猫歴90年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。お酒は好きだけど、偉い人との飲み会はそんなに好きじゃない。
三年に一度の君主だけの大宴会はまだまだ先だから置いておいて、世界金融会議は大成功。株取り引き発祥の地、アメリヤ王国に学びに行く人も増えたそうだ。
そのことをサヴァンナ女王から自慢されたと思ったら、人手が足りないから猫の手を借りたいんだとか。そんなの知らんがなとスマホを切ったら、またイサベレに電話が行った。仲いいのかな?
これも王様の仕事と追い出されてアメリヤ王国に行くと、混乱中。世界金融会議の模様は全世界でもニュースになっていたから、アメリヤ王国の特集が組まれて観光客が一気に増えたみたいだ。
そんなことになるとは思いもよらなかったので、インバウンドに備えていなかったから、宿も人手も足りなくなってるんだとか。もちろんわしの仕事は、旅行客の対応。王様の仕事でも株取り引きの先生でもありませんでした……
サヴァンナからもなんとかしてくれと取り急ぎの経費を握らされたので、砂浜から遠いが海が見える王都の北側と南側の門の外に、200人が泊まれる規模の建物を建設してやった。
あとは猫の国から、短期のリゾートアルバイトを募ったら一瞬で定員オーバー。他国にタダで行けてお金が貰えるのだから、夏休み中の学生が殺到したのだ。
仕事内容が、掃除、洗濯、ベッドメイキングぐらいって簡単だからってのも応募の理由らしい。食事はレンチンか外で食べてもらえば楽だからね。
急ぎだから早い者勝ちで連れて行き、アメリヤ王国で宿屋で働いている次男次女とかにあとは丸投げ。いちおう就業時間は短めってのは守らせて、学生にはアメリヤ王国の暮らしを学んでもらうのも狙いだ。
「にゃんでみっちゃんがいるにゃ?」
その中にウサ耳ミテナが紛れ込んでいたのでわしはビックリ。アルバイトのリストは猫ファンドの社員に任せていたから気付かなかったの。
「にゃんでって……友達と一緒に思い出作りよ」
「本当にゃ? ちゃんと働けるにゃ? お客さんに無理難題言われるかもしれないんにゃよ? できるにゃ??」
「そんなに心配しないでよ~~~」
そりゃミテナは元女王様。庶民の暮らしを17年やっていたけど、アルバイトなんてしたことがないのだから、わしが心配するのは当たり前。
ミテナが心配すぎて、わしは初めて覗き魔法を使って監視するのであった……
「人に指示するだけでにゃにもやってないにゃ……」
「……へ? シラタマちゃん? いまの声シラタマちゃんよね!? どこにいるの~~~!!」
でも、ミテナはアルバイトの頂点に君臨して指示だけしかしてなかったので、わしは一言だけ耳元で告げて、そっと立ち去るのであったとさ。
わしが手伝うことでアメリヤ王国は平穏を取り戻し、夏が過ぎると旅行客も減ったので平常運転に戻る。
わしはリゾートバイトの終わった日焼けした学生に、1人1人手渡しでお金を配っていたら「王様が何してるんですか?」と質問されまくった。わしが聞きたいよ……
ミテナからは「シャチョー! お疲れっした~!」と元気良く挨拶されたから、学生たちが同じように挨拶して行くじゃろ……王様です!
ちなみにわしは、簡易ホテルを2軒経営していたから、けっこう儲かりました。その額をサヴァンナに報告したら税金取られたけど……5割は取り過ぎじゃね? まだ協力料も貰ってないんじゃけど~~~??
これはサヴァンナの冗談。協力料もくれて税金もナシ。建物もノウハウも買い取ってくれたからウハウハ。毎年夏には猫の国からリゾートバイトも募集してくれるらしい。
これは一夏で相当儲かったな……
猫歴89年は世界金融会議や、君主との宴会やアメリヤ王国のゴタゴタに巻き込まれて大変な年であったが、秋になるとそれも落ち着く。
株取り引きも首相に丸投げしておいたから、いいようにしてくれるだろう。いちおうアドバイザーで、シャーロット元女王に来てもらったから、法整備を疎かにすると大変なことになることもわかったはず。
その原因のズールイが、猫の国にいるのだから……
そんなこんなで猫会をウトウト見つつ猫クラン活動もボチボチやっていたら年は替わり、猫歴90年となった。
今年こそ何事もありませんようにと祈ったのに、1月の後半に大物がわしを訪ねて来やがった。
「どうか、私も猫クランに入れてくれ。何卒、宜しく申し上げる!」
この畏まって土下座する、紋付き袴を着たデカイ三尾の白タヌキは、現征夷大将軍、徳川秀忠。また厄介事が舞い込んで来たとわしはため息だ。
「ご老公からも昔頼まれたからいいんだけどにゃ~……でも、にゃんでこのタイミングで来たかの理由だけは聞かせてくれにゃ」
「ああ……最近、玉藻様を見掛けないから、何かあったのかと思いまして……」
「間者を放って調べたってところかにゃ?」
「はい。猫の国に名代様が度々現れているのは確認しております。つまり、京にいる名代様は偽物。本物は、猫クランに入っていると推測したしだいです」
「パーフェクトにゃ~。てか、玉藻もちょっとは顔出せよにゃ~。そりゃバレるにゃ~」
ちょっとぐらい玉藻の味方をしてあげようかと考えたけど、ここまで調べあげられていては反論もできねぇ。わし、悪くない。
「とりあえず今日は歓迎会するにゃ。クラン研修は明日からにゃ~」
「はっ! 感謝いたす!!」
こうして秀忠は、宴会の席で気分よく酒を煽るのであっ……
「ちょっと頼みごとがあるんにゃけど……」
「はっ。私にできることならなんなりと」
「じゃあ、元の姿になってみんにゃに撫でさせてくれにゃ~」
「はい?? これ! 女子が男の着物を脱がすでない!!」
「なんなりと」なんて言うのが悪い。コリス筆頭に王妃様方から服をひんむかれモフられまくって、猫クランに入ったことをもう後悔した秀忠であったとさ。
翌日からは猫クラン研修と行きたかったが、王妃様方の強い要望で猫クラン組手から。秀忠はたいした魔法が使えないから、ソウの訓練場でもいいと思ったけど、後衛組がやらかしそうだから猫帝国近くの広場で行われる。
最初は秀忠もやる気満々だったが、一軍にボコボコにされて4日後には意気消沈だ。
「にゃはは。手も足も出なかったにゃ~」
「わかっていたが、実践になるとここまで強いとは……しかし、ただの人間でこれほど強くなれるのだ。私ならもっと……」
「うんにゃ。強くなれるにゃよ。明日は一軍最後の1人、ベティにゃ~」
「べ、ベティ……あの卑怯者との再戦、夢にまで見ていたぞ! 私の命に替えても、あの世に道連れにしてやろうぞ!!」
「模擬戦に命は懸けないでくれにゃい?」
秀忠もベティ被害者。再戦と聞いてメラメラ燃えているからやらせるのは怖いが、翌日にはベティVS秀忠の猫クラン組手だ。
「ねえ? シラタマ君……将軍さん、めちゃくちゃ殺気放ってるんですけど~??」
「関ヶ原で汚い戦い方したからにゃろ」
「また~? 逆恨みなんて、勘弁してよね~」
「そう思うにゃら普通に戦えにゃ。将軍にゃら余裕にゃろ」
「それも面白くないしな~……」
「ベティより強くなってから泣き付いて来ても知らないからにゃ~?」
「確かに! 市中引き回しの刑はイヤ~~~!!」
目の前にいるのは、現役の征夷大将軍。いまさら相手にビビッて、普通に戦うベティであった。
「クッ……何故だ! 何故そんなに強いのに、あのとき汚い戦い方なんかしてたんだ~~~!」
普通の戦い方でベティが圧勝したから、秀忠はよけい傷付いたみたい。なのでベティはわしをジト目で見てる。
「将軍さん。怒ってるんだけど~?」
「ベティの蒔いた種にゃろ~。これから先輩として、自分の手で名誉を回復しろにゃ~」
「えぇ~……トラ柄にしてあげたら怒りは減るかな?」
「インホワと将軍様を一緒にするにゃ~」
ベティは何を考えてるんだか。将軍にそんな不敬を働くと、打ち首獄門は確実。そのことを思い出させてあげたけど、ベティならやりかねないと思うわしであったとさ。
気を取り直して、翌日からは猫クラン二軍の登場。ここは秀忠も善戦していたけど、全敗で自信喪失。オニタと正面から殴り合って負けてたもん。
三軍からも、まさかの負け続き。秀忠が勝ったのはシゲオとグレタとノルンだけだったので、めっちゃイジケてらっしゃる。心なしか一回り小さくなったな……
「どうして私はこんなに弱いのだ……グスッ」
「そんにゃことで泣くにゃ~」
「な、泣いてなどおらぬ!」
「どっちでもいいにゃ。それより課題が見えたにゃろ?」
「あ、ああ。遠距離攻撃に弱い。近付きさえできれば勝てたのに……」
「それがわかっただけでも重畳にゃ。ただしにゃ。後衛は接近させない訓練もしてるからにゃ。頭を使わないと近付けないのも覚えておけにゃ」
「はっ!!」
これにて、猫クラン組手は終了。秀忠の弱点もわかったのだから、それを踏まえて猫クラン研修を始めるのであっ……
「ところで名代様は組手に参加しないのか?」
「玉藻前はいいんじゃにゃい? どうせ負けるんにゃから」
「まぁ、その可能性は高いから、いまやるのもアレか……しかし、一度も顔を見ていないのも気になる……こんな弱い私には興味がないと言うことなのか……」
「玉藻前にゃら、いつも見てたにゃよ?」
「はい? 見てた??」
「あそこにいるにゃ~」
わしが指差した場所には、マンモスの一団。暇なのか今回の猫クラン組手はけっこうな数が見に来て、各々寝転んだり身を寄せ合ったりしている。
「どこにも人間はいないが……」
「あそこにゃ。あそこに白キツネがいるにゃろ?」
「ああ! 一匹だけ変なのがまざってると思っておったのだ!?」
「玉藻前も挨拶ぐらいしに来たらいいのににゃ~」
やっと玉藻前に気付いた秀忠は、自分から挨拶に行くのは嫌みたい。せめて人間の姿なら行ったのにとも言ってました。そりゃそうか。
「それはそうと、なんでマンモスの群れにまざっているのだ??」
「にゃんか居心地がいいらしいんにゃ。仕事も忘れて伸び伸びできるとも言っていたかにゃ~?」
「気持ちはわからないこともないが……」
「将軍は野生に帰るにゃよ? わし、ご老公になんて言っていいかわからないにゃ~」
「う、うむ。帰るワケなかろう」
長年政務に携わっていたお二人なら、仕事を忘れて自然を感じたい気持ちはわしもわからないでもない。しかし日ノ本ナンバー3とナンバー4を野に帰したら、玉藻と家康がタッグを組んで乗り込んで来る未来しか見えない。
わしは秀忠の着物を掴んで、猫の国に連れ帰るしかできないのであった。




