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猫王様の千年股旅  作者: ma-no
猫歴50年~

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猫歴87年その7にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。久し振りの関ヶ原は疲れた……


 猫歴87年8月に行われた関ヶ原は、猫クラン全面協力で行われたのだから、わしはクタクタ。内容以前に、誰もプロレスしてくれない上に玉藻たちにリンチされたのだから当然だ。

 そのおかげで喪に服して沈みに沈みまくっていた日ノ本の民は、活気が戻って経済活動も上向いたらしい。


 悠方上皇の月命日にはわしもお墓に足を運び、民が元気になったことよりも「お前のせいで酷い目にあった!」と、酒をなみなみブッ掛けて帰ったのであったとさ。



 これだけ働いたのだから、わしはしばらくお昼寝生活。猫クランアンクルチームは、多対1が気に入ったのか、無理な訓練ばかりしてる。

 インホワたちも巻き込まれて、超ハードな訓練になっていたから泣き付かれた。


「わしはいつもそのイジメに耐えて来たんにゃよ? それも、全員のにゃ……」

「そのことは謝るからなんとかしてくれにゃ~。後衛にも強要するから、みんにゃ死にそうなんにゃ~」

「にゃんですと!?」


 わしは愚痴ってしまったが、これはインホワのファインプレー。なので慌てて訓練に参加して、アンクルチームの相手になり、皆を逃がすわしであった。



 アンクルチームは最強のわしがちょっと厳しく相手をしたら喜んでくれたので、それ以降はわしばかりを訓練相手にするからインホワたちの平和がやって来た。

 わしの平和はなくなりお昼寝時間も減ったので、またクタクタ。ランクの高い狩り場に連れて行き、そこでアンクルチームのガス抜きだ。


 ただし、本当に危険なので、わしは気が抜けない。アンクルチームの無茶な戦いを見つつ、その他が死なないように危ない時は飛んで行く。

 これでアンクルチームの訓練熱は下がったので、やっとこさお昼寝だ。


 それからは平穏に暮らし、たまには猫の町の視察というか買い食いに出たら、内壁の東門近くに、ウサギ族が行列を作っているお店があったのでわしは気になって近付いた。


「カラーリング屋さんにゃと……」


 看板には「毛皮のカラーリング請け負います」となっていたから、嫌な予感しかしない。

 わしは先頭に並んでいるウサギに謝罪してから、店内に飛び込んだ。


「ベティ! お前にゃろ!!」

「わっ!? シラタマ君か~。ビックリさせないでよ~」


 そう。こんなことをしでかすのなんて、ベティしかいない。でも、ちょっと驚いただけなのは、どこかおかしい。


「にゃ? リータさんたちもにゃにしてるにゃ??」

「お仕事ですけど……」

「にゃ~~~??」


 どうやらこのお店は、王妃様方が出資して、仕事と子育ての息抜きがてら働いているらしい。だからベティはわしが怒鳴り込んでも平気な顔をしていたのだ。

 ちなみに赤ちゃんは、ワンヂェンとかが喜んで見てくれてるんだって。超かわいいもん。


「シラタマ殿も暇なら手伝ってニャー。やってもやっても終わらないんニャー」

「いや、わしは散歩してただけにゃから……」

「ちゃんとアルバイト代出すわよ?」

「わしは王様なんにゃ~~~」


 入ったが最後。わしはメイバイに尻尾を掴まれ、ベティにお小遣い程度の額を握らされて、無理矢理働かされるのであったとさ。



 アルバイトは逃げたかったが、王妃様方が目の前にいるから逃げたらあとが怖いので、渋々カラーリング。わしの前に来たウサギは「なんで?」って顔で服を脱ぐ。

 どんな柄にしたいのかと聞くと、パンフレットを指差して若干のアレンジを言われたから、これぐらいなら絵心がなくてもできそうだ。


 王様にやってもらったと嬉しそうにするウサギを見送り、次々とカラーリングしていたら慣れて来たので、皆はどうかと見たら、ベティ以外はあまり進んでない気がする。

 リータ、メイバイ、イサベレ、エミリもカラーリング魔法を覚えていたから魔力は問題ないはずなのに、妙に遅い。よく見たら、セクハラしてね?


 それからも黙々とウサギに色を付けていたら、客が(まば)らになって来たのですかさずクローズの看板を土魔法で作り、最後尾のウサギさんにはここで最後だと伝えてくれとお願いする。

 その最後のウサギのカラーリングが終わったら、全員集めてミーティングだ。


「とりあえず、こうなった経緯を教えてくれにゃ」

「んっとね。ウサギ従者サービスってのあるじゃない?」


 ベティから語られるカラーリング屋さんの始まり。それはキャットタワーで働いているメイドウサギが、わしたちがカラーリング魔法で遊んでいるのを見て「いいな~」と言ったことから。

 リータたちは「やってあげるよ~」と、モフり時間にカラーリングしたら、たいそう喜んでいたそうだ。それを見ていたベティが「これ、儲かりそうね」と悪い顔していたと思われる。


 ただ、お店を作るには、ホストと子供の施設に貢いでるベティのお財布では心許(こころもと)ない。わしを頼ると絶対に反対するか、社長になれないから諦めた。

 そこで金が有り余っている王妃様方に話をしてみたら、あれよあれよ。出資だけじゃなく、手伝ってくれるようにもなったそうだ。


「にゃるほどにゃ~……」

「まぁ勝手にやったのは悪いと思うけど、新しい産業が生まれたんだから、大目に見てよ。それよりシラタマ君も出資してくれない?」

「こんにゃに儲かってるにゃら、わしが出資する必要ないにゃろ」

「いや、儲かっている今がチャンスでしょ。アメリカにあるウサギ族が住む全ての町に進出したら、私が億万長者になれるのよ!」

「私利私欲がえげつないにゃ……」


 わしの魔法を盗んで勝手に商売していたことは大目に見てあげようと思ったけど、やっぱりやめた。


「進出より先にやることあるにゃろ? 社員教育を徹底してやれにゃ~」

「社員教育って??」

「周りを見てみろにゃ! わしの家族しかいないにゃ! こんにゃので新店舗にゃんかできるワケないにゃろ!?」

「そ、それは、考えてるし……」


 ベティはいま気付きやがったな。家族経営なら、人件費も削れるもんな!


「そもそもにゃ。この店、ウサギ族保護法に違反してるにゃ」

「え? そんな法律あるの??」

「80年前からあるし、にゃん度も改正してるにゃ。訴えられたら、ボロ負けで慰謝料わんさか取られるにゃよ?」

「ちょ、ちょっと待って。何したらダメなの?」


 わしは今日見て目を瞑ったことだけをに伝えたら、ベティは貧相な胸を撫で下ろした。


「な~んだ。撫でたらダメってだけじゃない。そんなの言われなくてもしないわよ~」

「ベティはにゃ……」

「私は…って……」


 でも、後ろからギクッて音が聞こえたので、ベティはゆ~っくりと振り返った。そこには王妃様方が、バツの悪そうな顔をしてるよ。


「あ、あんたたち……まさか資金提供も手伝っていたのも、ウサギさんを撫でるためだったの!?」


 そう。私利私欲はベティだけではない。王妃様方もだ。新しい手触りを探そうと、手伝うフリしてモフりまくっていたのだ。


「あ~……えっと……じゃあ、私たちは出資をするだけってことで……お疲れ様でしたにゃ~」

「「「お疲れ様でしたにゃ~」」」


 さすがに王妃様方はウサギ族保護法を守っていないと言われたのだから、法令を順守してすごすごと逃げ帰るのであった。


「ちょっと! 明日からの営業、どうするのよ~~~!!」


 ベティが始めたお店は、開始1週間ほどでスタッフゼロになったから、廃業の危機に(おちい)るのであったとさ。



 王妃様方が帰って行ったので、わしも知らんぷりして帰ろうとしたけど、ベティがわしの足に絡み付いて離してくれない。それでも引き摺って街中を歩いていたら、住人に変な目で見られた。そりゃそうだわな。

 それでもそれでも、今回だけはわしは関わりたくない。だが、ベティはホームページに閉店の危機と流したら、嘆願メールが20件も集まったと持って来た。少な過ぎるじゃろ……


 これでもわしが首を振らなかったら、ベティは証券を持って来て「猫ファンドに売ったと書いちゃった」とわしに脅し。

 それがどうしたと思って寝たら、翌朝にはファンド会社に千件の嘆願メールが届いたのだからわしも動かなくてはならなくなった。もうすでに口コミで広がっており、みんなお洒落してモテたいんだって。


 ひとまずこの日は、サクラたちモフモフに興味がない人に「なんでも買ってやる」と頭を下げて、スタッフの勧誘。そしたらいっぱい釣れたので、なんとか店は回りそうだ。


 まさかインホワとシゲオまでやるなんて……武器防具を新調したいのですか。現金な猫ですね……


 カラーリング済みの猫ファミリーがスタッフをすることで、なんだかウサギ族の目が怖い。目がハートになっているけど、トラ柄とギャング柄のどこがいいんじゃろ?

 しばらく見ていたら痴漢する人がいないので、回転率は昨日より倍になっていたから、ここはサクラ店長にあとのことは任せてわしは違う仕事に向かう。


 フユの職場に顔を出して、ホームページの改良。スタッフやアルバイトの募集も掛けてもらう。もちろん、ウサギ族の魔法使い限定だ。

 わしのファンド会社にも行って、スタッフに証券を渡して会議。ベティの話を鵜呑みにするのは(しゃく)だが、おそらくこの事業はウサギ族に大ウケするはず。

 それで終わらず日ノ本やモフモフがいる国からも出店のオファーがありそうだから、資金の準備はしておいたほうがいいだろう。


 猫ファンドにいまいるスタッフは、わしのイエスマンしかいないから「サスニャー!」と褒め称えてくれるのはいいのだが、略さず「さすが猫王様」と言え。馬鹿にしておるのか?

 ホウジツの曾孫ズールイがいないと話は早くて助かるが、少し物足りないこともない。てか、株式の話はどうなってるんじゃろ? このまま向こうに骨を埋めるのかな?



 資金を確保してからは、わしもお店で働いていたら何人か面接に来たので、ほとんど採用。落としたのは、着ぐるみを着た男とウサ耳ミテナだけだ。なんで着ぐるみで受かると思ったんじゃ……


「みっちゃんはどこで知ったにゃ?」

「ホームページで~。カラフルなウサギさんがかわいいって、学校でも話題になってるよ? お姉ちゃんもしたいって。だから雇ってよ~」

「みっちゃんは仕事せずにモフるからダメにゃ。痴漢は犯罪にゃ~」

「そんにゃ~~~」


 ミテナのことは置いておいて、スタッフウサギが4人雇えたので、できるだけ早く来てもらってわしみずから研修。

 カラーリング魔法はそこまで魔力を使う魔法ではないから、1人で20人ぐらいなら受け持てそうだ。ホームページには完全予約制と載せておけば、この4人でも回せるはず。


 研修を終えた頃には、新しいスタッフも入って来たからまた研修。このウサギたちが全員使えるようになったら、ようやくお店は独り立ちだ。

 一番年上のウサギさんを店長に任命して、店を譲り渡すわしであった。



「ねえねえシラタマ君……」


 その夜、わしがゴロゴロしていたら、ベティがスマホを握ってやって来た。


「あのお店、『猫さんのお絵描き屋』って店名になってるけど、どうして? ウサギさんじゃダメなの??」

「にゃんかにゃ。リータたちが最初の出資をしたのは自分たちだからって、命名権を取られたんにゃ」

「プププ。相変わらずリータたちに弱いのね~」


 こうして猫の国に、変な名前のカラーリング屋が開店して、ウサギ族がどんどんカラフルになって行くのであった……


「ちなみに私の取り分って、どうなってるの?」

「無しに決まってるにゃろ」

「なんでよ! アイデアは私なのよ!?」

「その魔法を作ったのはわしにゃ~」

「こうなったら……裁判で決着つけてやる~~~!!」


 ベティとは裁判対決に発展。名弁護士のノルンにしてやられて、500万ネコの示談金を取られたわしであったとさ。


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