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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴50年~

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猫歴89年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。東の国の裏切り者ではないし、そもそも国民でもない。代々の女王はわしの国籍返上を認めてくれないけど……


 久し振りに世界金融会議があると聞いたミテナは、経緯を説明してもわしを裏切り者扱い。なので猫の国の王なのだから、国の利益を優先するのは普通のことだと正論で諭したけどモフられただけ。

 この日からミテナはすこぶる機嫌が悪く、わしを雑に撫で回す。


「こういう時は、距離を置くんじゃにゃいの?」

「話し掛けないで! この裏切り猫!!」

「いい加減、機嫌直してくれにゃ~」


 そんなミテナの怒りが冷めるのを待っていたら、わしが屋上で独り酒をしている時にエティエンヌが寄って来た。


「にゃに~? 王子君もアンちゃんににゃんか言われてるにゃ~??」

「ははは。このタイミングだとバレますよね」


 エティエンヌは東の国のスパイのクセに、申し訳なさそうに頭を掻きながらゆっくりと腰を下ろした。なのでわしは、そっと偽造イスキアワインを差し出してあげた。


「姉も歳ですからね。フランシーヌは孫の即位姿を見せてあげたいみたいでして、相談を受けていたのです」

「アンちゃんにゃ~……こないだ会った時は元気だったけどにゃ~」

「それでも残された時間は、あまりないはずです。それは、私も……」

「寂しいこと言うにゃよ~」

「サクラさんを残して行くのは、私も心残りです……」

「わかったにゃ。にゃんか功績やればいいんにゃろ~」


 こんな脅し方されると、わしも弱い。しかし、技術や制度でいい物は残っていないことは事実だから、何も思い付かないです。


「即位した新しい女王に用意してくれたら、それで満足してくれると思いますよ」

「いったいわしは、いつまで東の国に(たか)られるんにゃろ?」

「フフフ。それは末永く……千年後まで宜しくお願いします。フフフフ」

「無茶言うにゃよ~。ない袖は振れないにゃ~」


 エティエンヌにもしてやられたわしは、これから東の国はどうなって行くのかと、酒を飲みながら大いに語り合うのであった……



 ミテナとの仲はなかなか元に戻らなかったが、そろそろフランシーヌが退位することをリークしたら、ちょっとは戻った。

 そこから新女王にプレゼントを考えていることを告げたらモフられた。東の国に利益があるから、やっと許されたみたいだ。まだ何も思い付いていないけど……


 今までモフっていたのに、仲直りしたからってさらにモフるミテナにモフられまくっていたり、猫クラン活動をしたり、モフられながらお昼寝していたら、猫歴89年の8月1日となり、世界金融会議が開幕した。

 例の(ごと)く、初日はレセプションパーティー。アメリヤ王国発案の議題だが、猫の国が名を連ねているから全ての国が参加だ。


 ミテナも学校をサボって、会場のハンター協会総本山までついて来てる。たぶん、わしを見張りに来たのだろう。高級な新作ドレスも集られました。

 ずっとわしの(そば)にいるので、猫の国の王族と勘違いされて他国の王族に喋り掛けられ、すっごい王女様っぽい返しをするから求婚までされていたけど、ミテナは平民だよ? ウサ耳を見てわからんのか?


 東の国からの出席者は、フランシーヌ女王と次期女王のリディアーヌ。もうエティエンヌから話が行っているらしく、笑顔でモフられました。

 日ノ本の参加者もいたのでわしから挨拶しに行ったら、念話でヒソヒソ話だ。


「玉藻だよにゃ? 立派にゃお胸はどこに行ったにゃ??」

「娘に化けておるんじゃから、よけいなことを言うでない」


 そう。玉藻が娘をマネて、貧乳になっているからわしもツッコミたくなるのだ。


「尻尾が10本になったんだってにゃ。わしにも見せてくれにゃ~」

「そちは馬鹿なのか? 何回同じことを言えばわかるんじゃ」

「だって~。見たいんにゃも~ん。期間空けたらポロッと見せてくれるかもしれないにゃ~」

「見せんと言ったら見せん!!」


 玉藻が増えた尻尾を見せてくれないから、わしもしつこいのだ。そのことを念話でしつこく聞いていたら、ついに玉藻も手を出してしまい、パーティー会場は騒然となるのであった。

 あとで「じゃれてただけ」と説明したけど、王妃様方からも他国の人たちからも、ビンタされていたから浮気と受け取られてしまったわしであった。



 翌日は、世界金融会議の重要な会議。アメリヤ王国のサヴァンナ女王と一緒にわしも壇上に登り、会議の進行を見守る。

 女王みずからプレゼンしたりディベートもしているからか、各国の君主は「サヴァンナ女王、(あなど)(がた)し」と感心したような危険視しているような顔になっている。


 そのプレゼンが続く中、東の国組の視線が痛い。めっちゃわしを睨んで来る。

 そりゃそうだ。株取り引きを活発化した結果、アメリヤ王国の経済が5年間で倍近くも上振れしていると、キッチリしたプレゼンで見せ付けられたのだからな。


 でも、わしは関係ないと言ってるでしょ? そんな「殺す殺す」とブツブツ言わないでください。


 お昼休憩を挟んでからは、システムのお話。フユはやってくれないのでわしにオファーが来たから、アメリヤ王国のシステムエンジニアにわしが教え込んで喋らせている。

 なのに、東の国組はわしを睨む。心なしか、君主は全員わしを睨んでいるように見える。また猫の国が儲かることしてるもんね。


 その視線に負けたのは、何故かシステムエンジニア。わしは寝たフリしてやり過ごしていたのに、「続きはシラタマ王から」とか言って下がりやがった。


『え~と……ここからかにゃ? 世界中で株取り引きをするっての……わかったにゃ~』


 サヴァンナにも「責任取れ!」と背中を押されたわしは、渋々資料を確認してからプレゼン。その間も君主の視線が突き刺さるから、わしの全身は穴だらけだ。


『さっきからにゃんなの? わしに文句あるにゃ??』


 あまりにも無言の圧が強すぎたので、わしも半ギレで反論だ。


『世界金融会議に毎回わしは主催者側にいるけど、わしはいつも手伝っているだけにゃ。確かに儲かってるけど、それのにゃにが悪いにゃ? てか、わしが儲かってるの、お前たちも悪いんだからにゃ』


 わしがギロッと睨むと何人かは目を伏せたけど、それは少数派だ。


『お前ら、わしが知恵を与えてやったのに、全然成長しにゃいんだからにゃ。民を押さえ付けて新しいことに挑戦しにゃい国なんか成長するワケないにゃ~。成長したのは東の国とアメリヤ王国だけにゃ。

 だから、紙幣、為替、株取り引きといった画期的にゃことをやれたんにゃ。わしを睨む前に、画期的にゃことを生み出した天才をわしの前に連れて来いにゃ。そしたらいくらでも手助けしてやるにゃ~』


 しかし、わしが説教すると全員目を伏せた。アメリヤ王国組だけはウンウン頷いているからわしと同じ気持ちみたいだ。

 東の国は……意気消沈って感じ。褒められた国に入っていたのに、功績は全てわしから奪ったもんね。


『キツイ言い方して悪かったにゃ。この会議が終わったらわしはしばらく残るから、みんにゃで酒を飲みながら未来について語ろうにゃ。では、続きはさっきの……』


 これにて、わしは上手くバトンタッチ。各国の君主はわしの言葉が心に響いたのか、真剣にシステムエンジニアのプレゼンを聞くのであった……



 世界金融会議は、他国は国営企業ばかりなのでどうするかを話し合って、次回の実務者レベルの会議で返答することで決定。

 あと2、3回ほど話し合ってから、民間企業が多い国から株取り引きに参加して行くことも決まった。

 もちろん法整備もアメリヤ王国を参考にすることになっているけど、他国の法律に介入するのは難しいから、各国の君主がどう動くかはわしにもわからない。


 会議が終わったその日から、暇な君主はわしと一緒に毎日酒盛り。忙しいからって一度帰った王様も「まだやってる?」と電話して「やってるやってる~」と聞いたら訪ねて来る。どうしても来れない人は、リモート飲みだ。

 何を話してるかと言うと、ほとんど吞兵衛(のんべえ)の会話。未来に繋がる話なんて、酒飲みながらできるか。愚痴ばっかりだ。


 やはり君主ってのは孤独な職業なのだろう。同じ悩みを持つ人間がこんなに集まっているから、愚痴が漏れても仕方がない。

 それが楽しいからって、毎年酒盛りしようと提案する王様もいる。過半数は「それいいな!」となっていたけどわしが止めました。税金で飲む酒は、わしは美味しくないもん。


 良心的な君主はわしの案に賛成に回ってくれたので、落とし所。3年に一度の君主会議が決定した。内容は非公開でただの飲み会だけど……



 酒盛りが終わったのは1週間後。わしがベロンベロンで帰って来たら、小さい子は逃げてったらしい。

 王妃様方は、いちおうわしが王様らしい仕事をして来たのだから優しく揉み洗いして、キャットタワーの空中庭園にテントを張って、そこにわしを隔離した。酒臭くてすいません……


 そこで看病されて、二日酔いから復活したのは次の日の夜。食堂に顔を出したら、家族全員から指差されて笑われた。


「にゃ~? また誰かわしの顔に落書きしたにゃ??」

「にゃはは。オヤジが真面目にゃ顔で説教してたからにゃ~。一番王様らしいくないのに、どの口が言うにゃ~。にゃはははは」


 理由は、インホワが言った通り。世界金融会議で「シラタマ王、他国の君主を叱責する」というタイトルでニュースが流れてたから、家族はそんなわしをめったに見ないから笑ってたんだって。


「こう見えて、わし、アイツらより年上にゃよ? 年齢だけで言ったら、一番王様らしくにゃい?」

「年上にゃ……ブッ!?」

「「「「「にゃははははは」」」」」

「見えないよにゃ~……はぁ~」


 こんなちっさい白猫では伝わらず。何を言っても笑われるので、わしは静かに晩メシをムシャムシャするのであった……



 その夜、散々笑われたわしは屋上の離れに逃げて、酒瓶を横に置くだけ置いて夜空を見上げていた。


「シラタマさん。少しよろしいですか?」


 そこに猫耳ウロがやって来たので、わしは手だけで座るように促した。


「私はシラタマさんのこと、カッコよく見えましたよ」

「う、うんにゃ……ありがとにゃ」


 男にそんなことを言われると、そういう趣味かと思ってしまうのでわしは微妙な顔だ。


「ニュースでは、君主だけの宴会が行われていたとなっていましたけど、その意図はどういうことだったのですか?」

「あぁ~……内容は非公開だったにゃ。未来について語る予定だったんにゃけど、愚痴大会になってしまってにゃ~。それが楽しいからって、三年に一度、大宴会をすると決まったんにゃ」

「それはまたなんとも面白い取り組みで」


 ウロはお酒を盃に注いで渡そうとしたけど、わしは首を横に振って飲むように勧めた。


「うん。美味しい」

「それで、面白い取り組みってにゃに?」

「ああ。そうでしたね。G7やG20のようではないですか。この世界では、君主どうしが集まることも少ないのですから、切っ掛けはなんであれ、話し合いをする場ができたのは素晴らしいことだと思います」

「にゃるほど……わしたちは繋がりが薄かったんだにゃ……だから他国の発展にも無頓着にゃんだ……」

「かもしれませんね。ですが、これからは違います」

「うんにゃ。世界中の君主が仲良くなれるように、いい酒にするにゃ~。乾杯にゃ~」

「乾杯」


 やはりウロは王様のアドバイザーに持って来いの人材。わしは飲むつもりのなかったお酒を注ぎ、ウロとしっぽりと飲むのであった……


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