猫歴90年その3にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。もちろん刀鍛冶じゃない。
秀忠に刀を作ってあげたらノリノリ。狩りの日には1人で突っ込んで行って、玉砕。
「だからまだ早いと言ったにゃろ~」
「面目にゃい……」
謝るならその口調もやめろ。反省の色が見えないなと思っていたら、今度は玉藻前に喧嘩をふっかけてボコボコにされていた。
「だからまだ早いと言ったにゃろ~」
「クソッ! なんだあの強さは!? たった2年でここまで離されるモノなのか!?」
「ああ~……アレが獣状態の強さにゃ。将軍はもうちょっと人型で頑張れにゃ」
実力の差は、単純に訓練方法が違うからだけど、秀忠に言うと怒りそうだから獣の姿でごまかす。とりあえず秀忠は狩りに戻ったので、その間にわしは玉藻前と話す。
「いつまで猫帝国にいるにゃ?」
「そうですね……あと20年??」
「長い……長すぎるにゃ。そんにゃことしてたら人間の生活に戻れなくなるにゃ~」
「大丈夫ですって~」
「いいから戻って来いにゃ。もう充分力は付いてるにゃろ」
「イヤです。私に仲間と別れろと言うのですか?」
「マンモスを仲間とか言うにゃ。仲間はわしたちにゃ~」
ダメだこりゃ。いつの間にか玉藻前はキツネ族からマンモス族に移籍していたから、引き離すのに時間が掛かるわしであったとさ。
ひとまず玉藻前には、週の4日は猫市で過ごすなら3日は猫帝国で暮らすことを許可する。いきなり離したらマンモスさんたちも悲しむかもしれないし。
もちろん玉藻前は大反対だったけど、わしが三ツ鳥居の使用をさせないことと、転移魔法で連れて行かないと脅したら、やっと諦めてくれた。めちゃくちゃ恨めしい顔されたけど……
それでも玉藻前は、いつしか猫帝国に走って行きそうだから、いまの内に人間の暮らしのいいところを見せる。要は餌付けだ。
毎日美味い物を食わせてゲーム漬けにしてやったら、徐々にだがマンモスさんたちのことを忘れて、猫帝国に行くことも面倒くさそうにし出した。
わしはトドメと言わんばかりに、いつも隠れていたベティの首根っこを掴んで戦わせる。またベティは汚い魔法の数々を使って玉藻前は苦戦することになったが、ついにベティから勝利をもぎ取った。
「や、やった……ついに仇を取った……うぅぅ」
「「誰の仇にゃ??」」
それで玉藻前は涙ぐんでいたけど、わしとベティは同時ツッコミだ。
「てか、ベティって、卑怯なのを込みだとかなり強いよにゃ? トータルだと、コリス、玉藻前の次に入っちゃうにゃ」
「今ごろ気付いたの? 最終目標は魔王に勝つことだけどね~……レベル差が千以上あるから、1人では勝てる気がしないわ」
ベティの感覚は正しい。猫クランの一軍でもコリスと百レベルぐらい大きく離れているし、そのコリスより、本気を出したわしは10倍近く強いと思う。
ちなみに玉藻前は、一軍と30レベル差。これぐらいなら人数を増やせば倒せるレベルなので、1人で善戦したベティはよくやったほうだけど……
「にゃあ? その魔王って、わしのことにゃ??」
「当たり前じゃない。勇者ベティを育ててくれてるんでしょ?」
「まだその設定続いてたにゃ!? わしは勇者を育ててないし、汚い戦い方を教えた覚えもないにゃ~~~」
勇者ベティとは、ベティが猫の国に来た時の話だから、およそ85年も前の話。リアルで勇者と魔王ごっこしたいと言っていたことをまだ覚えていたとは、本気だったのだとこの日思い知らされたわしであったとさ。
ベティに勝利したことで玉藻前は完全にキャットタワーに居着いたけど、今度は違う問題が勃発。玉藻前と秀忠の仲が悪いから、食卓の空気が悪い。
皆からも仲を取り持てとオファーが来てしまったので、わしは2人を猫帝国の訓練場に連れ出した。猫クランメンバーも全員ついて来てるよ。
「今日は、コンビプレイの訓練をしにゃす!」
「「こいつと~~~?」」
わしが高らかに宣言すると、玉藻前と秀忠は明らかに嫌そうな顔をしやがる。
「京と江戸が仲が悪いのは知ってるにゃ。でも、玉藻とご老公はそこまでじゃないにゃろ? わしと狩りに行く時は、強敵相手には必ず協力して戦っているにゃ。関ヶ原でも、わしと戦っている姿を見たはずにゃ。2人が協力した時は、本当に強かったにゃ~」
わしが玉藻と家康をベタ褒めしてウンウン頷いていると、2人にも思うことがあるのか顔を見合わせた。
「ま、にゃにもいつも仲良くしろとは言わないにゃ。狩りの時とメシの時、この時間だけはいざこざは忘れて楽しもうにゃ~」
「そうですね……」
「それぐらいなら……」
「んじゃ、かかってこいにゃ~! ゴロニャ~~~ゴ~~~!!」
ここでわしは変身魔法を解いて四つ足の白猫に。現在のわしの体長は10メートル。まだまだ大きくなるのかと思うと怖い。
ついでに強さを隠す魔法も解いたので、玉藻前と秀忠はガクブル。わしの本来の姿をこんなに近くで見たのだから、怖くても仕方がない。
「にゃにビビってるにゃ。これは訓練にゃよ~? ちゃんと手加減してやるにゃ。玉藻とご老公は手加減いらずで楽しめるんだけどにゃ~」
なので鼓舞してやろうと、軽く挑発してやった。
「確かに揉めている場合ではないわね」
「うむ。協力してもどこまでやれるかわからんが……」
「一撃……一撃を目標にしましょう」
「だな。まずは一撃、そして次に一撃だ」
「「行くぞ~~~!!」」
こうして玉藻前と秀忠は一撃だけでも入れようと協力して戦うが、わしに何度も転がされてドロドロになるのであった……
「私たちも助太刀に行きましょう!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
「また来たにゃ!? 白銀の武器は置いてにゃ~~~」
その戦いというかデカイわしを見てムラムラした猫クランメンバーは、リータの音頭で全員突撃して来るのであったとさ。
猫クランメンバーが参戦するなら、わしも手加減抜き。素早く動き、一番厄介なベティを【修羅の剣・肉球バージョン】でサンドイッチ。
錯覚の肉球に挟まれたベティが幸せそうな顔で倒れたら、あとは肉球を飛ばしまくって雪崩の如く。全員だらしない顔で倒れた。
猫クランメンバーが倒れたら玉藻前と秀忠の稽古に付き合い、2人も疲れて倒れたら帰宅だけど、その前に全員にモフられてからだ。
それからも猫クラン研修を続けていたら、玉藻からの呼び出し。何を言われるか予想できるから行きたくないのに、王妃様方が全員「行って来い」と背中を押すから渋々御所を訪ねた。
「秀忠にも稽古を付けてるらしいのう……この裏切り者が!!」
やっぱりこのこと。公家装束の人に罵倒されると、時代劇に入ったみたいでちょっと嬉しいな。わしがニヤニヤしていたらもっと罵倒されたので、玉藻さんが引きました。ドMではありません。
「いや、これ、玉藻のせいにゃよ?」
「ほ~う……人のせいにするとは、いい身分じゃな」
「王様にゃからいい身分で合ってるんにゃけど……じゃにゃかった。この2年、元名代様はどこに行ったんにゃ?」
「それはここに……」
「玉藻は今は、名代様にゃろ~」
「あっ!?」
立場は逆。玉藻も失敗したと気付いたみたいなので、座る位置もわしが高いところを譲られたから、本当にいい身分になったな。
「それにしてもじゃ。断ってくれてもよかったじゃろ?」
「ご老公との仲もあるんにゃから、わしが断り難いのもわかってくれにゃ~。3人でチーム組んで同じ釜のメシも食ったにゃろ~」
「言いたいことはわかるが、妾のほうが好きじゃろ? な??」
「友達に順位を付けたくないにゃ~」
こんなことを堂々と言われると答えられるワケがあるまい。玉藻も照れて顔を赤くするなら言うなよ。
「まぁ……ちょっとは手心を加えてやってるにゃ。それで勘弁してくれにゃ」
「手心と言うと、娘のほうが厳しくしてくれていると言うことか?」
「厳しいかはわからにゃいけど、早く強くなれるようにしてるにゃ。もう10年もすれば、ご老公に匹敵するかもにゃ」
「そんなに強くなっているのか!? さすがはシラタマじゃな!!」
「わしじゃないにゃ。玉藻前の才能……というよりは血筋かにゃ? 400年ぐらい生きているから早いだけにゃ」
玉藻もどんな訓練をしているか気になるのか根掘り葉掘り聞いて来るので、野生に帰っていたというところはボカシて教えてあげた。
「なるほどのう。呪力濃度の高い場所でずっと暮らしていたのか……」
「便利にゃ暮らしから離れて暮らすんにゃから、相当心が強くないとやれないけどにゃ。修行が終わったら褒めてやれにゃ」
「うむ……帰って来たら、妾もその方法を試してみるとするかのう」
「好きにしろにゃ~」
脳筋のことは、わしも構ってらんない。今日のところはちょっとだけ飲んで、わしは帰って行くのであった。
数日後……
「にゃんかみんにゃ、顔がほころび過ぎじゃにゃい??」
日ノ本に一泊の旅行に行っていた王妃様方が帰って来たけど様子がおかしい。
「「「「「そんにゃことないにゃ~」」」」」
「そんにゃことあるにゃ~……まさかとは思うけど、浮気にゃ??」
「「「「「モフモフにゃ~」」」」」
「モフモフって言ってるにゃ!?」
これは確実に浮気。なので浮気相手濃厚な者が住む御所に乗り込んだら、玉藻がシクシク泣いていたから、わしはそっと引き戸を閉めた。
おそらく、玉藻は自分の10本になった尻尾を王妃様方に売って、わしを京に呼び寄せたのだろう。たぶん一晩中モフられたから、王妃様方は顔がほころび、玉藻はレイプされた感じになって泣いていたのだと思う。
そんなことするから悪いんじゃ。
わしには見せてもくれないのでかわいそうとは思わず、ざまぁみろと思いながら帰宅するのであったとさ。
秀忠の猫クラン研修を始めて10ヶ月。人型では一軍と同等の力を付けたので、違う訓練も入れてみよう。
「ボチボチ獣型もやって行こうと思うんにゃけど、どうかにゃ?」
「そうだな……侍の勘もかなり良くなったし頃合いか」
「んじゃ、早く獣型に慣れるために、1ヶ月ぐらいは獣の姿で生活しようにゃ。先生も用意したにゃ~」
わしの後ろには、コリス、リリス、猫兄弟がいるから最強の布陣だ。
「見て盗めと言うワケだな」
「うんにゃ。ご老公の技も、わしがある程度教えられるからにゃ。とりあえず、今日のところは獣どうしの遊びでもやろうにゃ。慣れないことには戦えないからにゃ」
「あい、わかった」
秀忠はすぐに了承すると、変化の術を解いて四つ足のタヌキに戻る。コリスたちと走ったりじゃれ合ったり噛まれたりして、ヘトヘトになるのであった。けっこう楽しそうだったな……
その夜、キャットタワーのリビングでは……
「これ! どこを触っておるのじゃ!!」
「「「「「モフモフ~~~!!」」」」」
そんな巨大なタヌキがいたのなら、猫ファミリーがモフらないワケがないのであったとさ。




