肉球に乗せてよく見てみる。
「にゃんというか……中身は銅線みたいにゃ物が張り巡らされていたのかにゃ?」
「そうですね。中は全て脳に似たような構造になっています。それも人間の脳よりうん億倍もの記憶量を持っていました」
「と言うことは、人類の記録も一緒に消えたということだにゃ」
「シラタマさんが気に病む必要ありません。私がすでに消去しましたから」
「そういうのは先に言っておいてくんにゃい?」
ツクヨミがずっと軽い発言ばかりするから、わしもついに馬鹿らしくなって来た。
「これはお土産にちょっと貰ってもいいのかにゃ?」
「いいですけど……そちらの世界ではわからないと思いますよ?」
「ま、未来に期待するにゃ~」
岩は科学の宝庫なのだから、少しだけ拾って次元倉庫に。いちおう詳しく聞くと、岩の表面はカメラと太陽光発電、寒暖差による発電の機能も有しているみたいだ。
「この人にも、アミノ酸とか必要にゃの?」
「そうですね。人間には必要ありませんが、蒔いておいて貰えると助かります」
「広範囲にやっておけってことだにゃ」
地球の復元のためなら仕方がない。わしはちょっといい獣を粉々になった岩の上に起き、周りにはシロツメグサを咲かせてから次に向かうのであった。
ツクヨミの操縦で次々と岩の前に案内してもらったら、全員UFOから降りて岩殺しと弔いの儀式。お昼になったらモリモリと食べて元気を復活。
そうして33個目の岩の前に立ったら、ツクヨミから最後と告げられた。
「……本当にゃ?」
「神様噓つかない。地球にも月にも火星にも、残っている人類はこの1人だけです。漏れはありません」
「じゃあこれで、わしが第二世界の人類を滅ぼすことになるんだにゃ……大罪にゃ……」
「いえいえ。これは私からの依頼です。シラタマさんは気に病む必要はありませんよ」
リータたちもUFOから出ていたから、わしの暗い顔を見て変わると言ってくれた。しかし、ツクヨミでもやりたくないことを家族にやらせるワケにはいかない。
わしは有無を言わさず、最後の岩も粉々にして振り返った。
「これで依頼達成にゃ。リータ……リータの仲間は、みんにゃ死後の世界に無事旅立てたにゃ。次の世は、きっと自由に世界を走り回ってるはずにゃ~」
「はい。はい……ありがとうございます……みんな、私みたいに幸せに暮らせますよ。本当にありがとうございました……うぅぅ」
リータが涙を流して皆が慰め、最後の岩にも墓標の代わりにシロツメグサを咲かせるわしであった……
「ところでにゃんだけど……」
「なんですか?」
ツクヨミの依頼を達成したのだから、わしもタダでは帰れない。
「文明はひとつも残ってないにゃ? みんにゃ地下で暮らしていたのにゃら、にゃんか残っているにゃろ?」
そう。科学の欠片はできるだけ多く持ち帰りたいのだ。
「先程も言いましたけど、そちらの世界でもただのガラクタになりますよ?」
「いいにゃいいにゃ。研究するのはわしじゃないからにゃ。てか、他の星に連れて行ってくれたらいいだけにゃ……科学の発展した星あるにゃろ? そっちに連れて行ってくれにゃ~」
「連れて行きたいのは山々なのですが……」
わしのお願いはやんわりと却下。第四世界で発見した惑星なら、ツクヨミもUFOのエネルギーを肩代わりしてくれたらしいが、行ったことのない場所は制約に引っ掛かるらしい。
なんとなくそんなことだろうと思っていたわしはすぐに諦めて、地下施設探検。目に付いた機器を次元倉庫に入れ、ふたつだけあった人骨を一番下の階にあったお墓に運んであげた。おそらく2人は、皆を弔うために残っていたのだろう。
他にも地下施設はあるらしいが悲しくなるだけなので、わしはギブアップ。ツクヨミとお別れする。
「そんじゃあわしたちは帰るにゃ~」
「えっ! もう!?」
「もうって言われてもにゃ~……にゃんかおもてなしできるにゃ?」
「シラタマさんが行った場所となると……カンブリア紀に出て来る生き物食べれますよ?」
「「「「「では、これで……」」」」」
「そんな上司に飲みに誘われる前みたいに急いで帰らないでくださいよ~~~」
ツクヨミはまだまだ一緒にいたそうだったけど、容赦なくUFOを発進させて第四世界に帰るわしたちであったとさ。
第四世界に帰ったのは夜中。さすがに10年分のエネルギーを使って日帰りで帰って来たのはバツが悪いので、時のピラミッドで一泊。
翌日のおやつの時間辺りにダラダラとキャットタワーに帰ったら、家族全員に「はやっ……」って顔をされた。あの今生の別れみたいな出発はなんだったのかとも言われました。
いちおう成果も発表してみたけど、ツクヨミに扱き使われただけなので盛り上がりに掛ける。技術班だけは、わしの持ち帰ったガラクタに興奮してくれたから有り難いです。
この日は拍子抜けの帰還となったので、家族は早くに就寝。わしは「もうちょっと喜んでくれてもいいのに……」と思いながら屋上に向かっていたら、エティエンヌがついて来ていたので、離れで帰還の乾杯だ。
「なんといいますか、悲しい旅でしたね。お義父様が言った通り、人類は土に還っただけとは……」
「まぁ今回の旅は王子君の研究の足しにならなかったもんにゃ~……」
行きは興奮していたエティエンヌは、人類が滅亡していたのを目にしたのでガッカリ。これはかわいそうなので、わしだけが知ってる情報を教えてあげよう。
「王子君は、ビッグバンって現象は知ってるにゃ?」
「専門ではありませんが、ケラハー博士が書いた本で読みました。宇宙の始まりですね」
「それにゃ。実はビッグバンって、始まりの神って神様の魔法なんにゃ」
「魔法……ですか?」
「うんにゃ。ケラハーの本には、ワケのわからない化学式とか数式載ってたにゃろ? アレ、わしが教えたんにゃ~」
神様から授かりし魔法書の話をするのは、エティエンヌで2人目。エティエンヌは神様を見たし、わしが人に喋らないことから信じてくれた。
「まぁにゃにが言いたいかと言うと、ビッグバンを使った神様って、どこに行ったかって話にゃ」
「それは~……わかりません」
「わしも予想にゃんだけど、宇宙に広がったんじゃないかと思ってるにゃ。その根拠は、古事記にゃ~」
「日ノ本の神話の本ですか……」
「うんにゃ。そこには神様が天と地を作り、人間も作ったと書いてあるにゃ。さらに、土地を産んだり、子供を殺して、そこから炎や雷が生まれたとかにゃ。オオゲツヒメって神様にゃんか、死んだら稲とか蚕が生まれたんにゃよ?」
わしが古事記に載っている神様を羅列すると、エティエンヌも何が言いたいかわかったみたいだ。
「つまり、始まりの神は、多くの神様や生物、更には無生物に生まれ変わったと……」
「予想だけどにゃ。始まりの神の要素を多く持った存在が神様だとしたら、しっくりこにゃい?」
「来ます……」
「にゃろ? んで、次は仏教の話にゃ。輪廻の話をしたにゃろ? 生きかわり死にかわり、魂が転々と他の生を受けて、迷いの世界を巡るのも面白くにゃい? 始まりの神の要素を集めてるみたいでにゃ」
「確かに!!」
エティエンヌの顔は希望に満ちた。
「仏教ではこれまた面白い話があってにゃ。開祖であるお釈迦様は、元は人間なんにゃ。悟りを開いて、神に昇華したとにゃ。もしかしたら、人間の行き着く先は、神様なのかもしれないにゃ~」
「ありそうですね。始まりの神の要素を集めて集めて、失敗したり成功したりと繰り返し、神に至る……途方もない話ですね~」
「にゃはは。にゃん回生まれ変わらないとダメなんだろうにゃ~」
これは本当にわしの予想。しかしエティエンヌには希望の光となったのか、お酒を飲みながら宗教の話で花を咲かせるのであった。




