猫歴92年その4にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。傭兵ではない。
アンジェリーヌの葬儀が終わり、猫ファミリーは帰宅していつもの生活に戻ったけど、どことなく空気が重い。特に子供の第一陣、サクラとインホワが暗くなっている。
アンジェリーヌは年老いて亡くなったから忘れていたが、こう見えて第一陣の幼馴染み。それも60年以上も第一陣のお姉ちゃん的な立ち位置にいたから、他の亡くなった友達とは一線を画したみたいだ。
なので、わしたち親の出番。一緒に泣いてというか、モフモフして慰める。第二陣も暗いので一緒にモフモフだ。
わしは元々モフモフなのでそこから這い出し、1人で東の国のお城に残っているシリエージョを訪ねる。どこにいるのか捜していたら、騎士の訓練場で発見したので、わしもシリエージョの隣に立って腕を組んで訓練を見ていた。
「ねえ? 何か用があるんでしょ? 早く言ってよ。パパが潜り込んでるから、みんな変な目で見てるでしょ~」
シリエージョは仕事中だから黙っていたけど、それは逆にダメだったみたい。
「いや~……シリちゃんは元気かにゃ~っと、思ってにゃ~」
「元気? あぁ~……アンお姉様のことね。心配して来てくれたんだ」
「うんにゃ。辛くないにゃ? 辛いにゃら、しばらく休んでもいいんにゃよ? 誰か代わりを寄越すからにゃ」
「まぁ、辛くないと言えば噓になるけど……この悲しみの中でママも仕事してたんだから、私も耐えなきゃ」
シリエージョはにっこりと笑って見せたが、わしの目には無理しているように見えた。
「そんにゃ考え方をしてるにゃら、休んだほうがいいにゃ」
「どうして? できるよ??」
「考え方が逆なんにゃ。仕事で忙しくする人ってのは、嫌なことを忘れるためにやってるんにゃ。悲しみを抱えたままやったら、にゃにか取り返しのできないミスをやらかすんにゃ。ドクターストップにゃ~」
「ちょっと! 大丈夫だって! 離してよ~~~~!!」
わしはシリエージョを肩に担ぐと、ダッシュで騎士から見えない場所に移動。そこで転移魔法を使い、モフモフカウンセリング中の王妃様方に頼んでから東の国に戻るのであった。
「シリエージョが猫にさらわれたと大変だったんですよ……」
「はい、はいにゃ。すいにゃせん」
素早く戻って来たから大丈夫だと思ったのに、すでにリディアーヌ女王の耳に入っていたのでわしは平謝り。溜飲が下がったところで、シリエージョの休暇を申請する。
「そういうことですか……いくら年上でも、悲しみは同じように感じるのですね」
「そうにゃ。誰でも知人の死はキツイからにゃ。1週間程度でいいから、少し休ませてやってくれにゃ」
「わかりました。シリエージョが塞ぎ込んでしまうと困りますからね。許可します」
休暇は無事確保できたので、あとは誰を東の国に送り込むかだ。
「とりあえず今日のところは、わしが騎士の訓練見てやるにゃ。明日からは誰がいいとかリクエストはあるにゃ?」
「おじ様!」
「にゃ? わしにゃ??」
「傍に置けば、モフモフし放題ですもの~」
「わし、王様にゃよ??」
女王を他国の王様が護衛するってどういうこと? とりあえず今日のところはシリエージョの代わりをわしがしていたけど、後半はリディアーヌに呼び出されてモフられただけであったとさ。
翌日からもわしは東の国に出勤して、朝の内は騎士の訓練。昨日は実践訓練とか言って、【殺気の剣】でバッタバッタと斬りまくったから全員従順だよ。
午後は鎧を着て、リディアーヌの視察に同行。よくこんなに小さな鎧があったな……あ、ウサギさんに着せて遊んでいたのですか。わしは着せ替え人形ではありせんよ?
リディアーヌの視察に白猫がくっついているので、貴族は全員二度見。「王様じゃね?」と言われるから「インホワです」とわしは答えている。「それでも王子じゃね?」と言われてるけど。
そうして予定の1週間を消化したら、リディアーヌはお肌ツヤツヤ。わしはぐったりしてキャットタワーに帰る。毎日撫で回されたの……
「パパ、おかえり。お仕事もお疲れ様」
「うんにゃ。ただいまにゃ~」
リビングに顔を出すと、シリエージョが笑顔で出迎えてくれたから、元気復活。娘にこんなことを言われたのは何年振りかわからないので泣きそうだ。
「パパが言ってた意味、家に戻って思い知らされたよ。私って、こんなに疲れてたんだね」
「にゃはは。それはよかったにゃ。サクラたちと喋っていたら、疲れも取れたにゃろ」
「うん。みんなも同じ想いだったもの……」
「それでいいんにゃ。喜びや悲しみは分かち合うモノにゃ。じゃにゃいと、イサベレみたいになっちゃうからにゃ~」
「ダーリン、私みたいってどういうこと?」
「にゃ、にゃんでもにゃいです……」
わしが言いたいことは、感情が無くなったキラーマシーンになってしまうこと。気配を消して急に現れたイサベレは、わしの言いたいことが完全にわかっていたので激しくモフられたのであった。
もちろんシリエージョは助けてくれませんでした。
次の日は朝からシリエージョを東の国に送り届けて、すぐに戻って猫クラン活動。1週間もサボったから、猫クランメンバーが狩りに連れて行けとうるさかったの。
それからは少し狩りの頻度を増やされて、お昼寝時間は猫大でミテナの膝の上でしか取れない毎日。ミテナも実の娘に先立たれたのだから、サービスで猫型・小だ。
毎日忙しくしていたら、あっという間に12月。今年の女王誕生祭は、新女王のために出てくれとアンジェリーヌからお願いされていたから、猫ファミリーのモフモフ組は全員出席だ。
「フッフッフッ……我の出番ですぞにゃ~~~!」
このテンション高い王様みたいな格好をした金ブチ白猫は、我が猫家きっての芸術家、ライアン。
全然見掛けないと思っていた方のために説明すると、猫の国で個展をしてから芸術大国東の国で大人気になった猫物。信じられない話なのだが、それで火がついて世界中で個展を開いてトップアーティストとか言われてるの。あんな絵で!
そのおかげかどうかわからないけど、東の国の公爵家の箱入り娘のハートを射止めて結婚。この公爵家をパトロンにしているのではないかとわしは疑っている。あと、モフモフ好きなだけじゃね?
ただし、ライアンは猫の国と東の国の王族の血を引く類い希な猫物。まったくそんな風に見えないけど、王子オブ王子なのだから両国で困ったよ。
公爵家の屋敷では、セキュリティー面では不安。わしや女王が言ったのではなく、当主さんがそう泣き付いて来たんだよ。
なので、ライアン夫婦の新居はサンドリーヌタワーの一室。ライアンの護衛はエルフ族を派遣して、わしのポケットマネー。東の国の戦力補強に使われているんじゃないかとわしは疑ってます。
そのライアンがテンション高く帰って来たと言うことは、そういうこと。
「この我に任せてくれたにゃら、皆々様のボディーペイントも芸術作品に昇華しますにゃ~!」
そう。今年の女王誕生祭は、猫ファミリーのモフモフ組のファッションショー。子供たちを間違えないために開発したカラーリング魔法の悪用だ。
いや、猫ファミリーで遊んでいたのに、カラーリング屋までやってしまって産業としたベティの大罪だ~~~!
「いや、カラーリング屋、儲かってるんでしょ? 何店舗開店したのよ」
「現在7店舗ですにゃ」
「私のせいじゃないじゃない!? てか、そんなに儲かってるなら、分け前寄越せ~~~!」
「ベティには500万ネコやったにゃろ。それで全ての権利はわしの物になってるにゃ~」
「はあ? あのとき和解に応じたのって……」
「相手するのが面倒だっただけにゃ。こんにゃに儲かるとはわしも思ってなかったにゃ~。にゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ」
「チッキショ~~~!!」
金持ちケンカせず。そのせいでわしは儲かって仕方ないので、馬鹿にして笑ってやったらベティは悔しそう。ざまぁみろ!
ちなみにわしは、そんなに喜んでない。ファンド会社の持ち物だし、赤字補填に役立っているだけだもの。
そんなベティと争っている場合ではなかったので、ライアンのデザインを見せてもらって、猫ファミリーによるプレファッションショーだ。
「奇抜だにゃ~……」
「じじ様には、やはりネコゴンが似合っていますにゃ。アメリヤ王国の苦悩も上手く表現されていますにゃ~」
「苦悩とかって、ピンクとか黄色で表現できるモノにゃの?」
でも、ピカソ風の色合いだから、わしは1億ネコで売れたリアルネコゴン。その他もピカソ風だから目がチカチカします。
「もうちょっと地味なのにゃいの?」
「もちろん御座いますともにゃ! ファッションショーといえば、早着替えですにゃ。にゃん種類も用意してますにゃ~」
「そ、そうにゃんだ……」
ここまで準備されていたとは聞いてません。わしたちモフモフ組は、カラーリング魔法が使える猫クランメンバーに何度も色付けされてヘトヘトになるのであった……
「にゃあ? わしとインホワって、どうなってるにゃ??」
「「「「「うわ~。一体化してるにゃ~」」」」」
「わしたちはキャンパスじゃないにゃ~」
「そのアイデア、貰いましたぞですにゃ~!」
わしのツッコミに、ライアンの芸術は爆発。残りの期間も少ないのに、徹夜までして仕上げてくれやがったのであったとさ。
年の瀬……女王誕生祭はリディアーヌ女王初めての誕生祭なのに、アンジェリーヌ死去という年であったがために例年より客の入りが悪い。
しかし、それは初日だけだ。
「「「「「キャーーー!!」」」」」
初日から、猫ファミリーによるファッションショーが行われていたので、観客は大盛り上がり。その映像は電波に乗って東の国全土で放送していたから、2日目以降は満員御礼だ。
ちなみにこのファッションショーは、パリコレみたいにスーパーモデルが歩くように通路を練り歩くのはそのまま。スーパーモデルの歩き方はキャットウォークと言うらしいが、猫が歩いてるから普通に歩いても名前もそのままだ。
最初はわしたちはトボトボ歩いていたけど、大歓声に気持ち良くなって、ドンドン調子に乗った歩き方やポージングになって行く。
約2時間の催しは、エキストラで雇ったカラフルなウサギ族が間を繋ぎ、ラストは猫ファミリーでモデルになったモフモフ組の総出演。
観客の大歓声を聞きながらランウェイを両手を振って歩き、一番先頭で集合すると組み体操。力持ちが土台を固めて間も繋ぎ、立ったままのピラミッドを作る。
「「「「「うわ~~~……」」」」」
そのピラミッドに描き出されたのは、東の国を象徴するお城。わしたちの体には、個別に色を付けられていたから、合体して初めて描き出されるのだ。
「にゃあ? 猫の国の王族が総出演にゃのに、お城っておかしくないにゃ??」
「サクラさん……言うにゃ。みんにゃ我に返っちゃうにゃろ」
「パパはいつから気付いてたにゃ?」
「ライアンに合体しろと言われた時からにゃ。にゃんでわしたちは、こんにゃことしてるんにゃろ……」
「パパもそんにゃこと言っちゃダメにゃ~」
ただし、いくら芸術と言われてもわしは納得いかない。サクラが気付いてからは、雪崩の如く。
大歓声を受けたのに猫ファミリーのモフモフ組は、女王誕生祭が終わったらトボトボと帰路に就くのであったとさ。




