猫歴88年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。シャッチョサンではない。
猫さんのお絵描き屋さんは順調に利益を上げているけど、わしが訪ねたらいつもスタッフウサギが「シャッチョサン」と呼ぶから何故かと聞くと、ベティ&ノルンのせい。
こう呼ぶとわしが喜ぶからと、言わせていたらしい……裁判に勝ったからって調子に乗ってるな。面倒だから端金をくれてやっただけじゃ!
猫歴87年は王妃様方の出産から、赤ちゃんに色付け。関ヶ原に参加して、カラーリング屋さん開業という盛り沢山の年。リータの100歳の誕生日もあったけど、本人はなんとも思っていなかったから割愛しました。
年が明けた猫歴88年はゆっくりした年になるようにと日ノ本の神社で祈ったのに、新年早々、猫クランに加入したいと言う人が現れた。
「シラタマちゃん……ご指導ご鞭撻、お願いしにゃす!」
元さっちゃんこと、ウサ耳ミテナ15歳だ。
「いや、このこと、去年散々やり合って、進学するってことで解決したにゃろ? にゃにまたぶり返してるにゃ~」
いや、ミテナは今年高校生。入学式もやったのだから、目立とうとやってるようにしか見えないよ。
「高校生でも、猫クランに入れるんじゃないかと思って……高校からはアルバイトしていいんでしょ?」
「いいんにゃけど、うちのクランはアルバイトは取ってないにゃ。学生は学生らしく、勉強して友達と遊んでろにゃ」
「インホワ君やオニタ君は中卒で猫クラン入ってたじゃな~い。リリスちゃんに至っては小学校も行ってないでしょ~。私も猫クランに入れてよ~~~」
「にゃん年前の話してるにゃ。時代は変わるんにゃ。てか、揺らすにゃ~~~」
ミテナはワガママさんになっているが、猫クランに加入する人はマジでいるので、ちょっと待って。
これから1ヶ月後に、猫クラン加入希望者がやって来たのであった……
その日はわしがお昼寝していたら、エミリにお客が来てるとモフられて、キャットタワー最上階の離れで話をしていた。
「玉藻前が、うちのクランににゃ~……」
そう。猫クラン加入希望者は玉藻の娘、五尾の狐耳スレンダー美女の玉藻前。おそらく400歳代。何も前触れもなくやって来たのだ。
「てか、にゃにが目的にゃ?」
なのでわしはめちゃくちゃ警戒している。
「母上から強くなって来いと言われたしだいです。何卒、ご指導ご鞭撻のほどをお願い致します」
「玉藻からにゃ~……確かに、前に鍛えてやってくれと言われた記憶があるにゃ。もしかして、玉藻ににゃんかあったにゃ? それを包み隠さず話すにゃら、稽古付けてやるにゃ」
「やはりそうなりますか……」
わしが渋るのは、玉藻の予想通り。玉藻前は、この質問が来たら話すように言われていたらしく、本当に包み隠さず話をしてくれた。
「尻尾が10本になったんにゃ……」
「はい……お婆様はそれから50年後に亡くなったらしく、母上も焦っているのです」
「前も玉藻に言ったんにゃけど、50年もあったら焦るの早すぎにゃい?」
「ですよね? 私も、どう感情を持って行ったらいいかわかりません。お別れは悲しいですよ? でも50年は悲しみが持ちませんよ~」
「だよにゃ~」
そんな心情なのに、玉藻は玉藻前を御所から追い出したとのこと。ちなみに名代の仕事は玉藻が受け持ち、30年以内には帰って来るように言っていたらしいけど、それも長すぎるわ~。
「ま、自分の死が近いから、ご老公に匹敵するようにしてくれってことだにゃ。わかったにゃ~」
「ありがとうございます!」
「とりあえず今日は、歓迎会にゃ~」
猫ファミリーがほとんど揃ったら、歓迎の宴。皆は玉藻前を歓迎していたけど、手はワキュワキュしてる。
酒が深くなると玉藻前も気が大きくなったのか、2メートルオーバーの五尾の白キツネになって、皆にモフモフされてコロコロと喉を鳴らすのであった。
そういえば、玉藻前はリータたちに撫でられるの好きだったな……
それを見ていたわしは、王妃様方の浮気現場を見せられている微妙な気持ちになるのであったとさ。
翌日は、さっそく猫クラン研修にしようと思っていたのに、アンクルチームがやりたいことがあると言うので延期。
今日のところは、玉藻前とコリスを連れて猫帝国に転移。そこから開けた場所に全員連れて行って話をする。
「ここは……」
「小説の北極編って知ってるかにゃ? それに出ていた阿修羅との戦闘現場にゃ」
「あの阿修羅ですか。好きな巻です。ここだったのですね」
「それは話が早いにゃ~」
「ところで阿修羅って、どれぐらい強かったのですか? 母上でも勝てますか??」
「わしでもギリギリだったからにゃ~……その当時の玉藻では勝つことは難しかっただろうにゃ。でも、いまにゃらわしも玉藻も楽勝にゃ~」
場所の説明で話が盛り上がってしまったが、こんな話をしに来たらワケではなかった。
「クラン研修に入る前に、ちょ~っとやってもらいたいことがあるんにゃ」
「入団試験のようなモノですか……」
「いや、もうクランには入っているにゃ。メイバイたちが、いまの玉藻前と戦って、順位をハッキリ決めたいと言っていてにゃ~……申し訳にゃい。全員と戦ってくれにゃ」
「そういうことですか……私も関ヶ原での勝敗は気になるところがあったので、受けて立ちましょう! ベティとの雪辱戦は、願ったり叶ったりです!!」
「玉藻前もそっち側だったんにゃ……」
わしはまた脳筋が増えたと頭を押さえ、猫クラン組手の開始を告げるのであった。
「か、勝てない……」
猫クラン組手が始まってから4日。コリスに簡単に倒され、イサベレ、リータ、メイバイとの激闘にも敗れた玉藻前は、早くも自信喪失だ。
ちなみにこんな人気の無い場所で一日置きに対戦相手を変えているのは、イサベレたちが玉藻前の戦闘を見ると目新しさが無くなって真剣勝負が台無しになるとか言っていたから仕方なくだ。
「まぁいま当たっているところは、うちの一軍だからにゃ。簡単に勝たれちゃ、わしも困っちゃうにゃ~」
「うぅ……関ヶ原での負けはマグレじゃなかったんですね……」
「そう卑下するにゃ。コリス以外は、どっちに転んでもおかしくなかったにゃ。でも、経験の差がどうしてもにゃ~……」
「私のほうが長く生きてるはずなのに……」
「今まで強敵と当たって来なかったにゃろ? その差にゃ。さ、明日はベティにゃ。早く帰ってコンディションを整えようにゃ~」
「ベティ、許すまじ……」
ベティの名前を出したら、玉藻前は元気復活。キャットタワーに帰って五尾の白キツネに戻り、リータたちからマッサージされて疲れを取る玉藻前であった。
「ねえ? あの子、めちゃくちゃ殺気飛ばして来るけど、他の人とも殺し合いしてたの?」
翌日、玉藻前と対峙したベティは、恐ろしい殺気を放たれているから勘違いしてる。
「いんにゃ。ベティに負けたことに恨みを持ってるみたいなんにゃ」
「私、何かしたっけ?」
「関ヶ原で汚い魔法使いまくったにゃろ~」
「アレはほとんど潰されたでしょ~」
「最後のほうに、正々堂々戦おうと言ったクセに、ガム弾踏ませて笑ってたにゃろ。そりゃ怒るにゃ~」
「それは戦略でしょ~~~」
確かに戦略としてはアリだけど、騙した上に馬鹿にして笑ったらあきまへん。玉藻前の殺気はいまも膨らみ続けているので、わしは容赦なく開始を告げるのであったとさ。
「あんなのアリ!?」
「実践なんだからアリで~す。プププ」
「シラタマさ~~~ん」
ベティVS玉藻前の試合は、ベティの余裕の勝利。でも、戦い方が汚すぎたので、玉藻前はわしに泣き付いてる。
「確かに汚いけど、そういうところも実力の内にゃ。てか、挑発されて森に入った玉藻前が悪いにゃ~」
「そんにゃ~~~」
ここは黒い森に囲まれた広場。特に戦闘場所は指定していなかったから、ベティは森に逃げ込み罠や不意討ちで玉藻前をボコボコにしたのだ。
「ベティもベティにゃよ? 普通にやっても勝てるのに、にゃんでそんにゃことするにゃ?」
「べっつに~。殺気が怖かったんだも~ん」
「そんにゃことばっかりするから、リータたちに追い付けないんにゃ~」
「リータたちにも勝てるわよ? あとで揉めるけど……」
「揉めるぐらいにゃらやるにゃよ~」
わしの説教は馬の耳に念仏。ベティにまったく響かないので、わしは玉藻前を慰めて帰路に就くのであった。
翌日からは、猫クランランキング7位からの二軍との対戦なので、玉藻前はたまに苦戦することはあったが連戦連勝。ベティに負けたストレスは、上手く発散できたようだ。
一番苦戦したのは、オニタ。魔法が通じていないことに気付くのが遅れたので、かなり時間が掛かっていた。
「ふぅ~……みんな強かったですね~」
「勝利を喜ぶのは構わないんにゃけど、調子に乗っちゃダメだからにゃ? 上には上がいるのを忘れるにゃ」
「うっ……わかりました」
激戦を制した玉藻前は鼻高々だったので、早めに伸びた鼻を折っておく。玉藻に知られたら怒られるのはわしだからな。
「次からは、たぶん玉藻前にゃら余裕の戦いになると思うにゃ。まだ続けるにゃ?」
「いちおう……私に足りないのは経験ですし。皆、違う戦い方をされるので勉強になります。続けさせてください!」
「わかったにゃ~」
玉藻前はわしのいい言葉を覚えていたのだから、いい生徒。翌日からも猫クラン組手は続くのであった……
「弱い! 弱いわ! あははははは」
「ストレス発散のためにやってにゃい?」
でも、玉藻前は笑いながら猫クランランキング17位からの三軍を蹂躙するので、最後は一番経験の少ない3人を組ませて撃退してもらうわしであったとさ。
猫クランの洗練を受けた玉藻前は、最後には反省していたから許してやろう。翌日からは、本格的な猫クラン研修の始まりだ。
「え~。教官のシラタマにゃ。わしの訓練は厳しいけど、頑張って食らい付いて来いにゃ」
「はいっ!」
「んじゃ、ランニングから行きにゃ~す」
今回はわしのボケはナシ。なので猫クランメンバーで見ていた者は、「甘いって言わなかった!」と皆に伝えに走って行った。
それから2日が経つと、玉藻前も訓練がキツすぎて限界が来た。
「あの……これのどこが厳しいのですか?」
いや、言葉のわりに、訓練が温いから文句を言いに来ただけだ。
「にゃ? みんにゃキツそうにするんだけどにゃ~……あ、そうにゃ。玉藻前は強いんだから、一からやっちゃダメだったにゃ~」
「本当に厳しくしてくれるのですよね? 私、強くなりたいんですよ~」
「わかってるわかってるにゃ。それじゃあこれを付けて、ランニングにゃ~」
「またランニング!?」
わしの訓練が甘いし、猫クランメンバーも集まってゴニョゴニョやっているから、新しい訓練に移行してもなかなか信じてくれない玉藻前であったとさ。
久し振りに新作を書いてみました
『銃の知識ゼロの世界で弾丸補充スキルを授かった冒険者、案の定Bランクパーティにクビにされる~ドワーフ娘と出会ってから運命が変わった冒険者のお話~』をよろしくお願いします




